神奈川県小田原市の生活保護担当職員が、“生活・保護・悪撲滅・チーム”の頭文字をつなげた「SHAT」の文字と、英文で「不正受給するような人はカスである」などとプリントされたジャンパーを着用して受給者宅を訪問していたことが明らかになり、小田原市が着用を禁止する騒動があった。
小田原市の問題には及ばないものの、ここ数年、生活保護の受給者には厳しい視線が向けられてきた。
兵庫県小野市では'13年4月、生活保護受給者や母子家庭の児童扶養手当受給者がパチンコなどのギャンブルや飲酒、買い物で浪費しているのを見かけた場合、市民に通報の責務を課す『福祉給付制度適正化条例』が施行された。
「今年1月までに計48件の通報を受けました。生活困窮者を助けてあげてという通報が9件あり、うち2件は保護費受給に結びつけています。男性と暮らしているのに児童扶養手当をもらっている人がいるという情報が15件。過度な消費については6件。残る18件は、通報された人物が受給者ではなかったケースです」(小野市・社会福祉課の横山成彦課長)
大分県別府市と同県中津市は昨年4月、パチンコ店や場外馬券場などに複数回出入りした生活保護受給者の保護費減額処分を取りやめた。県から「不適切」と指導されたことなどがきっかけだった。
「1回目は注意して遊技場に立ち入らないとする誓約書を書いてもらい、2回目で減額していました。ケースワーカーが年1回、市内のパチンコ店や競輪場を見回りしてきましたが、これも取りやめます。ギャンブル依存症対策などに力を入れます」(別府市社会福祉課の中西康太課長)
中津市はいまも月1回の遊技場見回りを続けている。以前は受給者を3回見かけたら“アウト”だった。
「受給者向け冊子で『遊技場の出入りはできません』としていたのを『好ましくない』と変更しました。減額処分中止が報道されると、市民から“なんでパチンコに行かせるんか”“国と闘え”などと意見が寄せられました」(中津市・社会福祉課保護係の植山保彦主幹)
「不正受給の割合は0・5%にすぎない」
人の税金でギャンブルなんて許せない……と思うのだろう。しかし、憲法25条の生存権に基づき、生活困窮者には必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障することになっている。生活保護受給者のギャンブルは禁じられていない。
小田原市の問題では、弁護士や社会福祉関係者らでつくる市民団体『生活保護問題対策全国会議』(大阪市)が小田原市に再発防止を求める文書を提出した。同会事務局長で日弁連・貧困問題対策本部事務局次長を務める小久保哲郎弁護士は、次のように話す。
「保護費全体に占める不正受給の割合は金額ベースで約0・5%にすぎない。件数でみても2%程度なのでごくまれといえる。しかし生活保護をめぐる報道は不正受給に関するものが多く、一般国民に“生活保護イコール不正受給”という間違ったイメージが刷り込まれているように思う。
例えばイギリスはEメールで生活保護を申請できるし、ドイツでは厚労省に当たる機関が生活保護の広報を懸命にやっている。ところが日本では、できるかぎり生活保護を使わせないようにしている。先進国では特異なケースです」