TOKYO MXの人気番組『5時に夢中!』プロデューサーの大川貴史さん 撮影/佐藤靖彦

 TOKYO MXテレビの看板番組といえば『5時に夢中!』。マツコ・デラックスさん、ミッツ・マングローブさん、岩井志麻子さんなど、個性的なコメンテーターによる型破りな発言が人気を博しています。そんな名物番組の生みの親が、プロデューサーである大川貴史さん。

『視聴率ゼロ! 弱小テレビ局の帯番組『5時に夢中!』の過激で自由な挑戦』(大川貴史=著 1300円/新潮社)は、大川さんが同番組と歩んだ11年半の波瀾万丈の記録です。

「ボクが番組を任されたのは29歳のとき。制作経験1年のAD(アシスタントディレクター)からの抜擢だから驚きましたね。野球とプロレスが好きで、映像へのこだわりとか、企画力とか全然ないんですよ。番組を任されても何も武器がなくて悩みましたね。

 当時、MXでは夕方5時から若者向けの番組を放送してました。最初はいろんなしがらみで偉い人の愛人みたいな人(笑)も出演してたんですが、そういうしがらみは徐々に切っていきたいと思ってましたね。夕方の番組(『ゼベック・オンライン』)では、TKOさんや満島ひかりさん、小島よしおさんとか、ボクが面白いと思った人が、番組を卒業した後でどんどん売れていきました」

自分には面白い人を発見する能力がある

 自分には面白いものを作る能力はないけれど、面白い人を発見する能力はあるのかも。大川さんはそう思い始めたそうです。

「でもね、面白くなってる手応えがあるのに、視聴率が上がらない。これは堪えました。いちばん下の地獄って知ってます? 『無関心』ですよ。ガン無視。これが人間にはもっとも堪えるんです。

 結局いくら面白い人でも、名前がない人がやってても誰も見ない。例えばTSUTAYAとかで脚本のめちゃくちゃ面白い映画とかあっても知ってる人が出てないと誰も見ないじゃないですか。トム・クルーズとかが出てりゃ見るんですよ、つまらなくても。それと一緒だと思いますよね」

 ついに、大川さんの手がけた夕方の番組は枠そのものの消滅が決定。ところが、番組終了残り2週間となったとき、やっぱり5時からの枠での新番組を行うことが決定! プロデューサーは、もちろん大川さん。

「いやもう、2週間しかないから(笑)。何をしていいのかわからないから、こりゃ『五里霧中』だ、ってことで、番組タイトルが『5時に夢中!』に決まり(爆笑)。

 これはボクが初めてキャスティング権を持った番組なんで、番組予算の7割を出演者のギャラに充てることにしたんですよ。でも、1時間の予算が格安だから想像を絶する安さですよ。『5時に夢中!』のセットも100均でそろえてますからね。

 MXの予算って、キー局の10分の1、NHKの100分の1。出演者にお車代って出したら、電車賃じゃねえか! って怒られたこともありますよ。テレビ局で1000円単位で支払いしたのは業界でボクが初めてじゃないですかね」

『5時に夢中!』は熟女の解放区です!

大川貴史さん 撮影/佐藤靖彦

 NHKの100分の1の予算、セットは100均。そんな状況でスタートした番組ですが、開始後、10か月も過ぎると「お水の『めざましテレビ』」と呼ばれるカラーが定着していきます。

「キャバクラや水商売のおネエちゃんたちから、マツコさんや志麻子さんのコメントが面白いという視聴者メールが届き始めました。でも初対面の印象ですけど、志麻子さんは初々しかった。危うい感じの作家さんって感じでね。当時、志麻子さんのマネージャーが怖くて、直木賞候補作家に何アホなことさせるんだ! と、めちゃくちゃ怒鳴られて謝罪ですよ。それが今や×××連発で……。まあ、ご本人の素養でしょうけど(笑)。

 木曜コメンテーターの中瀬さんだって、ボクにとっては最初、『サンデーモーニング』のコメンテーターのイメージなんですよ。たかだか30代で大先輩たちに囲まれて、マトモなコメントしてたわけじゃないですか。すごいですよ。『とくダネ!』とかいろんな番組出てもアホなこと言わないのに、ボクの番組出てアホなこと言ってくれるからありがたいなあと思いますよ。

 でもね、志麻子さんも中瀬さんも、ボクがお願いして、ああいう方向に行ったわけじゃないんです。まあ、自分を解放してくれたんだと思う。いま思うと、ボク自身、あまり人に対して構えないじゃないですか。だからたぶん、結果的にそういう雰囲気の番組になったんだと思いますよ。まあ、フルチン戦法かな。おもしろ熟女は一緒にいて楽しいし、『5時夢』は熟女の解放区ですよ(爆笑)」

 強烈なコメンテーターの女性陣にMCの男性がたじろぐ様子も主婦層に受けたと大川さんは語ります。

「意外だったんですけど、若くて育ちのいい男がオロオロしてる様子が面白い、と。主婦の方々が、過激熟女の発言に固まるふかわさんの様子とかを見て姐さん気分をくすぐられるみたいで。ダンナに対する怒りや不満を解消するのにひと役買ったんですかね。日ごろのうっぷんを解消して、溜飲を下げてくれてるみたいでよかったですよ」

 最後に『週刊女性』の読者である熟女・超熟女の方々にひと言お願いします。

「これからも『家族で見れないワイドショー』をテーマにした『5時に夢中!』で解放されてください!」

<プロフィール>
大川貴史(おおかわ・たかし)
1972年生まれ。立教大学卒業後、TOKYO MXに入社。MXの1期生。営業部、CM運行部、スポーツ部勤務を経て制作部に異動。2005年4月『5時に夢中!』(月〜金曜日夕方5時から放送)がスタート。出演者から次々とスターが生まれ、キー局とは一線を画す企画が話題を呼ぶ人気番組に。同番組プロデューサーを現在も務めつつ、4番組を担当。