「近頃の若いモンは…」というのは、遥か昔、古代ギリシャのソクラテスやプラトンの時代から、お年寄りの口癖だったと聞きます。いつの時代も、大人たちは若者を”自分とは違う生き物”として扱いたいようです。
とりわけ、「最近の若い男は頼りない」「女性をリードすることもできない」、そもそも「恋愛が怖くて出来なくなっている」という論は後を絶たず、「草食男子」、「絶食男子」といったキャッチーな言葉も生み出されてきました。とにかく「若い男たちが恋愛離れしている」という結論付けをしたくて仕方がない大人たちが、世間にはたくさんいるのです。
揚げ句の果てに、昨今の晩婚化や少子化は、この若い男性の恋愛離れこそが元凶だという指摘をされる有様です。
でも、本当にそうなんでしょうか?
国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査(2015年)」によると、「交際している異性はいない」と回答した未婚者の割合は、男性が69.8%(前回の2010年調査では61.4%)、女性は59.1%(同49.5%)と、いずれも5年前より大きく増加しています。これは確かに事実です。「若者の恋愛離れ論者」もこのデータを根拠として提示してきます。
「交際相手」に異性の友人を含む?統計データの“罠”
しかし、個々のデータをきちんと見てみると、何とも不思議な統計の出し方をしていることがわかります。実はこのデータ、「交際相手」の中に「異性の友人」まで含めてしまっているのです。友人……?友人とは、交際相手なんでしょうか。
もちろん、交際の定義はいろいろあるでしょうが、恋愛を語るうえでの交際とは、彼氏・彼女という立場になった段階を指すものではないのでしょうか。告白してOKされたり、互いに相手を友達以上の大切な人と認め合うことこそ、交際なのではないでしょうか。
したがって、女性に告白した際に「友達でいましょうね」と返されたら、それは大方のケースでフラれたということです。百歩譲って「異性の友人も交際相手である」という説に同意するとしても、それはせいぜい10代、それも中学生くらいまでの話ではないかと思います。そもそも、いつまでも「異性の友人」のままで、ちっとも「異性の恋人」に発展しないなら、それこそまさに“草食系”ではないかと思います。
もう1度問います。交際とは何でしょうか?交際とは、彼氏・彼女という「恋人がいる」ということです。だとすれば、「異性の恋人(婚約者含む)がいる」という項目にこそ着目すべきです。
「出生動向基本調査」のデータに基づき、経年推移で検証してみたいと思います。
これによれば、1982年から2015年にかけて「異性の恋人(婚約者含む)がいる」という男性は、
22%(1982年)→22%(1987年)→26%(1992年)→26%(1997年)→25%(2002年)→27%(2005年)→25%(2010年)→21%(2015年)
と、途中でむしろ一旦上昇し、現在は1982年時点の水準に落ち着いたに過ぎないことがわかります。大きな流れでみれば、ほぼ変わらないと言ってもいいでしょう。
女性も同様です。上下幅は男性よりも激しいようですが、ほぼ変化はありません。むしろ、2002年に最高値の37%となり、2015年は30%と、1982年の24%よりずっと高くなっています。
彼女がいる割合は、いつの時代も3割程度
つまり、「(彼氏・彼女などの)交際相手がいる率」というのは、長期的な視点で見れば、いつの時代もほぼ30%前後で変わらないと断言できます。例えば、学校のクラスに20人の男子がいたとして、その中で彼女がいる人はせいぜい6人程度ということ。そう言われてみれば、確かにそんなものだったと感じるのではないでしょうか。
男たちは(女もそうですが)、恋愛をしなくなったのでも、できなくなったのでもありません。草食、絶食、と指摘する50代の大人達と大して違いはなかったのです。いつの時代でも、7割の男には彼女なんていなかったのです。
いやいや、そんなことはない、と反論される方もいるでしょう。グラフ(男性の部分)を見れば、確かに1982年と2015年で彼女のいる割合に大きな差はないが、1992~2005年にかけてはずっと25%以上だった。それが一気に21%まで下降したのだから、それだけでも、最近になって若者が恋愛しなくなったと言っていいのではないのか、と。
なるほど、それは確かにおっしゃる通りです。では、コホート別に見てみましょう。
すると、多少のデコボコはあったにしても、どの年代の男性も、10代後半、20代前半、20代後半で、彼女がいる割合ほぼ変わりません。こと20代前半について言えば、どの年代もきれいに3割程度をキープしています。
現在50代前半の男性は、それより若い人たちと比べて、確かに10代の頃と20代後半で「彼女がいた率」が高いようですが、対して20代前半では、他のどの年代よりも低くなっています。
バブル世代が実は最も草食だった!
そして、40代後半の男性の方が、10代と20代後半で、最も「彼女がいた率」が低いようです。つまり、あえて言うのなら、ここ20年間で一番「草食」だったのは、現在40代後半のおじさんたちの方なんです。ちなみに、現在50代前半の人たちは「新人類世代」、40代後半の人たちは「バブル世代」と呼ばれた人たちです。
マーケティングの世界では、生活者が消費する動機を探るために「世代論」が活用されてきました。「団塊世代」「新人類世代」「バブル世代」「氷河期世代」「プレッシャー世代」「ゆとり世代」など、生まれた年代の社会背景に応じて、共通の価値観から消費性向を捉えるというものです。
確かに、同じ年代に生まれて、学校を出て、就職して、結婚して、親になるという一連の流れが共通だった時代はそれでよかったでしょう。しかし、今や平均初婚年齢が30歳を超え、単身世帯数が劇的に増加し、さらに、結婚せずに一生を終える生涯未婚の「ソロモン層」が増大する中で、同じ年代に生まれたというだけで簡単に一括りにはできません。
今から30年前、1986年の新聞にこんな記事がありました。今は50代を超えている「新人類世代」の新入社員に対する、当時の上司の愚痴のようです。
「残業を命じれば断るし、週休二日制は断固守ろうとする。だから、仕事は金曜の夕方までにわれわれ上司が手を貸して片づけさせるしかないんです」(保険会社課長)
「社費留学で海外にやると、帰国したとたん会社をやめてしまうんで、期間を短くしたり、帰国後にノルマを課したりしています」(商社部長)
どうでしょう?とても30年前の記事とは思えないのではないでしょうか。そのまま今の新入社員に対しても同じことが当てはまるような内容です。「最近の若いモンは…」と言っている50代の上司も、彼らが若い時はこんな感じだったわけです。
さらにさかのぼって、今から300年前、江戸時代中期の書物で、「武士道と云うは、死ぬ事と見つけたり」で有名な「葉隠」にも、以下のような記述があります。
「昨今の若者(武士)は、すべてにわたって消極的で、思い切ったことをしない」
「最近の男は、口先の達者さだけで物事を処理し、骨の折れそうなことは避けて通るようになってしまった」
江戸時代でさえも、変わらなかったようです。
「イマドキの若者論」の限界
時代背景や環境、テクノロジーの進歩により、時代によって意識や行動が変化することは当然のことです。決して、世代論そのものは否定しません。ですが、いつまでも世代論に固執して、「イマドキの若者はこうだよね」と無理やりカテゴライズしようとすると、大事なことを見落としてしまう恐れもあります。
確認しようがないのをいいことに、「俺の若い頃はこうだった」という武勇伝を語りたい気持ちはわかりますが、世代によって違いがあるのではなく、基本的には年齢に応じて大体同じ道を通るものなのです。
むしろ、大きく差が出るのは、既婚なのか独身なのかという点。同い年であっても、結婚して子どもを持った男と、ずっと独身を謳歌しているソロ男とでは、価値観も行動意識も根本的に違いますし、お金の使い方も異なります。
生涯未婚率が上がる前と恋愛比率は変わらないのに、どうしてこれほどまでに未婚化が進行したのか。むしろそちらの方を検証していくべきだと思います。それについては、また次回。
荒川和久(あらかわ・かずひさ)◎博報堂ソロ活動系男子研究プロジェクト・リーダー。早稲田大学法学部卒業。博報堂入社後、自動車・飲料・ビール・食品・化粧品・映画・流通・通販・住宅など、幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。プランニングだけではなく、キャラクター開発やアンテナショップ、レストラン運営も手掛ける。従来、注目されなかった独身男性生活者に着目し、2014年より「博報堂ソロ男プロジェクト」を立ち上げた。自らも「ソロ男」である。