歌舞伎俳優・中村吉右衛門主演の『鬼平犯科帳』が全150作品でついにファイナルへ──。12月2日・3日の夜9時から、二夜連続で放送される『鬼平犯科帳 THE FINAL』(フジテレビ系)で、28年の歴史に幕を下ろす。“鬼平”を支え続けた密偵のひとり、おまさ役を演じた梶芽衣子が今だから語る、金字塔を築いたテレビ時代劇の舞台裏とは。
自ら願い出たおまさ役、原作者・池波も太鼓判
「いつの世にも悪は絶えない」……このセリフでピンと来たら、相当の鬼平ファンだろう。
池波正太郎原作の『鬼平犯科帳』は、江戸時代の後期、盗賊・凶賊たちから“鬼の平蔵”と恐れられた、火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)長官・長谷川平蔵を描いた人気時代小説。その鬼平を、歌舞伎俳優の中村吉右衛門が演じて、ドラマがスタートしたのは1989年のこと。連続ドラマとして137本、スペシャルドラマとして12本が放送され、今回の150作目で、ついにファイナルを迎える。
「まさか28年間も続くなんてね。今年のリオ五輪も含めて、オリンピックが7回もあったわけで、すごいと思うでしょう?」
こう語るのは女密偵・おまさ役で、第1シリーズからレギュラー出演する梶芽衣子。
ファイナルでの最後のシーンは五鉄(鬼平や密偵たちが集まる居酒屋)で、梶がセリフを言い、続いて吉右衛門がセリフを言うという順番で撮影された。
「泣いちゃだめだと一生懸命に我慢をして、私はセリフをちゃんと言えたのよ。それで、いよいよラストの吉右衛門さんになってね。ふと隣の伊三次(三浦浩一)を見たら、涙を流している。三浦さんはすごい汗っかきのうえに大粒の涙でしょう。“おやめよ”と言いたかったけれど、吉右衛門さんの目がウルッとしていて……。28年間で初めて鬼の目に涙を見ました」
結局、その場にいたスタッフ、関係者ももらい泣きをしてしまったそうだ。
おまさは、足を洗ったとはいえ盗賊の娘であり、長じて自分も盗賊の仲間に身を置いていた不憫な女である。子どものころから平蔵を思慕しているが報われることはない。それでも一途に凛として生きている姿はどこか梶に似ている。梶がおまさになったきっかけは何だったのか?
「新聞に吉右衛門さんの鬼平がスタートするという記事があって、自分から“ぜひ私を使って”と願い出たんです。まるで私を待ってくれていたかのように、おまさ役がまだ決まっていなかったの。自分がやれることになって本当にうれしかったです」
生前の池波正太郎も、梶の演じるおまさを大いに気に入り「おまさはあれでいい」と語っている。
28年演じた役づくり“鬼平”=吉右衛門
28年にわたって同じ役を続ける大変さとは?
「おまさは36歳の設定。こちらは年をとるけれど、役は年をとらない。10年前ぐらいから、身体がちょっとずつきつくなってきました。密偵は中腰でしゃがむことが多くて、足がふるえちゃう。密偵の仲間と“きている?” “足がね” “やっぱり”が挨拶になりました(笑)。男性の役者さんは年をとっても、太っても、それなりに見てもらえますが、私は太らないようにしていました。あとは照明さんやスタッフのみなさんのおかげです」
吉右衛門は2011年に人間国宝になった。その吉右衛門と長く共演してきて、どんなことを学んだのだろう。
「その一挙一動から目が離せません。吉右衛門さんはきめ細かい芝居をされ、私のようなものの芝居でも受けて返してくださるのです。手を抜かず、まじめで、きちっと芝居をやられる。やることは大胆でも、心のきめ細かさがある鬼平のような方です」
それならば撮影現場は、楽しく和やかだったのか。
「楽しいなんて! 長くみんなでやってきましたが、和気あいあいでもなく、むしろ厳しかったです。ゲストのベテランの役者さんが“ものすごく空気が重いね”って(笑)。それだけ全力で作っていましたから」
ファイナルは、28年間の集大成。前編『五年目の客』(12月2日金曜夜9時~)は旅籠の女将(若村麻由美)が、5年前に遊郭で働いていたときの客と偶然、再会したところから話は始まる。
後編『雲竜剣』(12月3日土曜夜9時~)は鬼平をつけ狙う刺客(尾上菊之助)が現れ、その刺客は残忍な凶賊であったということで、こちらは鬼平の真骨頂の立ち回りがたっぷり。どちらも見逃さないで!
■吉右衛門“好物”五鉄の軍鶏鍋
ドラマには毎回のように軍鶏鍋を食べるシーンが登場する。鬼平はいつもおいしそうに食べているが、あれは演技ではなく“素”で本当に食べているそう。当初は京都の撮影所に東京から専門の料理人を招き作っていたが、その後はレシピと材料が送られてきて、スタジオの中で調理。撮影のときには、いい匂いが立ち込めて、生唾ものだったそうだ。もうあの軍鶏鍋も食べられないのですね、鬼平さん!
意外なところにあの人見つけた!
原作を何度も読み返すというほど、鬼平の大ファンであるさだまさし。出演のオファーに「出るに決まっているだろう」と即答。「まさか吉右衛門さんと絡むお芝居をさせていただけるなんて」と、1か月かけて役作りに励んだ。どんな役でどこに出てくるかは、ドラマを見てのお楽しみに。