医療事故の実態と“まともな病院・危ない病院”の見分け方を特集するシリーズの第3弾。今回は、国際的な医療機能評価『JCI』(後述)の認証を受けている病院の一つ、湘南鎌倉総合病院の副医院長・小林修三先生に、“危ない病院に引っかからない7つのポイント”を聞いた。
①診察と治療で病院を上手に使い分け
“最先端の医療が充実し、優秀な医師が多い”。そんなイメージから大学病院に飛びつく人は多い。でも、この発想は間違いだと小林修三先生は話す。
「高度な治療を受けられ、優秀な医師が多いことは事実ですが、彼らは治療のプロ。大学病院は専門性が高いぶん各診療科の間に壁がある。複数の診療科をまたいで症状を検討するような、診察まで適切にできるとは限りません」
病気になったら、まずは診察を受け、症状を把握することが第1ステップ。大学病院は、ゆっくり患者と向き合って病名を検討する診察には向かないという。
「初診なら、基本的には内科医です。町のクリニック(開業医)か、総合内科という診療科がある内科専門医にかかるといいでしょう。信頼できる“かかりつけ医”をつくっておけば、手術が必要な病気になっても症状に応じて大学病院や同じ規模の総合病院を紹介してくれます」(小林先生、以下同)
②複数の診療科を掲げる医師の得意分野を
「病院全体の評判で善しあしを判断する方が多いですが、病名がある程度わかったあとは、かかりたい診療科ごとに見極めることをおすすめします。産婦人科とひと口にいっても、産科と婦人科のどちらが得意分野であるかによって質が変わってくるということです」
医師の専門分野を見極めるための、わかりやすいポイントがある。
「1人しか医師がいないのに、複数の診療科を掲げている病院なら、最初に表記している科が専門であることが多い。『循環器内科、呼吸器内科』とあるなら、その先生の専門は循環器内科でしょう。一方、『皮膚科、内科』『心療内科、内科』とあれば、医師が複数いない限り、内科診療は“ついでにやっている”と思っていただいて間違いありません」
これは治療法の説明にもいえること。
例えば、『開腹手術』と『腹腔鏡手術』では、先に言いだしたほうが医師の得意分野だ。説明の順番、HPの文量などから医師の本音を読み解こう。
③“手術数でわかる”を鵜呑みにするな
「手術数でわかる」と謳うランキング本を参考に病院を選んだことはないだろうか。手術件数が多い病院は経験値が高いという意味で安心材料になるが、
「病院ごとの年間手術件数には、“誰が何件執刀したか”と“手術の結果”が情報として抜けていることに注意してください。
例えば、腹腔鏡手術で死亡事故が相次いだ群馬大学病院と千葉県がんセンターはどちらも県内で1位、2位を争う手術件数を誇る病院として、ランキング本で紹介されていました。件数が多くても、結果が伴うかは別問題」
とはいえ、手術件数がひとつの指標になることは否定できない。医師数などにも注意を払って判断しよう。
「食道がんの手術なら、年間15件執刀していれば訓練されている。胃がんや大腸がん、乳がんであれば70件以上、子宮がんや卵巣がん、前立腺がんは年間50件以上が信頼できる技術の目安。これらはすべて、1人の医師あたりの数字だと覚えておいてください」
④肩書の多さに騙されてない?
〇〇大学病院名誉教授、××センター長など、立派な肩書に患者は信頼を抱きやすい。肩書と腕のよさは比例するのだろうか。
「私立大学の外科に関しては、技術がなければ上にいけない仕組み。手術件数や手術成績などの実績が問われるため、肩書とイコールの実力であることが多い。ただし、いくら肩書が立派でも年齢が60歳近くになれば、手先の器用さを失います。技術が最も輝くのは、失敗もそれなりに経験した40歳前後。この年齢で立派な肩書を持っている医師がベストですね」
一方、国立大学の外科は論文をどれだけ書いたか、が教授選考で重視される。最近では手技を確認する風潮も出てきたというが、いまだに地方では“俺の後釜は彼でよろしく”という派閥人事や、“学長選で応援してくれたら教授にする”といったパワハラ人事が行われる病院もあるとか。
残念ながら、国立大学の教授でも技術はイマイチ……なんて医師もいるので要注意!
⑤放射線診断医・病理医がいる病院へ
診断の質を決める専門医が常勤でいるかどうかも病院選びのポイントだ。
「放射線診断医が常勤でいる病院では、CTやMRIなどの画像から読影レポートが作成され、それを主治医が確認するダブルチェック体制になります。複数人所属する病院もあれば、1人もいない病院もあるのでチェックしてください」
同様に病理医の存在も重要だという。
「患者さんの細胞や組織を顕微鏡で観察しながら診断をするのが病理医の役目。この病理診断は、がんなどの治療をするうえでも欠かせません。というのも、がんは手術中に悪性か良性かを判断しながら進めなければいけない場合があり、院内に病理医がいることは大きな強みになるからです。
また、麻酔科医が手術中に行う管理が予後のカギを握るという意味で、常勤の麻酔科医がいるかどうかも判断材料のひとつとして覚えておくといいですね」
⑥1人の名医より“チーム医療”で判断
“手術のうまい名医”を軸にした病院選びは失敗しやすい、と小林先生。
「優秀な医師がいても、その力を生かしきれない病院があります。かつて名医だった人が、新しい病院に引き抜かれて以降、能力を発揮できなくなったという話を聞きました。原因は明らかで、周囲の優秀なスタッフのサポートがなくなったから。どんなに優秀な医師でも1人の力には限界がある。
薬の飲み合わせについて“先生、それはまずいです”と指摘できる薬剤師や、しっかり食事を管理する栄養士の存在が重要です。治療の初期段階から、栄養士やリハビリ師が積極的に介入するような“チーム医療”のマインドを持つ病院にかかることで、総合力の高い医療を受けられる。これは命に関わる大きな病気であればあるほど重要だといえます」
⑦最も信頼できる第三者評価の認定
一般の人にはあまり知られていないが、病院選びの情報として、ぜひチェックしてほしいのが、第三者評価。
メジャーなのは『日本医療機能評価機構』の病院機能評価。事故を予防する安全な病院づくりの体制、運営や管理の程度が検証されている。全国およそ8500の病院のうち、2194の病院が認定を受けており(2016年11月10日現在)、同機構のHP(http://www.report.jcqhc.or.jp/)から各病院の審査結果報告書が閲覧できる。
【手順】
①検索ワード=「病院機能評価結果の情報提供」
②都道府県別検索で最寄りの病院を調べる
③病院ごとにまとめられた緑のアイコン(=『評価結果』)をクリック
④ページ下【審査結果】のPDFファイルを開くと、病院の特徴や各項目の5段階評価、課題などが細かく記されている。
さらに厳しい第三者評価を行う『JCI』という米国主体の国際認証もある。
「日本では、現在19の病院が認証を取得しています。審査項目は1200以上で、検察庁のガサ入れのような、ごまかしのきかない調査です。驚いたのは病院内テロや誘拐事件に備えた訓練まで求められたこと。詳細にルールと手順を決めて文書として残します。
ここまでやる病院は少数派ですが、現に日本でも病院内犯罪が起きている以上、今後は世界の安全標準を受け入れる必要があるのではないでしょうか。1200項目を満たしているということが、現時点ではいちばん信頼できるいい病院の判断材料だと思います」
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