斎藤工が発案し、2年目に突入した移動映画館プロジェクト『cinéma bird』。ひっぱりだこの大人気俳優である彼が、時間を捻出して、すべての会議に参加していたという。
映画館のない地域に暮らす方々に同じ空間で感動を共有する劇場体験を届けることを目的に、学校やお寺を借り、斎藤が自らセレクトした作品を届けているという。
確かに、会場で見かけた斎藤の動きは裏方。ゲストで出演していたお笑い芸人のサンドウィッチマン、永野、あばれる君。そして、このプロジェクトのテーマソングを歌う古賀小由実、MOGMOSの後ろに回る、そんな姿を何度も見かけた。
さらに、体育館にベタ座りしていたスタッフには「使ってください」と、座布団を差し出す。俳優ではなく、こよなく映画を愛し、その素晴らしさを伝えようとする映画人に話を聞いた。
─4度目の開催になりますね。
「本当は、もっと裏方に徹するべきだと思ってはいるんです。ただ、お呼びしているゲストの方や、これまで自分が出会ってきた方に、このプロジェクトに協力していただいているので、自分が出ていかないと不自然だなとも思います。ある種のジレンマのなか、毎回、無事に開催できている感じです(笑)」
─手ごたえは感じていますか?
「協力してくださる方がとにかく優秀で、精鋭が集まっている。人運に最高に恵まれていると思います。僕なんかが、でしゃばって言うことがない状況です。ただ、細かいところは、例えば、鉄拳さんのパラパラ漫画『家族のはなし』を上映したのですが、最初はちょっと見づらかった。それは、あとに上映する映画に明るさを合わせているから修正しよう、というような、細かめのところを毎回、鬼姑のように調整しています(笑)」
─イベント中、「寒いですか? ヒーターをつけましょうか?」と会場のお客さんに声をかける、そのこまやかな心遣いに感動しました。
「それは、やはり自分が劇場に行ったときに気になることだから。“この寒い中、2時間か”とか、“右と左のドリンクフォルダ。どっちを使えばいいのかな”とかっていうことと同じで(笑)。この時期に開催するということで寒さや、きっとそれものちのち思い出の一部になるとは思うんですが、できることはしますという態勢でいたいと思っています」
─小学生以下の子どもたちを対象とした上映会では、まだ集中力が長く続かない幼いお子さんが、上映中に元気に会場を走り回っていました。普段の映画館では成立しない光景に、ちょっとほっこりしましたし、お母さんたちもすごく喜ばれていましたよ。
「ありがとうございます。映画は、大きなスクリーンのある劇場で見るべきものとして、監督もキャストもスタッフも作っているんです。これは、関係者みんなが言うんですが、鉄拳さんの『家族のはなし』は、YouTubeにあがっているもので、事前にタブレットやパソコンで見ているんです。
でも、スクリーンで、あの音で見ると、涙が出てくる。タブレットでは泣かなかったのに。というところに映画の真髄がある気がします。あとは、誰かと共有するということがなにより大事だなと。
ひとりで、自分だけのものとして、一時停止ができる状況ではなくて、主導権が作品にある状態。知り合いでも、恋人でも、家族でも、まったくの赤の他人でも、誰かと共有するところになにか価値があるのかなと思います。みんなどこか、寂しさっていうか、シェアする喜びに飢えている感じがします。それが、映画館にはあるんです」
映画作品と向き合う
─多忙な日々を過ごしていらっしゃると思いますが、日ごろ、映画館に行くことは?
「しょっちゅう行っています。“映画館ルーレット”というのをやっていて、事前に調べずに映画館に駆け込んで、いちばん上映時間の近いものを見るんです。たとえ、何度も見ている作品でも、見たくない作品でも必ず見るというルールを決めて。それで、何度か、『君の名は。』に当たっています(笑)。ひとりで来ている男性が、けっこう多くて面白いなと思いました。
自分のベースには劇場体験があるので、映画館に行っていないと、演じる側、作る側としての劇場を意識しなくなっちゃうんです。逆に、その目線があると、踏ん張りがかなりきく。スクリーンで見たときに、ちょっと足りなかったなではなくて、よし頑張ったと思えるロジックになるんです」
─これだけ作品が続いて、評価されても足りないと思うんですね。
「毎回、自分の演技を見るたびに、やめたほうがいいと思います。もう、ひどいなって。評価していただけるとしたら、それは、作品との巡りあわせがよかっただけで。そう言っていただける作品(『昼顔』)の再放送が最近まであったんですが、もうひどいです。自分の芝居なんて、見てられないです。ただちにやめたほうがいいと思う。それは、時間とともに解消されもせず、こんなもんかと慣れるわけでもなく、毎回、落ち込みます」
─それでも続けているのは、演技への愛ゆえ。ご自身でいいと思えた作品は?
「映画『団地』で阪本順治監督が、宇宙人の役にキャスティングしてくださったんです。それを見た方に、“初めて僕という素材が生かされた気がする”という意見をけっこういただきまして、なんかこう自分の中にある、理想と現実の狭間でおぼれそうになっている感じが、異星人にぴったりだったのかなと。
それを阪本監督が感じてくれているのは、すごく幸せなことだと思います。矢崎仁司監督の映画『無伴奏』というのは、ちょっとエキセントリックな役ではありました。本人はまっとうだと思って、なにかこう、ちょっと疑問を持ちながら生活している。そんな人間と、普段の僕がリンクするというか。自分の思う作品と、世間様の評価は違うと思うんですが、この2つの作品の監督やスタッフに出会えたことは、感謝しています」
─今後の野望はあるのでしょうか?
「もちろん、いろいろありますが『cinéma bird』の“バード”は、自由の象徴でもあると思っているので、ほかのプロジェクトと融合してもいいかもしれないです。個人的には、今年の春にお寺で開催した移動映画館が自分の中で腑に落ちたんです。
騒音問題とか大丈夫かなと不安だったのですが、和紙のすごさというか、障子で音が保たれた。そこで、フランス映画を上映したんです。これってトラディショナル・ジャパニーズシアターなんじゃないかなと思って。どこのお寺も映画館になる。全国のお寺さんに気づいてほしいですし、うちでもやりたいっていう人が現れたらいいなと思います」