中古マンションを購入するときに何に気をつければいいのでしょうか?

 最近、中古マンションを購入し、室内を自分たちのライフスタイルに合わせてリノベーションして暮らす世帯が増えています。先日も知人から、中古マンションを購入するときに何に気をつければいい? と聞かれました。本を読んでも、すべて条件をクリアする物件なんてないので、何をチェックすればいいのかわからないと言います。

専門家でも明確に答えられる人はほとんどいない

 これは業界関係者の間でも、見方の分かれるテーマです。専有部分だけでなく共用部分の管理状況や管理組合運営など、いろいろなチェック項目について点数化して、総合点で良しあしを判断するべきという専門家も多くいます。しかし、筆者はこれにはあまり賛成できません。何がいちばん重要かという優先順位には個別性があり、それが加味されなければ買う本人にとって意味がないからです。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 では、どう優先順位をつけたらいいでしょうか。使い古された言葉ですが、よく言われるのが「マンションは管理を買え」ということ。でも、ここにも問題があります。何をして「管理がいい」というのか、専門家でも明確に答えるのは難しいと思います。

 かつてに比べれば、マンション管理に関する情報開示は少しずつ進んでいます。たとえば昨年、国土交通省は標準管理規約(管理規約のモデル)と標準管理委託契約書(管理会社との契約書のモデル)を改正しました。そのなかで中古マンションの売買時に管理状況や管理組合運営に関する情報の開示を促す文言が加わりました。

 しかし、情報だけあっても、判断基準はわかりません。たとえば、管理組合運営を見るときに重要な指標といわれるものに、役員の任期があります。1年か、2年任期の半数交代か。選出方法は輪番制か、立候補制か……などなど。しかし、これらの情報が分かったとして、問題はそれをどう評価するかです。

 一般に1年任期より2年任期半数交代制のほうが、管理組合運営の継続性が保てるので望ましいといいますが、ということは、自分も区分所有者になったら2年続けて役員をするということです。ちょっとそれは荷が重いので困るという方もいます。

 輪番制より立候補制のほうが管理組合運営に熱心な人が多いという声もあります。しかし、必ずしもそうとは限りません。一部の人が理事を独占して、他の人が無関心で、かなり問題がある運営がされているケースもあるのです。そんな事情は、そのマンションに入居して、管理組合のなかに入るまでわからないことです。

 もっと客観的に評価できて、ここだけチェックすれば、「管理がいい」と判断できるという項目がないか。こうしたことを筆者が長年考えてきて、ひとつの結論にたどりつきました。ずばり「管理組合はおカネで見る」ということです。

50年先まで見据えるマンションに注目

 さまざまな価値観をもつ人の集合体である管理組合に「おカネ」があるかどうかは、個人の問題以上に、ものすごく重要なことです。「おカネ」からはさまざまなものが見えてきます。

 特に重要なのは、将来必要な修繕工事のためのおカネを積み立てる「修繕積立金」です。積立方式には2種類あります。

 ベストなのは、必要な額を均等に割って積み立てる「均等積立方式」です。同じ金額を着実に積み立てていけるというメリットがあります。

 しかし、分譲時に売り主が示すものは、当初の積立額を低く抑え、5年ごとに段階的に増額していくことを盛り込んだ「段階増額積立方式」がほとんどです。なぜなら、ローン返済額と管理費や修繕積立金の額を合わせた月々の必要額が高いと、買い手を躊躇させるからです。そこで売り手の側には、管理費等を当初できるだけ低く抑えて、必要金額を安く見せて売りやすくしたいという意図が働きます。

 このような経緯で、「段階増額積立方式」によって当初低く抑えられた修繕積立金の額を、管理組合が、いつの段階で、何年計画をもって見直すかということがマンションの未来にとって大変重要なことになります。

 では、一般の購入予定者は具体的にはどこをどう見ればいいでしょうか? まず、自分が毎月払う「修繕積立金」の額を確認します。ただし、単純に金額が大きいかどうかではなく、その額が何年後までの必要工事を満たせる額になっているか、将来値上げの必要はないか見ることが重要です。これは管理組合に長期修繕計画書を開示してもらうことで確認することができます。

 国交省が示す修繕積立金の計画期間の基準は、新築時30年、その後は25年です。しかし、管理のよいマンションでは、高経年でも30年、築年数の浅いマンションでは50年計画をもつところも最近出てきています。

 若い世帯は、新築マンションを50年先まで住み続けようとまでは思わず、途中で売却を考える人も少なくないでしょう。一方、年金暮らしの世帯は、終の住処として購入しており、途中で修繕積立金が大きく値上がりすると困るというケースもあるでしょう。

 このように、さまざまな考えの人が集まったマンションで、50年以上先までの工事費用を今から積み立てようという合意形成ができているとしたら……。そこは、コミュニティがしっかりしていて、熱意をもって管理組合運営にあたる核となる人がいるマンションだと筆者は確信しています。

 これを成し遂げたマンションに、JR千葉みなと駅のそばにある「ブラウシア」があります。そのマンションでは、50年の修繕計画をもとに修繕積立金を分譲時の2倍とする案を掲げたところ、当初かなりの反対の声が上がったと言います。

 しかし、その一つひとつの声に丁寧に答え、同じ住民である自分たちの声で熱意をもって説明したことで、最終的に90%の賛同を得られたのです。そして、「ブラウシア」は、修繕積立金が分譲時の2倍と高いにもかかわらず、現在中古市場でも非常に人気のマンションで、資産価値も上がっています。

月日がたつほど、おカネで合意できなくなる

 修繕積立金の額の見直しを怠って先延ばしにしていると、最初は安くていいものの、その分後から修繕積立金の額を大幅に上げなければなりません。しかし、高経年マンションでは定年退職後に年金生活する人の割合が多くなり、値上げに対抗がある人が増えます。高経年になればなるほど、おカネは必要になるのに、そのための合意形成は難しくなるのです。

 ですから、早い時期に、将来を見越して修繕積立金の根本的な見直しをして、修繕積立金をしっかり貯めているマンションは安心です。マンション運営に無関心な人や、今だけよければいいという人が多いマンションでは、到底できないことです。

 そして、そういうマンションを新たに購入しようと思う人は、目先の経費の安さでなく、将来の安心を大切に考える人が多いということになります。ですから、年を追うごとに、より維持管理をきちんとしていこうという風土が育ち、いざ改修工事をしようという段階でも、合意形成がしやすくなります。

 最近は、民泊や脱法シェアハウスなど住宅以外の利用で利益を上げようなど、自分で住む以外の目的で購入する人も増えています。そのために、住環境を守るための合意形成に苦慮するマンションもたくさんあります。その点、修繕積立金が高いマンションは、利回りが悪いので、投資目的の人が避けていってくれるというご利益もあります。

 マンションの専有部分をピカピカにリノベーションして購入したら、できれば共用設備も新しく、外観もきれいになってほしいと思うでしょう。しかし、資金に余裕がなく修繕積立金を大幅に上げなければならないようだと、思うような住環境が整わないこともありえます。そういう点でも、中古マンションを購入するときには、マンションにおカネがあるかどうかをチェックすることが重要なのです。

 修繕積立金に余裕があるということは、思わぬ災害に見舞われても、生活環境アップの改修工事の必要が生じても、合意形成もしやすく、迷わず、復旧、改修に取り組めます。おカネがあるということは、未来の保険にも、未来の価値の向上にもつながるのです。

 逆に、たとえ他の条件が魅力的でも、管理組合におカネがない中古マンションは避けたほうがいいと筆者は思います。といっても自分で判断するのは難しいこともあるでしょう。そんなときは、一生ものの買い物ですから、購入前に詳しい人や専門家にアドバイスをもらってもいいかもしれません。

〈著者プロフィール〉廣田信子(ひろた・のぶこ)◎マンション総合コンサルティング 代表(公財)マンション管理センター主席研究員として、10年間、全国のセミナー等で年間約50回の講演を行うとともに、国土交通省からの受託研究、執筆活動を実施。 同時にマンションコミュニティ研究会を立ち上げ、安心で快適な居住を実現するためのコミュニティ形成を支援する活動を開始。 フォーラム、勉強会、メルマガ発信などで、居住者、管理組合、管理会社、マンション管理士等専門家、関連事業者のネットワークを構築、幅広く活動する。