自身の「うつ」で7年間、服薬した経験から、うつは薬では治らないと気づき、現在「薬を使わない精神科医」として活躍中の宮島賢也先生に、上手なうつ対策を聞きました──。

〈後編〉では、原因となる“生き方”や人間関係を見直し、うつを根本から解決する方法を伝授します。

 

医師は薬のやめさせ方を知らない

 うつ病の患者さんに対して、多くの精神科医はたくさん薬を出してしまうという実態があると宮島先生。これは、医師は薬の出し方は知っていても、やめさせ方を知らないためだそう。症状がよくならなければ、処方される薬は増える一方なのです。

 また、患者さんも自分は病気だから薬をもらうのは当然で、薬でうつ病が治ると薬に頼る傾向もあります。

 しかし、宮島先生は“薬で症状を抑えるのはもったいない”と言います。

薬を飲めば確かに症状は抑えられることがあります。しかし、症状を抑えることで、その原因になっている仕事や働き方、不安になりやすい考え方を見直す機会を失うことになりかねない。つまり、苦しい状況に居続けることになりかねません

 うつの症状は“今の生き方が苦しい”と教えてくれている、身体からの愛のメッセージ。だから、薬で症状を抑えるよりも、症状の根っこにある不安や苦しさを感じる原因や感じ方を取り除くことのほうが大切だということです。

 では、薬に頼らずに、どのようにうつを克服できるのでしょうか。

「うつになる人は、イヤなことやよくないことばかりに目がいき、うれしいことや楽しいことに目が向かなくなっている傾向があります」

 と宮島先生。困難な状況に立たされたときに、“つらい”と思うか、“成長のチャンスだ”と感じるかは、人それぞれ。まずは、ネガティブな考え方を変えることが大切なのだとか。

ポジティブな言葉を口グセにする

「考え方を変えるには、普段使う言葉をポジティブなものに変えるのがおすすめです。例えば、“忙しい”は“充実している”に。“大変だ”は“いいチャレンジだ”というようにです」

 また、ポジティブな言葉を使うのもおすすめだそう。

「日々の出来事に対して、それがとりたててプラスの感情でなくても、“うれしい” “楽しい” “ありがたい” “よかった” “幸せ” “ステキ”などの言葉を口グセにすると、日常の感じ方が確実に変わってきます

 そのほか、ネガティブな気持ちのときに実践すると心が軽くなる方法に、YSメソッドの開発者・佐藤康行先生の『完璧 愛ポスト』というものも紹介してくれました。

「まず、ノートか手帳につらい過去や現在の悩みや苦しみを書き出します。このとき、いちばん大きな悩み、苦しみを優先します。書き出したら2~3分間、呼吸を整え、記入した悩みや苦しみに対して、これでよかった理由を探して記入。そう思えなかったとしても、どんどん書き連ねることがポイントです。

 例えば、“仕事が遅くて評価されない”という悩みなら、“丁寧にできている” “もっと効率的にやる方法がある” “評価されない人の気持ちがわかった” “仕事で疲れているぶん、家族の笑顔にホッとできる”などです」

 作業が完了したら、次はどれから行動に移すか優先順位をつけます。あとは順位に従って行動していくだけ。よかった理由を見つけるだけでも、悩みに対する感じ方に変化が表れてきます。

うつに効く心の処方箋

 うつを克服するYSメソッドの効果的な方法をご紹介。家族や医療者など周囲の人が、うつの方に敬意をもって向き合うと改善速度はより速まります。

「満月の法則」で満ち足りた自分を前提にする

 夜空に浮かぶ三日月は、本当にそのような形をしているわけではありません。実際の月は真ん丸なのに、光の当たり具合で欠けているように見えるだけ。いつだってまんまるの満月です。これは人間に対しても言えます。

 あなたは何ひとつ欠けていない存在です。何も足す必要のない、満ち足りた満月であるという前提で自分自身をとらえることで、うつは改善していきます。

「美点発見」で相手や自分の長所に目を向ける

「美点発見」は、相手や自分のいいところを発見し、人間関係をかんたんに改善する方法です。まずは、相手の美点や長所、あるいはお世話になったことなど、できるだけたくさん思い出して書く「美点リスト」をつくってみましょう。思いつくままに書き出すだけで、苦手な人、そして自分自身に抱いていたイメージが変わり、隠れていた元気が出てきます。

「これでよかった」を口グセにする

 素晴らしい言葉の魔法があります。それは、「これでよかった」を口グセにすることです。声に出しても心の中でもかまいません。過去に起きたことに「これでよかった!」と宣言してください。何かに失敗して落ち込んだら、すかさず「これでよかったんだ!」と言ってみるのです。

 すると、「そうだよね。このことで人生の幅も広がったし、成長のチャンスが与えられたんだ」と、出来事の奥にある真実が見えます。今あなたの目の前に起きていることは、あなたが人生から受け取れる莫大な財産の源です。「事実・真実を見る」ということです。その「事実」を発見するほど、あなたの苦しみは解消されていくことでしょう。

「心のゴミ」を出して、心の大掃除をする

 生ゴミを押し入れに入れて放置すると、片づいたように見えて、やがて強いニオイに自分が苦しむことに。そしてそのニオイは近所まで届いて他人にも迷惑をかけます。過去のイヤな経験やマイナスの感情といった「心のゴミ」も、心の奥に押し込んでいては、やがてその悪い影響が身体や性格に表れて他人に迷惑をかけることも。

 そういうときは、心のゴミを捨ててしまいましょう。普段は出せない「バカ野郎!」「ふざけるな!」といったマイナス感情を思いっきり紙に書くのです。

 そして最後に、「美点発見」をしたり、「これでよかった」と言って心をリセットすれば気分はスッキリ爽快! ただし、心のゴミを他人に直接ぶつけるのは厳禁です。

「病気の原因」を検証する

 うつになったのは、何か必ず原因があるはず。その原因と思われるものを、書き出していきましょう。「これが原因に違いない」と思うものが出てきても決めつけずに、毎日、何ページも書き続けます。

 出てきたことに対していちいち反省する必要はありません。出し尽くしたら「本当に病気の原因はこれなんだろうか?」と検証します。それをやり続けると、思いもよらない原因に突き当たる場合があります。この作業だけでうつが消えていくこともあります。

「自分に与えられているもの」を発見する

 今、あなたがうつで悩んでいたとしても、あなたに与えられているものはたくさんあるはずです。もし両親がいなくても「まだ夫がいる」「かわいい子どもだっている」……。家族がいなくても「言葉だって話せる」「本も読める」「ご飯を味わうこともできる」「住む場所がある」……。

 そうやって、自分に与えられているものを書き出します。さらに、自分に与えられている長所も書くといいでしょう。「思いやりがある」「笑顔がよい」「教養がある」「人を勇気づけることができる」……。必ずあなたの中の何かが化学変化を起こし始めます。

<プロフィール>
宮島賢也先生(YSこころのクリニック院長)
1973年、神奈川県生まれ。防衛医科大学校を卒業し、循環器内科研修中に1か月の休職。家庭医に転じるも意欲が出ず、精神科を受診してうつ病と診断。7年間にわたり投薬治療を受けた経験から、うつは薬では治らないと気づき、食生活や人間関係、考え方から生き方を変えることの大切さを学ぶ。現在「薬を使わない精神科医」として活躍中。精神保健指定医。認定産業医。自律神経免疫療法研究会会員。著書に『精神科医が教える「うつ」を自分で治す本』(アスペクト)ほか。