それってアリなの!? 落語ネタを初の映像化

 1人で何役も演じながら言葉や仕草、間合いで聞き手に“想像させる”表現──。それが、落語の醍醐味(だいごみ)。

 落語の演目を“あえて”映像化した番組が登場。話題を集めている。それが、NHKで放送中の『超入門!落語 THE MOVIE』(NHK総合 毎週水曜 22時50分〜23時15分)だ。単発放送が好評で、10月からはレギュラー番組となった。

 大田純寛(すみひろ)プロデューサーによれば、

「始まりは、落語にアテブリ芝居をかぶせてみるという実験企画だったんです」

 つまり、落語家のしゃべりに合わせて俳優たちが「口パク」で演じるという“再現ドラマ”の方式。結果、あたかも登場人物たちが実際に話しているような臨場感を生み出した。

 落語家は、春風亭一之輔、古今亭菊之丞、柳家三三などの一流どころ。

 落語を再現する顔ぶれもなかなかユニーク。温水洋一、東幹久、前田敦子ら俳優のほか、ドランクドラゴンなどのお笑い芸人も出演し色を添えている。

 これまでに放送された演目は『お見立て』『時そば』『饅頭怖い』『釜泥』など、有名な噺が10分ほどにまとめられている。

 “案内人”の俳優・濱田岳が毎回、落語のマクラにあたる、時事ネタを含む小噺などをおもしろおかしく演じ、本編に入る。

 大田プロデューサーが説明する。

「まず、師匠を呼んで落語の収録。早朝や深夜に都内の寄席を借り上げて、客席に人も入れて行います。そして、この音声を文字に起こし、俳優を決めてブッキングし稽古、そして撮影を進めていきます」

演じる役者は大変!

 演じる役者にしてみれば、これまでになかった体験に違いない。相川侑輝(ゆうき)ディレクターは、

「役者さんは音声を繰り返し再生して練習します。演技はバッチリなのに音声と口が合っていなくて、テイク20くらい撮り直したときもあります。自分のタイミングで話せないうえに場面転換も早く、息つく暇もないので、役者さんは大変。普通、ドラマだと10分間で100カット弱程度ですが、この番組では倍近くに及ぶこともあります

 音声と役者の口の動きを完全に一致させることにこだわり、臨場感を生み出しているのだ。

「蛇の化身の役を演じた田中要次さんは、セリフとセリフのわずか1秒の間にアドリブで舌をぺロリと出して『蛇感』を表現した。役者のすごみを感じました」

 落語を映像にするなら、何かプラスアルファが欲しかった、と相川ディレクター。

「落語家は同時2役はできない。でも、映像ならそれを表現できる。例えば、誰かがしゃべっているときの、ほかの登場人物のリアクションとか、それぞれの位置関係だとか、噺のもつ世界観をより理解するために手助けとなる部分を見せていけたら、と思っています

 同じ演目でも落語家によってイメージが様変わりするように、ただひとつの“正解”があるわけではない。番組も「あくまでイメージ例」と大田プロデューサー。

「昔の町の雰囲気や、“花魁ってこんな人たちなんだ”とか、落語に出てくる世界を視覚的に楽しんでもらえたら。この番組をきっかけに、落語を好きになる人が増えたらうれしいですね」

次回2月1日放送の見どころは…

 次回2月1日は『ちりとてちん』と『田能久』の2作を放送。番組HPではアテブリ芝居をかぶせる前の、落語家による高座映像を公開。

【HPアドレス】http://nhk.jp/rakumov/

■『田能久(たのきゅう)』:主演の柄本時生さんの演技に注目!

[あらすじ]……芝居好きの阿波国田能村の久兵衛、人呼んで「田能久」は急病の母のもとへ急いでいた。道中、峠の小屋でウトウトし目を覚ますと、老人に化けた大蛇が! 絶体絶命の田能久、名を名乗るとどうやら狸と勘違いされたようで……。

『田能久(たのきゅう)』に主演する柄本時生 (c)NHK

■『ちりとてちん』:芝居の合間に映る、瀧川鯉昇師匠の渾身の高座映像も見もの!

【あらすじ】愛想のいい竹さんに料理をふるまった旦那、なにを食べさせても、ほめるので上機嫌。そこで、なんでもけなす知ったかぶりの寅さんに腐った豆腐を「台湾名物 ちりとてちん」として食わせてやろうと思いつき……。

『ちりとてちん』のワンシーン (c)NHK