米国の医療現場では、大麻が使用されていると、医療用大麻解禁派の銀座東京クリニックの福田一典院長は語る。
「米国では数多くの論文で効果が認められている。小児がんにおいても、抗がん剤の副作用が激しいため、大麻を使用して緩和する措置がとられている」
福田院長は、日本でもいずれ、医療用大麻が解禁されていくことを期待する。
「私は医療用大麻の研究をもっとするべきだと思っています。違法な薬物だけに、触れてはいけないような風潮がある。だからこそ有効とされる論文の結果が少ない。
研究が大麻蔓延の温床になる可能性のないよう病院内、研究施設内でしっかりと管理する。そうすることで、研究が進み、患者の苦痛を和らげる可能性が広がるかもしれないのです」
だが、医療用麻薬の専門医である東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長の大津秀一医師は、
「海外では合法化された国もありますが、研究途上にあるというのが現状ではないかと思います」
と、医療用大麻が向き合う今を説明する。
アメリカの医師が参考にするというサイト『Up to date』がある。論文を吟味し、現段階での総合的な判断を示すサイトで、
「その中で今年10月、医療用大麻のがんの痛みの効果に関する項が更新されましたが、研究が少ないことが指摘されています。
よく解禁派の方々が、効果があるとあげる線維筋痛症や多発性硬化症などにおいて、大麻の主成分であるTHCが含まれる既存の製薬剤を投与した結果、プラセボ(偽薬)とTHC製剤とでは有意な差は認められていません。
認知症に関しても、THC製剤で有意差を示せなかったという論文があります」
解禁派は、数少ない科学的根拠の中から、自分たちの趣旨の裏づけになる根拠をチョイスし医療用大麻の効果、安全性を主張する。その際、モルヒネなどの医療用麻薬では人が亡くなっているが、大麻は安全だ、と唱える人もいるという。
「医療用麻薬が、悪いイメージとして使われてしまうのが非常に残念です」
と、前出・大津医師。
「医療用麻薬を違法な麻薬と同じように考える方は多い。だから患者に投与すると(痛みが消え)こんなに効くんだね、しかも意識も清明にちゃんと話せるじゃないかとみなさん驚かれます。適正な量を適正に使用すればさまざまな痛みに対する有効性と安全性は確立されているんです」
アメリカ疾病対策センターの2014年の統計では医療用麻薬の過剰摂取による死者は2万8647人にのぼる。
「医療用麻薬による死者がアメリカで多いのは、不適切で過量な使用が原因です。トヨタの元取締役が医療用麻薬を日本に持ち込み問題になったときも、ひざの痛みで処方されていました。日本では処方しないような理由でも米国では処方することがある。
私の経験上、日本では医療用麻薬が原因で亡くなった患者さんは皆無です。薬物の乱用が問題となっているアメリカだからこそ“大麻程度”なのかもしれません」
と大津医師。だが、医療用大麻の可能性を否定はしない。
「医療用麻薬と麻薬が違うように、医療用大麻と大麻を分けて考えることが必要です。アメリカの事例では、HIV患者の食欲不振が改善されたなど、医療用大麻の有用性が示唆されている分野があるので、可能性はあるわけです。
ひとつの論文で、抗腫瘍効果があるとか、線維筋痛症に効果があるとか即断せず、総合的な判断から冷静に見ていくことが必要ではないかと思うわけです」