匿名ブログ《保育園落ちた日本死ね!!!》の書き込みがあったのは今年の2月15日。共感したママたちによって書き込みはSNSで爆発的に拡散し、同月29日には国会で取り上げられて社会現象に。しかし安倍首相は、ブログが匿名であることを理由に真剣味のない答弁をした。すると、実際に待機児童を持つ母親たちは国会前で“保育園落ちたの私だ”と書かれたプラカードを持ってデモまで行うに至ったのだ。
書き込みから10か月以上たった現在、待機児童をめぐる問題はどうなっているのか。埼玉県在住で生後10か月の娘を育てながら“保活”をしている松野由美さん(仮名)に話を聞いてみると、
「うちは夫婦が共働きなのですが、今はどこの家庭もそれが普通。夫が単身赴任中なので加点がつきますが、役所に書類を提出しても“これじゃダメ”と言われて、また新しいものを持っていっても“まだ足りない”と言われ……。こんなやりとりが何回も繰り返されて疲れました」
認可外の保育園が少ない地域で保活をする松野さんは、認可の保育園に入れない場合、会社を辞めるという選択肢も考えざるをえないという。
「保育課に“どんな書類が必要なのですか”と聞いても、あまり親身になってくれない感じでした。周りからは“頑張って”と言われますが、頑張るのは私じゃなくてひとつでも多くの保育園を作ったりする役所側だと思います」
待機児童が減少しない一因である“保育士の待遇”は改善されているのか。
政府が6月に閣議決定した『ニッポン一億総活躍プラン』では保育士の給与2%アップ、経験を積んだ職員には月給4万円アップを盛り込んだ。しかし、「これでは根本的な解決にならない」と話すのは、元帝京大学教授で保育研究所所長の村山祐一さん。
「政府が出したプランで給与は少し上がると言っていますが、目先の対応だけでは意味がありません。5年先、10年先の保育士の待遇がどう改善されているのかを示さないと保育士は増えません」
さらに具体的な待遇の悪さも指摘する。
「給与は他業種の平均給与よりも約11万円低いですし、週休2日制の時代なのに保育士は土曜日出勤がある。さらに労働時間の8時間以外にも事務作業や保育の準備などで“サービス残業”も常態化しています。保育士になりたい若者がいても親が止めるケースもあるんですよ」
ろくに夏休みも取れない保育士の労働状況は変わっていない。資格を持っていても保育士として働きたくないと思うのは当然だろう。
「夫だけではなく母親も働く家庭は年々増えていて、今では全体の50%を超えています。人口減と言われて子どもが減っているとはいえ、その減少率よりも働くママの数が増えている。だからこそ保育園の数を増やすことが大事であり、保育士を増やすために待遇を改善してほしいのです」(前出・村山さん)
匿名ブログを最初に国会で取り上げた民進党の山尾志桜里衆院議員は、
「私たちは保育士の給与水準を5万円引き上げる法案を提案し続けていますが、審議に応じていただけていません。政府は各自治体に対して、既存の施設に1人でも多くの児童を引き受けてもらうように要請していますが、“それは違うよね”と2万7000人以上のお母さんが署名してくれました。今後は保育士さんの数を増やし、今の質を保ったままで待機児童の数を減らしたいと考えています」
政府は将来を見据え、根本的に保育問題を解決する施策を考えてほしい。