全国各地にある駅そば。ねぎ、つゆ、盛り付けの天下分け目はいったいどこ!? 駅そばに詳しいライター・鈴木弘毅さんがその“境界線”を探ります。
駅そばの“境界線”を探せ!
全国各地に数百軒ある駅そば。東海道本線、北陸本線、さらには一部の関西本線という、東西に長く延びる3つの路線、それぞれに味の境界線がある。
いちばんわかりやすいのは、「東日本の濃口・西日本の薄口」というつゆの違いだろう。両者の境界線は愛知・三重県境から関ヶ原を通り、富山県富山市付近へ抜ける。北陸側の境界線はやや曖昧であり、富山駅には濃口の『越中そば』と薄口の『源』が同居している。富山市内では濃口と薄口の店が入り乱れているという。この辺りで東西のつゆがぶつかり合い、モザイク状になっているようだ。
東西を分かつのは、つゆだけではない。薬味のねぎも「東日本の白ねぎ・西日本の青ねぎ」に分かれる。そして、ねぎの境界線は、つゆの境界線とは異なる位置にあった。MAPのとおり太平洋側では、つゆの境界線よりもだいぶ東、静岡県の熱海・三島間にある。ここから中央本線中津川駅の西側を通って、関ヶ原付近(岐阜県南西部は白青が混在)で、つゆの境界線と交差して石川・福井県境へ。つゆとねぎの境界線は×印を描くような形で交差していたのである。
このため、静岡県の大部分や愛知県などでは「つゆは濃口だがねぎは青」、富山県西部や石川県などでは「つゆは薄口だがねぎは白」という現象が起こっているのだ。
つゆ・ねぎのほかにも、まだ俎上にのぼっていない「隠れ境界線」がたくさんある。例えば、月見そばの盛りつけ方。東日本では「麺→つゆ→卵」の順に、西日本では「麺→卵→つゆ」の順に盛りつける店が多い。それから彩りとして入るカマボコ。東日本では1枚、西日本では2枚以上のせる店が多い。さらに看板や店名、暖簾などの表記。東日本では「そばうどん」「○○そば」、西日本では「うどんそば」「○○うどん」が多い。これらについても鋭意研究を進めているところである。
東西に二分するのではなく、もう少し狭いエリアで、局地的に起こっている地域性もある。関西在住の方が首都圏に来て、“「きざみそば(うどん)」が存在しないことに驚く”という話をよく聞く。逆に、関西の駅そば店で「たぬきうどん」と注文すると、店員さんは困り果ててしまう。なぜなら、関西では「たぬき」はそばと決まっているからである。しかも、ほぼ全国的に揚げ玉をトッピングしたそばを指す「たぬきそば」が、関西では味つき油揚げをのせたそばを指すのだ。同じトッピングなのに、そばは「たぬき」、うどんは「きつね」になるわけだ。
それならば、揚げ玉をのせたそばを関西では何と呼ぶのか。正解は、「ハイカラそば」(主に兵庫県神戸市周辺。ほかに「天かすそば」などの表記もあり)。神戸へ出かけた方が、駅そば店で「おっ! ハイカラそばなんていうおもしろそうなメニューがある!」とワクワクしながら注文すると、おなじみのたぬきそばが出てきてガッカリ。よく聞く「駅そばあるある」のひとつだ。
このような例は、全国各地で枚挙にいとまがない。MAPに各地方の主な地域性を記載したので、参照されたい。さらに加えて店舗ごとにも個性がある、深き駅そばワールド。まだまだ、興味のタネは尽きない。
【プロフィール】
文/鈴木弘毅
駅そばを筆頭に、道の駅や健康ランドなど、旅に関するB級要素をとことん追究するライター。著書に『鉄道旅で「道の駅“ご当地麺”」』『東西「駅そば」探訪』(交通新聞社新書)など。