オトナ女子の間で今、“落語ブーム”がじわじわと拡大中。アニメ化もされたヒット漫画が火つけ役となり、寄席でもカフェでも、落語が聞ける場所には女子の行列がズラリ。ここでは、落語の醍醐味・寄席の世界を案内します!
お江戸情緒あふれる「新宿末廣亭」を楽しむ
深夜まで人通りが絶えない新宿三丁目の一角に、江戸時代にタイムスリップしたかのような木造建築が! 軒先には提灯(ちょうちん)が並び、落語家や芸人の名前がズラリ。これぞ1946年に設立され、『昭和元禄落語心中』に登場する寄席のモデルにもなった新宿末廣亭だ。1月初旬、私、ライターKと落語ビギナーの編集Yは、正月初席に足を運んだ。
場内は想像以上に広い。1階は奥の高座前に117席、見通しのいい左右の桟敷席が各38席。2階にも桟敷席があり、最前列へ。
木造りが美しい。なんでも、日本じゅうの宮大工を集めて造ったものらしい。11時開演のためか、ほぼ満席。平日の昼とあって中高年が中心だが、若い男女や女性グループ、女性の1人客や、冬休みらしく子ども連れもチラホラ。昼時とあって、お弁当を食べながら見ている人も多い。
高座では、漫才コンビ『ナイツ』が実演中だった。「私はSMAPの解散の真相を知っている」というネタで、ボケ役の塙がジェスチャーでその真相とやらを披露し、爆笑のうちに終了。続いては落語。柳亭楽輔、ベテランだ。インフルエンザ、北朝鮮などの時事ネタ、夫婦の自虐ネタなどで会場を沸かせ、マクラだけで終わった。お次は笑福亭鶴光。上方を代表する人気落語家が、関西弁で漫談を披露。続いて、あら懐かしい『東京ボーイズ』。歌謡漫談だ。調律の合っていないギターと三味線で定番のギャグを連発。わかっていても笑ってしまう。
そして、いよいよ第一部の主任(トリ)、春風亭昇太の登場だ。テレビで見慣れた顔に大きな拍手が響く。
年末に審査員を務めた紅白の裏話を身ぶり手ぶり交え話しだす。会場はドカンドカンと爆笑の連続。続いて司会を務める『笑点』の話。みんな年上なので好き勝手やられて困るという愚痴。これ、とてもテレビではやれないだろう。このマクラだけで終わるのかと思ったら『花筏(はないかだ)』を話し始めた。相撲を描いた落語で、提灯職人が瓜ふたつという力士の替え玉になる噺。クルクル変わる表情と身ぶりに場内の爆笑は最高潮に。
「思わず手を叩いて笑っちゃいました。厳かな雰囲気かと思ったら、肩の力を抜いて過ごせるんですね」
と編集Y。別世界──まさに浮世を忘れる空間だ。
末廣亭の広報部長・林美也子さんが言う。
「外国人を含め、2〜3年前から確実に動員数は増えてます。特に夜の部は若い会社員の女性でいっぱい」
林さんによると、現在のブームはそもそも落語家が増えたことにあるという。
「今は落語をやってると女の子にモテるとわかった。そうして落語家の分母が増えれば、その中の1割くらいは好みのタイプもいるわけですよ(笑)。でも初めはそれ目当てで寄席に来てみて、落語自体に夢中になっていく人も多いんです」
女性の多くはここに来るとストレスの解消になると口をそろえるらしい。林さんが、あるOLが話したエピソードを語ってくれた。
「落語の世界は、与太郎などのダメな人が、バカだと言われながらも、みんな温かくその彼を迎え入れるユートピア。現実では落伍者になってしまうはずがこの中では楽しく生きている。みんなそれぞれ欠点を持った愛すべき人なんですね」
ビギナーのためのWhat's寄席!? Q&A
Q.いつやってるの?
A.年末を除き毎日開催! 正午前からの「昼の部」、17時前後から始まる「夜の部」のほか深夜や早朝公演がある寄席も。 出演者は1〜10日の上席(かみせき)、11〜20日の中席(なかせき)、21〜30日の下席(しもせき)と月に3回入れ替わる。気になる噺家が出演する時間を選んで行くと◎
Q.どんな内容?
A.10人程度の噺家が出演し、持ち時間は1人15〜30分ほど。前座がしゃべった後、二つ目が登場。続いて落語と色物の芸がテンポよく進み、おしまいに真打が締める。客席からは絶えず笑い声が♪
Q.チケットの買い方は?
A.基本的には当日券。寄席の入り口で「木戸銭」(入場料)を支払う。通常公演のチケットは大人2500〜3000円ほど。入れ替え制ではない寄席もあるので、当日ぷらっと行って昼から夜まで入り浸ることも可能!
Q.マナーや楽しみ方って?
A.服装、飲食ともに自由。アルコールがOKの寄席もアリ! 入退場のタイミングは自由だが、高座の切れ間(演芸と演芸の間)にするのが望ましい。携帯はオフにしよう。靴を脱ぐ桟敷席や、出演者にいじられる可能性がある前列など、座る場所により違った雰囲気を楽しんで☆
カフェ気分で初心者も安心♪「らくごカフェ」でご満悦
落語家には、「見習い」「前座」「二つ目」という階級があり、最高レベルの「真打」に昇進し「師匠」と呼ばれるまでに10年以上かかる。二つ目になると、ようやく高座に上がれるものの、寄席に出演できるチャンスはわずか。そこで、彼らはさまざまな場所で落語会や勉強会を開催し、客を前に落語を披露してひたむきに精進する。
古本の街として知られる神保町にある『らくごカフェ』も、そんな若手が活躍できる舞台であり、ファンにとっては気軽に落語が楽しめる場所。火曜夜には『らくごカフェに火曜会』を定期開催。店が選んだ二つ目や若手が芸を披露する。
この日は、火曜会OBと称して、現在は真打に昇進した柳家小せんと古今亭文菊が登場。用意された50の座席は満席になるほどの人気ぶり。40〜60代が中心で1人客もちらほら。
「オープンから今年で9年目。落語家が芸を磨けて、落語ファンも集まれるライブハウスのような拠点を作りたい、とにかく世間の落語へのハードルを下げたいという思いで作りました」
そう語るのは、オーナーの青木伸広さん。
昼は喫茶店、夕方から落語会が始まる。店内には落語関連の本やDVD、落語家の色紙や手ぬぐいがズラリ。眺めているだけで、雰囲気にどっぷり浸れる。
「年間約400公演のうち300本以上は、主に二つ目の噺家さんの勉強会などの場として貸し出しています。たまに大御所の林家正蔵師匠や柳家喬太郎師匠などが落語会を開き、ネタおろしをすることも。寄席以上に客席が間近で、“ここを見られているのか”と手に取るようにわかり、刺激になるそうです」
落語家(主催者)がこの場所を1回2万円(夜の部)の料金で借り、落語家とらくごカフェの双方で販売するシステム。2000円のチケットなら10人集客できれば場所代は払えるし、それ以上なら落語家の収入となる。
「最近では、まったくの素人の方が席亭、つまり主催者になって落語会を開くことも増えていますよ。ファンがお金を出して寄席をやる機会を作るというのは、今のブームの大きな特徴だと思っています」
会場の女性客にも話を聞いてみた。日本語教師の30代の女性は、「以前は毎週来ていたんですが、静岡に嫁いだので月に1回、上京して数日、ここで落語を楽しんでいます」
次に声をかけた長身の女性は「談春さんの大ファンで5〜6年前からよく来ています」「お勤め先は近所ですか?」「フジテレビです」。「え?」と顔を見ると女子アナの阿部知代さん! 失礼しました。「ここはできた当初から女性のほうが多かった。女性は新しいものに抵抗がなく、未知の世界にもどんどん飛び込んでくるんです。これからも女性客は増えていくでしょうね。二つ目の噺家さんは彼女たちに支えられているんですよ」と青木さん。
二つ目たちと女性客はまるで相思相愛だった。