NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』がスタート。とはいえ、主人公の井伊直虎について、あまり詳しい人はいないのでは? そこで、『乙女の日本史』など乙女シリーズなどが人気を集める歴史作家の堀江宏樹さんに、ドラマの見どころを予想してもらいました。

“スイーツ大河”にはならないはず

堀江宏樹先生 撮影/竹内摩耶

井伊直政の大出世で逆転ホームランを打った井伊家ですが、それまでは渡る世間は鬼ばかり状態。大企業に搾取され、内通者に翻弄(ほんろう)され続ける中小企業のような存在が井伊家です。キャスティングを見ても、杉本哲太さんや前田吟さんといった庶民感のある俳優が井伊家に集っているのに対し、敵役となるだろう小野家&今川家はエリート感を漂わす俳優が集っている。

 何をやっても裏目に出る井伊家が、上からの圧力に屈せず雑草魂でしぶとく生きていく。その中で、同じ土地に生きる者としてムロツヨシさん演じる豪商・瀬戸方久、柳楽優弥さん演じる盗賊団の頭・龍雲丸といった面々とヒエラルキーの垣根を越えて共存し、大きな敵に立ち向かう……。

 いうなれば『半沢直樹』『下町ロケット』のような日曜劇場的な大河ドラマになるのではないかと思います。

 イケメン俳優が多数出演するため、“スイーツ大河”と揶揄(やゆ)された『花燃ゆ』の悪夢を思い出す人もいるかもしれない。

 でも、日曜劇場『天皇の料理番』を担当した経験を持つ脚本家・森下佳子さんが軽薄なドラマを描くとは思えないし、最近のNHKは親友の息子を無理やり預けられ育てる物語『ママゴト』や、忘れ形見の息子を育てながらダウナーな日々を送る女性を描いた『コントレール』などの意欲作を連発している。

 おまけにそれらの作品は少なからず井伊直虎とシンクロするような内容を含んでいるため、スイーツ大河の二の舞どころかヒット大河になる可能性もある。

 だからこそ、“戦国の世で、なぜ女性の直虎がそこまで頑張れるのか?”という大義をいかにして描くかが重要。徳川四天王のひとり・本多忠勝が書き残した『史籍雑纂』には、女性が戦場に駆り出されていたことや、秀吉が天下人となる以前の時代の女性は勇ましかったことなどが記されています。

 仮に、最前線には立たずとも直虎が若いころに戦を体験した結果、血なまぐさい男性的な思考にうんざりして、女性特有の現実的な選択を採択してサバイバルしていくというくだりがあれば、直虎がお家存続に東奔西走したという説得力も生まれる。やはり大河ドラマは説得力がないとシラケてしまう。

 なにゆえ“おんな城主”か? そこに重厚感があることを期待します」

<プロフィール>
ほりえ・ひろき◎1977年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒。日本、世界、古代、近代を問わず歴史の持つおもしろさを現代的な視点、軽妙な筆致で取り上げている。綿密な検証と考察、臨場感あふれる描写には定評あり、『乙女の日本史』など乙女シリーズで注目を集める。近著『本当は怖い世界史:いつの世も人間は変わらない』 (王様文庫)が絶賛発売中。

※『週刊女性』2016年12月20日号より