狭い日本であっても食文化は多種多様。「定番の味」は、東と西で千差万別だったりするんです。おでん、うなぎ、ちらし寿司など、おなじみの和食の“驚きの地域差”をご紹介。
【おでん】だしと具材は東西でどう違う?
寒さがグッと増すこの時期、恋しくなるのがだしで具材を煮込むおでん。関東風と関西風の違いを老舗の食品メーカー『紀文』広報に聞いてみると、
「一般的には、関東のだしはかつお節をベースに濃口しょうゆで味つけ。具材は、東京を中心に人気なのがはんぺん、ちくわぶ、つみれなどです。関西のだしは昆布ベースで薄口のあっさり味。具材で関西らしいといえば牛すじです」
具材については、紀文の『鍋白書2016』によると、東京と大阪の違いがはっきり出ている。
「20〜50代の主婦1400人に対して行ったアンケート調査で、おでんの好きな具材を尋ねたところ、1位は大根、2位は卵。これらはどの地域でも人気です。そして東京においては、3位にはんぺん、4位にはちくわぶが入っていますが、大阪はランク外。かわりに大阪では、東京でランク外の牛すじが4位でした」
では、コンビニのおでんはどうか。
1978年、コンビニではじめておでんを販売した『セブン-イレブン』の広報・関口さんは、
「つゆに使用するだしを、全国8エリアごとに細かく変えて地域性を出しています。例えば、ちくわぶは関東と山梨エリアだけで提供しており、ちくわは地域により種類を分けて全国で展開しています」
東西だけでなく、全国各地にご当地おでんが多数あるそうで、
「種ものをしょうが味噌ダレで食べるのが青森風。黒はんぺん・牛すじだしで、黒いつゆが特徴なのは静岡風。かつおだしに八丁味噌を加えて煮込む名古屋風、鶏だしが特徴の博多風。あごだしでコクを出した長崎風、豚足などを入れる沖縄風など、バラエティー豊かです」(前出の紀文・広報)
ちくわぶとはんぺんが代名詞の、関西でおなじみの『関東煮』もご当地おでんの一種といえそう。
その語源は、関東のおでんが関西へ伝わった、中国・広東地方の鍋料理が由来など、諸説ある。
【うなぎ】調理法の裏に隠された土地柄
東西のうなぎの大きな違いは、さばき方と蒸す工程の有無。その理由を、日本の食文化に詳しい日本フードアナリスト協会理事長の横井裕之さんに聞いた。
「関東では江戸時代は武士社会でしたから、“腹開きにするのは切腹を連想させて縁起が悪い”と背開きが好まれたそうです。一方、関西の商人文化では“お互いに腹を割って話そうではないか”といった意味から腹開きにしたようです」
関西のなかでも特に食文化の発祥の地である京都中心部は海から離れているため、傷みやすい魚介類には、とにかく火を通す習慣があった。
「関東では人口が急激に増えた江戸時代、料理を素早く提供する工夫がされました。あらかじめ白焼きをして、箱の中で蒸らしておいたうなぎにタレをつけて焼いて出せば調理時間が短縮でき、ふっくらやわらかく仕上げられたのです」
また肋骨のないうなぎを腹開きにするには、料理人の技術が求められ、背開きのほうが手早くさばけるという事情もあったようだ。
【卵焼き】東は「厚焼き」西は「だし巻き」
見た目は同じに見える東西の卵焼き。いったい、どんな違いやこだわりがあるの?
「関東の料理は砂糖を多く使い、関西の料理はだしを大切にするのが特徴です。卵焼きも同じで、関東ではだしのほか砂糖を入れて焼いた濃厚で甘みの強いものが好まれます。関西では砂糖は入れず、卵にだしのみを混ぜて焼きます」
そう話すのは前出・横井さん。
関東の卵焼きは、江戸前寿司のつまみやネタとして作られたのが起源ともいわれている。ボリュームのある厚みと甘い味つけは、確かに、お酒や酢飯と合うように工夫されたとも考えられそう。
卵焼き器も関東型と関西型などと呼ばれ、それぞれ異なる特徴が。関東型は1回で2つ折りにしやすいよう、ほぼ正方形。これは魚のすり身を入れた伊達巻きなどを焼くのにも向いているから。関西型はたっぷりだしを入れた卵を何度も返して、ふわふわした食感に仕上げていくため、縦長の長方形になっている。
【いなり寿司】東は小ぶりな俵型、西は大きめ三角形
「いなり寿司が生まれたのは1800年代の尾張の国(名古屋)との説があり、最初はシャリの上に油揚げをのせた長細い形だったようです。それが食べやすい形になって、江戸では当時のファストフードとして流行したのです」
というのは前出・横井さん。東西の形状の違いはどこから来ているの?
「関東では、“いなり=稲荷”と表記されるとおり、お米の荷を意味する俵の形をしています。一方、関西では“お稲荷さん=狐”であり、神様のお使いとされている狐の耳の形を模して三角形になったなどといわれていますね」
味つけをした油揚げの中に詰めるものも、関東では酢飯のみだけど、関西ではゴボウやニンジンなどの入った五目飯。
「関東の料理は、江戸時代に早く大量に作るため簡略化されたものが多いのです。ちなみに、いなり寿司は東西ともに、わさびじょうゆをつけて食べていたとか」
【ちらし寿司】煮ても美味しい、生でも美味しい
『ちらし寿司』の語源は、ご飯の上にさまざまな具を“散らす”。関東では江戸前にぎりと同様の魚介類をすし飯の上にのせた『江戸前ちらし』と、細かく切ったネタをバラバラに盛りつけた『バラちらし』と区別することもある。
関西では地域や各家庭で異なるが、酢飯の中にシイタケやニンジン、レンコン、タケノコ、インゲンなどを彩りよく混ぜて、錦糸卵やゆでたエビ、焼いた穴子などをのせることが多い。
「素早い輸送手段がなく冷凍保存の技術もなかった時代ですから、海が近くにあり、生の魚が食べられる関東に住む人々は非常にラッキーでした。京都などは海が遠かったため、魚介類は蒸したり焼いたり干したりして、保存性を高めなければならなかったのです」(横井さん)