'64年のご訪問で、プミポン国王夫妻から歓迎される若かりし両陛下

 80歳を越えたお身体で手術と持病に耐えながら、公務をされる両陛下に約1年ぶりの外国訪問が決定した。

両陛下は、2月28日から6泊7日の日程でベトナムとタイをお訪ねになります。

 初のベトナム訪問は友好親善が目的ですが、帰りにタイのバンコクに寄り、昨年88歳で亡くなったプミポン前国王の弔問をされることになりました」(宮内庁担当記者)

 ハードな海外訪問にタイのお立ち寄りが加われば、両陛下のご体調が心配されるが、今回は、両陛下たってのご希望だったという。

 陛下と故・プミポン国王との交流は、前国王夫妻が1963年に来日した翌年、昭和天皇の名代で、皇太子時代の両陛下がタイを訪問したときに親交が深まった。

日本の皇室とタイ王室との交流でいちばん印象に残っているのは、2006年に行われたプミポン国王陛下の即位60周年の記念行事です

 そう振り返るのは、元宮内庁東宮侍従長で、当時の駐タイ大使だった小林秀明さん。

その際に、両陛下はタイ王室と国民から大変な歓迎をお受けになりました。

 約30か国の君主がタイに招待されましたが、即位祝賀行事後の晩餐会には、両陛下だけを招かれたことは、皇室がタイの王室にとって特別な存在だということを示していると思います」(小林さん)

 両陛下は、皇太子同妃時代を含めてすでに7回タイに足を運ばれていて、一国の訪問回数としては最多だという。

 皇太子さま(56)が、'12年にタイをお訪ねになったときも、療養中だったプミポン前国王がわざわざ退院して、晩餐会を催したことも。

愛子さまがお生まれになったときも、お祝いでタイ王室を通じてスリン県のゾウ2頭が上野動物園に寄贈されています

 と話すのは、タイ王室に詳しい京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科所属の櫻田智恵さん。

 ニワトリやナマズなどの研究で、たびたびタイを訪問される秋篠宮さま(51)の存在も知られているという。

 王室だけではなくタイ国民も、皇室に親しみを持つ理由を前出の櫻田さんが続ける。

両陛下が被災地に行って、ひざを突き合わせて、お見舞いする映像はタイでもよく取り上げられます。プミポン前国王と重なるものがあり、好感を持たれているのだと思います。

 前国王が国民から支持されていた理由は、大きく分けて2つあると言われています。

 ひとつは地方訪問が多く、国の隅々まで目を配って国民と触れ合ってきました。

 もうひとつは、その際に見聞きしたタイ国民の困窮を解消する前国王発案の“王室プロジェクト”が多く、国王への寄付金から捻出されていたので、国民に支持されてきました」(櫻田さん)

 そんなタイ王室と皇室の“絆”の原点は、50年以上前の「淡水魚」と「民族衣装」という色鮮やかな「思い出」にさかのぼる。

 '64年に両陛下がタイを訪問された際に、水産研究所を視察したときのエピソードを前出の小林さんが明かす。

当時、タイ国民の動物性タンパク源として研究されていた淡水魚の『ティラピア』を陛下がご覧になったときのことでした。

 陛下が“違う種類のティラピアのほうがタイ(での繁殖)には適していますよ”とナイル種のティラピアを進言されたそうです

平成になって初めてのタイ訪問では在留邦人から手厚い歓迎を受けられた('91年9月)

 魚類学者でもある天皇陛下は、帰国後、当時のお住まいである東宮御所でそのティラピアを繁殖させ、翌年に50匹をタイに寄贈されたという。

それらをプミポン国王が宮殿の池の中でさらに繁殖させて、何十万匹にしてタイ全土に配られたのです。

 今では、そのティラピアは『プラーニン』と呼ばれていて、タイでは一般的な食用の淡水魚として普及しています」(小林さん)

 美智子さまも、シリキット前王妃(84)との間に“ファッション”を通しての「思い出」がある。

 元日本テレビ記者で'64年のタイ訪問に同行した小木裕さんも当時を懐かしむ。

両陛下が、メオ族が住む地域に行かれたときです。この日はプライベートだったので取材設定はなかったのですが、私は記者団の団長だったので同行を許されました。

 美智子さまとシリキット王妃は同じ民族衣装を着て、少数民族の暮らしぶりを仲よく視察されていました。タイ王室にとって皇室は親戚みたいなものだと思いますよ

 黒地に赤や青の刺しゅうが施されたタイコットンの衣装を、お召しになっていたという美智子さま。

 そのご縁はのちまで続き、前出の櫻田さんは、こんなエピソードを披露する。

「シリキット王妃が担当している王室プロジェクトの中には、布を作る仕事の就業支援もあります。

 '93年に日本でその展示会が開かれ王妃が訪日された際に、美智子さまは王妃から説明を受けられたそうです」

 美智子さまは、そんな半世紀以上前の魚と衣装の美しい色合いの記憶をたどりながらシリキット前王妃にお悔やみを述べられることになる。