ドラマ10 『お母さん、娘をやめていいですか?』に出演する斉藤由貴 撮影/伊藤和幸

「お芝居に出会ってなかったら、今の私はどうなっていたのかなって思います(笑)。最初は楽しいとか考えられませんでしたが、実際に始めてみると演技は私にすごく合っているなって。

 いろんな感情とか感じたことを、演技という形を通して表現するというのが、いま思うと不思議なくらい違和感なくできたんです。なので、演技の勉強をしなきゃとか考えたことがなかったですね」

 大河ドラマ『真田丸』では、家康(内野聖陽)の最愛の側室・阿茶局を見事に好演。ドラマのみならず昨年末はディナーショーを行うなど、仕事に対して精力的に挑戦を続ける斉藤由貴。

 家族が応募した『ミスマガジン』('84年)でグランプリに輝いて芸能界入りし、現在50歳。経験を積んで輝きを増し再ブレイクした彼女に、これまでを振り返ってもらった。

「私は、芸能人になりたいとは思ってなかったんです。演技も学芸会で主役を務めるようなタイプでもなかったし、絶対向いてないと思った(笑)。でも、思いがけずにこの仕事をやることになったら、両親がすごく応援してくれて。17〜18歳のころでしたが、それまでは“とらえどころのない子だし、将来どうするんだろう”って私に不安も感じていたと思います。だから、仕事が見つかって、“ああよかった”ってたぶんホッとしたと思います(笑)」

 デビューした彼女は、いきなり転機となる作品に出会う。

「まずは朝ドラですね。『はね駒(こんま)』で長い時間をかけて、ひとりの人生を演じ切ったのは大きな経験になりました。

 あとは『スケバン刑事(デカ)』。自分の好き嫌いと、お仕事としての周囲からの評価は必ずしもリンクしないんだなっていうことを、若いころに学んだ作品でした」

あのカバー曲は「正直、戸惑いました」

 歌手として『卒業』や『情熱』など甘酸っぱい青春の歌を歌い続けた彼女が、いきなり井上陽水の『夢の中へ』を大胆なアレンジでカバーしたときにも、同じ感情を抱いたそう。

「ディレクターさんから曲を渡されたときに“エッ!?”って正直、戸惑いました(笑)。でも、当時の私は断るという考えが思いつかなかったのもありますが、とにかく“これやるんだな”って、なんであれ投げられたものを必死になって打ち返してばかりいたんです。それが振り返ってみれば、ナレーションだったり物を書く仕事だったりと、新しい仕事につながっていった。

 これは若い人にも言えますが、“無理です”ってすぐに断らず、何事も経験する、とりあえずやってみることは大事なんだなって思いますね」

斉藤由貴 撮影/伊藤和幸

 芸能生活で新たな発見もあったという。

「昨年秋に『The Covers』という番組で、司会のリリー・フランキーさんが私の『AXIA』という曲がすごく好きって言ってくださって。そうしたら実はあの曲好きですって方がほかにもたくさんいらして驚きました。だって、彼女がほかの男と二股かけてますって告白する歌なんですよ。こんなひどい話の歌を歌える私って恵まれているなって(笑)。面白いなって思いながら、あの歌を見直してます」 

 スター街道を駆け上がった彼女は'94年に結婚。3児の母に。

「もう長女が17歳、長男が13歳、次女が12歳です。いちばん下の子はまだ甘えてくれるんです。子どもに触れたり抱きしめられる時期って、あっという間ですよね。もう少ししたら甘えさせてくれなくなると思うので、失われゆく時間を惜しみながら愛(め)でる感じです(笑)」

怖い母役が話題!

 そして現在、複雑に絡んだ母と娘の愛憎を描いたドラマ10 『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK総合 金曜 夜10時〜〈連続8回〉)に出演中。演じるのは主人公の美月(波瑠)の母・顕子。娘への惜しみない愛がやがて暴走するモンスターのように。その異様な姿が、はっきり言って怖いのだ……。

「私自身も“こんなことありえない!”って思うことがたくさん起こります。でも、顕子の周囲を振り回す力みたいなものが、ドラマを動かしていく役割を担っている。なので、喜怒哀楽の狂気と、ある意味の過剰さを最後まで楽しみながら演じました」

斉藤由貴 撮影/伊藤和幸

 娘に執着する顕子の姿がまるでホラーと話題に。娘の美月とは親友のように仲よしの顕子。いちばんの理解者? と思いきや、娘のデートを尾行する異常行動を。さらに、美月が松島(柳楽優弥)と交際を始めると、彼を誘惑し三角関係に……。

「私自身も怖い人と思われたらどうしよう(笑)」と演じた斉藤も怯(おび)える(?)顕子の暴走から目が離せない!

 撮影は名古屋で。週末に集中的に撮影し、平日は家庭に戻り子どもたちと触れ合う多忙な日々を送った。そんな中、ふと人生について思うことが。

「お仕事にしても私生活でも、そのとき自分に訪れたものを大事にしようって。

 人生って計画的ではなく、雑多な感じがいいんだと思うんです。思いどおりにいったり、失敗したり、ドタバタしながらも最終的には結論なんてなかった。人生、肩ひじ張らずに、流れに身を委ねて生きようと思います」