古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第12回は樋口卓治が担当します。

安住紳一郎 様

TBSの安住紳一郎アナウンサー

 今回、私が勝手に表彰するのは、TBSアナウンサー・安住紳一郎さんである。

 3月31日、古舘伊知郎は『報道ステーション』(テレビ朝日系)の最後の挨拶で「死んで再生します」の言葉を残し、12年間勤め上げた報道キャスターの座を降りた。それから2か月後、6月10日に『ぴったんこカン・カン』(TBS系)でバラエティ復帰した。

 古舘プロジェクト所属の放送作家であり、『ぴったんこカン・カン』に携わっている身として、これはテンションが上がらずにはいられない。なんとしてもいい復帰にしたい。番組スタッフも同じだった。

 合言葉は「報ステのエンディングトークに恥じない番組にしよう」。今で言うところの「ステ恥」である。

 娯楽の世界に帰ってきた古舘伊知郎は、打ち合わせから喋る喋る。目の前のスタッフはメモを取るのも忘れ抱腹絶倒状態だった。そして一番燃えていたのは司会の安住紳一郎だった。

 先輩アナへの敬意の証は、かつて『トーキングブルース』という古舘伊知郎のライフワークと言えるトークライブでやった“ドリンク実況”を完コピ再現するというアナウンサー魂を見せつけた。

古舘節全開の“ドリンク実況”とは

 ドリンク実況とは、薬局に陳列してある滋養強壮ドリンクの銘柄、成分を片っ端から喋りまくるという、現代の“外郎(ういろう)売り”のようなもの。

「タウリン1000mg配合。1000mg入っているなら、なんで1g配合と言えないのか」とか、「まさにドリンク業界の自民社会さきがけ大野合、胃袋内の区割り法案は大丈夫なのか」とか、「こちらは何が入っているのか、なんとグルクロノラクトン1000mg配合! グルクロノラクトンって物が入っているんだったら、イグアナドンでも、デンゼル・ワシントンでも、マーク・ハミルトンでもどんどん瓶の中に押し込んでもらいたい」とか、とにかくマシンガントークの中に面白さを盛り込んだ古舘節を、安住紳一郎が本人の目の前で再現したのだ。

 例えるなら、桑田佳祐がジョン・レノンの前で『イマジン』を歌うようなものである。例え過ぎか?

 安住紳一郎はプロである。ロケの前日にスタッフに集まってもらい、深夜までドリンク実況を何度も稽古したという。

 テレビで数々のタレントをもてなし、大御所と渡り合い、大舞台の司会も務め、ラジオで小市民ぶりを発揮し、一流のパーソナリティーとしての話術も持つ。そんな喋り手、安住紳一郎の裏には、地に足のついた努力がある。

 私は勝手にイマジンする。もし同時代に古舘伊知郎と安住紳一郎が局アナをやっていたら――。きっとしのぎを削ったトークバトルが展開していたに違いない。そんなテレビが観てみたい。

追伸 安住紳一郎さん、2016年みうらじゅん賞受賞おめでとうございます。

【プロフィール】
◎樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また『ボクの妻と結婚してください。』など小説も上梓。9月15日に4作目『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)が発売。映画『ボクの妻と結婚してください。』が全国東宝系で公開。