東の豚肉、西の牛肉――肉の東西対決を紀行ライターがレポート

 年の瀬の疲れた身体にはお肉がうってつけ。調べてみたら作り方・食べ方に東西でこんな違いが。紀行ライター・カベルナリア吉田さんがレポートします!

第1ラウンド「すき焼き対決」

 鉄鍋に牛肉を敷き、砂糖としょうゆをかけて焼くのが関西風。一方の関東風はしょうゆやみりん、砂糖、酒などを合わせた割り下で肉と野菜を煮る。関西と関東ではまったく違うのだ。

 もともとすき焼きは関西が発祥で、関東は牛鍋が主流だった。(1)江戸時代に農民が鋤の上で肉を焼いて食べたから。(2)薄切り肉を「剥身」といい焼いて食べたから。(3)好きなものを焼いて食べたから─と説もいろいろだが、基本は「焼く」のがすき焼き。関東大震災で牛鍋屋が被害を受け、そこに関西からすき焼き屋が進出、割り下で煮るスタイルが生まれたそうだ。

 関西の友達に「割り下なんてありえへん!」と怒られたことがあるが(なぜ怒る?)、焼いてこそすき焼きってことで、第1ラウンドは西の優勢勝ち?

第2ラウンド「東の豚VS西の牛」

 肉じゃがもカレーも関東は豚肉、関西は牛肉が多い。関東の「肉まん」も関西では「豚まん」。肉といえば牛肉だから、豚を使う場合は「豚だ」と断らなければいけないのだ。

 牛豚文化の違いはなぜ起こったか。その昔、冬が長く農耕期間が短い東日本は作業スピードが速い馬を使い、温暖な西日本は牛を使った。そしてお役御免になった牛を食べる習慣があったからと言われている。このほか、近江牛の彦根藩など牛の産地が西日本に多かったことも一因。一方の関東は大震災以降、養豚が盛んになり豚肉文化が根づいたといわれている。

 これまた関西友達に「関東は肉じゃがに(安い)豚肉入れるんやろ、ケチくさいわ!」とか見下しぎみに言われるのが気に障る。うまけりゃ別にいいじゃん(だんだん腹が立つ東京モン)。

 というわけで東西対決のポイントは「牛肉」にある様子。食の東西の分かれ目は、琵琶湖から鈴鹿山脈につながる滋賀県〜三重県ラインといわれるけど、(湖と山が食の交流を遮った)愛知県や岐阜県でも西のすき焼き文化が見られたり、肉の境界線はやや東寄り? これは琵琶湖東岸で近江牛の生産が盛んだったため、西の牛肉文化がやや東にも広まったかららしい。

博多名物・かしわうどん。やわらかい食感の麺も特徴のひとつ

 この牛豚対決に「待った」をかけるのが九州の鶏肉文化。昔から海外と交流があったせいか、鶏を食べる習慣が根づいたようだ。筑前煮や水炊き、大分の「とり天」など料理もいろいろ。

 また福岡や愛媛、関西は鶏肉を「かしわ」と呼ぶ地域が多い。「かしわ」は厳密には「黄鶏」という日本原産の鶏の一種で、褐色の羽根が柏の葉の色に似ているから「かしわ」。それが転じて鶏肉全般を「かしわ」と呼ぶようになった。福岡には「かしわめし」「かしわうどん」なんて名物も。

第3ラウンド「トンカツVSビフカツ」

 呼び名といえば、関西でよく見るのが「ヘレカツ」と「ビフカツ」。ヘレは関東で言うヒレ肉、じゃなくて「牛のフィレ肉」のこと。そしてカツは今じゃトンカツが主流だけど、もともと明治時代に伝来したのは牛肉のカツ。それが大正時代以降、洋食が大衆化する中で、安い豚肉を使うようになったそうだ。でも関西では今も、ビフカツは定番メニュー。

 やっぱり関西は、肉といえば牛肉なのだ。

 カツで思い出すのが、西の串カツの「ソース2度づけ禁止」。東の串カツは大きめの豚肉が普通だけど、西の串カツはひと口大の牛肉が主役で……ああ肉が食べたくなってきた。関東VS関西? うまければどっちでもいいじゃんって、それじゃ対決にならないか!

【プロフィール】
文/カベルナリア吉田
沖縄や島を中心に全国を渡り歩く紀行ライター。著書に『沖縄ディープインパクト食堂』(アスペクト)、『肉の旅』(イカロス出版)など。トークイベントや大学の社会人講座も行う。