「しんどくても、きちっと給食費を納めている保護者はたくさんいます。滞納者の逃げ得を許すわけにはいきません。11月から回収業務の一部を弁護士に委託することにしました。対象者には弁護士から『催告書』が届きます」(大阪市・学校徴収金担当者)
公立小・中学校の給食費未納額が膨れ上がった大阪市は給食費の取り立てに弁護士を使うことを決めた。市によると、2015年度末の未納は5606件で総額約1億1300万円。'14年度末から約5600万円増加した。背景には、市内の中学で全員給食制が導入されたことがある。
しかし、それだけではない。文科省の'12年度サンプル調査によると、全国の公立小・中学校における給食費の未納割合は、推定0・5%にとどまる。大阪市は'15年度の新規未納割合が1・3%と大きかった。
大阪市には「取り立てないのは不公平だ」などの声が寄せられていたという。
「給食費の徴収で学校に負担をかけたくない。といって市職員の人員にも限りがあります。約束してもお支払いいただけなかったり、連絡がつかなくなることもある。長期未納となれば金額も大きくなります。裁判所に持ち込む直前の処理を弁護士に任せることにしました」
と前出の担当者は話す。
つまり、弁護士が最後通告を突きつけるかたちだ。
「ただし、弁護士が自宅に徴収に行くことはありません。取り立てる対象についても今後、慎重に検討します。督促を繰り返しても納付がない長期・高額滞納者などに限られると思います」(同担当者)
業務委託先は入札で決定ずみ。ビジネス法務に特化した法律事務所で、回収額の15%を支払う出来高制だ。対象者の線引きができていないため回収に入っていないが、弁護士は「分割払い」などの相談にも乗り、納付計画を立てる。もちろん、延滞金は発生する。
生活困窮者を追い込むことにならないだろうか。
「生活苦にあえぐ保護者から無理やり回収することはない。そもそも就学援助制度の利用をすすめている」(同担当者)
同市の公立小・中学校の給食費は月額4500〜6000円程度。就学援助制度を使えば、小学生の給食費は全額支給され、中学生も半額支給される。生活保護世帯には全額支給されるため、経済的余裕があるのに支払っていない悪質な保護者が少なくないとみられる。
大阪市に先行して、滞納給食費の回収業務を弁護士に委託した自治体がある。東京・練馬区だ。
「'14年にテスト運用し、翌年から本格実施しています。学校は、生活が苦しくないのに給食費を払っていない家庭を把握している。未納連絡、督促と段階を踏んで、学校長が法的措置の可否を判断しています」(練馬区・施設給食課)
弁護士に業務委託する直前の'13年度に発生した新規未納額は約260万円だった。委託後は、'14年度が約119万円、'15年度が約118万円と半分以下に減った。
「累積の滞納総額はおおよそ500万円です。'14年に発生した未納は現在約50万円まで減りました。でも、幅広くビシバシと取り立てているわけではありません」(同課)
悪質な保護者には弁護士を使ってプレッシャーをかけているものの、本当はそこまでしたくないのが本音だろう。
こうした悩みとは無縁の自治体もある。栃木・大田原市は'12年10月から市立小・中学校の給食費が無料になった。
「市長の公約の一丁目一番地でした。本年度の給食費総額約2億7000万円はすべて市費でまかないます。痛みがなかったわけではありません。職員数を減らす行財政改革を行い、内部で切り詰めて財源を捻出しました」(大田原市・教育総務担当者)
同市が今年調査した保護者アンケートでは、89%が給食無料の継続を望んだという。3年前のアンケートでは「生活費が助かります」という声が多かった。今年は「子どもの学用品購入や部活動に使っています」など、浮いたお金を子どもに使っていることが確認できたという。
子どもにとっての給食とは何か
佐賀・江北町は、ふるさと納税の増収分を見込んで給食無料化の実現を目指す。
「小1と中1はすでに無料化しています。完全無料化には約3000万円かかるので、積極的にふるさと納税を呼びかけたい」(江北町教委)
子どもにとって、給食とは何だろうか。新潟県立大の村山伸子教授(公衆栄養学)は「安定した栄養が保証される大切な食事です」と話す。
「エネルギーをはじめタンパク質やビタミン、ミネラルなど基本的な栄養素が平均的に基準を満たしています。大量調理できるので家庭の食事に比べて品数も多い。
日本人は小学生のときに給食を食べているため、一汁一菜などバランスのいい食事のパターンを身につけています。子どものころの経験は大事です。児童養護施設の職員に聞いた話ですが、魚や野菜に全く手をつけない子どもがいるらしい。家で食べた経験がないからだという。嫌いというより食べられないんです」(村山教授)
子どもの貧困問題に取り組む村山教授は、給食の実施率を上げるべきだと話す。
「だいたい小学校で97〜98%、中学で80%台後半です。特別支援学校や定時制高校も給食を出す。家庭で食べられない子どもがいます。栄養的に問題のある家もある。おにぎりだけ、チャーハンだけ、カップめんばかりとか。どこまで国民の合意が得られるかわかりませんが、子どもの食事に価値を置いてほしい。税金をそっちに使いましょう、となればいい」(村山教授)
給食をめぐっては全国で注目される騒動があった。三重県鈴鹿市では野菜価格の高騰で「給食の2日間中止」が通知され、のちに撤回された。
「鶏モモ肉をムネ肉に変更するなど食材を見直して1日分は確保した。もう1日は調理員の炊き出し訓練を行い、備蓄のレトルトカレーを作ります」(鈴鹿市教育総務課)
札幌市の小・中学校では給食調理用ボイラーの煙突からアスベスト含有の疑いがある断熱材がはがれ落ち、計30校で調理給食が出せなくなった。
「牛乳、パン、ゼリー、チーズなど調理しなくてもすむ簡素なメニューから、他校の協力で温かい1品をつけられるめどが立った。給食費の返還などはこれから検討されるだろう」(札幌市・保健給食課)
学校給食が出ないのは一大事。騒動はそれを証明した。わが家の滞納を知って、ビクビクしながら給食を食べる子どもを出してはいけない。