安倍晋三首相(62)とトランプ米大統領(70)が“ゴルフ外交”する直前、永田町では、2人の腕前に差があることを心配して、こんな話が飛び交っていたという。
「まさか安倍さんが勝つなんてことはないだろう。万が一にも勝っちゃうと、トランプ氏がむくれて日米関係がうまくいかなくなる。
しかし、コテンパンに負けるのは日本の首相として情けない。安倍さんが“惜しかった”と言えて、トランプ氏が“ほらみろ!”と気分をよくする決着が望ましい。ずばり、5打差で安倍さんが負けるのがベストだ」
政治評論家の有馬晴海氏が明かすエピソードだ。
安倍首相は10日から12日(いずれも現地時間)にかけて訪米し、日米首脳会談を行い、トランプ氏のフロリダ州の“別荘”に2泊してゴルフなどを楽しんだ。本来、18ホールで競うところを、トランプ氏の誘いでゴルフ場をはしごして9ホール追加した。首脳会談は40分程度でゴルフはたっぷり約7時間。その時間配分が主目的を示している。
はたして、永田町の住人の祈りは通じたのか。安倍首相はゴルフをする前の10日の共同記者会見で「私の腕前は残念ながら大統領にかなわないと思います」と話した。
帰国後、BSフジの報道番組に生出演して、「結構、いい成績が出ましたよ」などと述べた。
両首脳のスコア(成績)は公表されていない。しかし、発言内容からすると、ボロ負けはしなかったようだ。安倍首相は出発前の週末、親族らと約7時間ゴルフをしており、練習の成果が出たといえる。
安倍首相のゴルフの腕前はハンデ30
「安倍首相の腕前はハンデ30だから18ホールを100打で回る。トランプ氏はハンデ3なので80打で回る。腕に差があるので安倍首相はレディース・ティー(カップに近い場所)から打つことを認められた。
しかし、それでもトランプ氏のほうが40ヤードも遠くに飛ばしたらしい。これは接待ゴルフなので勝ち負けは関係ないんです。世界に仲のいいところをみせるのが目的なんです」
と、前出の有馬氏は話す。
安倍首相が昨年プレゼントした金色の特注ドライバー(50万円相当)は使ってもらえなかった。せっかくの贈り物なのに、トランプ氏は練習で振っただけという。
「トランプ氏は身長約191センチで体格もいい。金ピカのドライバーはシャフト(棒の部分)がやわらかいため、腕力のあるゴルファーが振ると、しなりすぎて使いにくいんですよ」(前出の有馬氏)
気配りゼロで、どちらがホスト側かわからない。
もっとも、トランプ氏の資金力や権威にモノをいわせた“おもてなし”は十分だった。所有するフロリダ州パームビーチの会員制リゾート施設『マール・ア・ラーゴ』に昭恵夫人同伴で2泊させ4度の食事をともにした。入会金2000万円以上、1泊20万円以上というセレブの宿でお会計はトランプ氏持ち。ワシントンからこの“別荘”まで大統領専用機『エアフォースワン』で飛んだ。
ただし、食事のメニューはわかっていない。
「トランプ氏はハンバーガーとピザが大好き。野菜はフライドポテトです。何を食べたか知りませんので、そこから推察するしかない」(有馬氏)
なぜ、ゴルフはそれほど有効なコミュニケーションツールになるのだろうか。
「ゴルフを一緒にすると人柄がわかる。会議と違ってメモが残らないから冗談も言えるし、親密になりやすい。ビジネスでも政治でも同じ。
今回の訪米は、麻生副総理が経済分野、岸田外相が防衛分野、安倍首相はゴルフという役割分担です。ゴルフ場はいずれもトランプ氏所有のコースで、当日9ホール追加したのは“こっちも見て”という自慢でしょう」(前出の有馬氏)
安倍とトランプは“バカップル”か
両首脳は接待ゴルフにとどまらない濃密な関係をみせた。ホワイトハウスに安倍首相を出迎えたトランプ氏は遠距離の恋人に再会したような熱いハグで出迎え、尋常ならざる距離まで顔を近づけてスマイル。写真撮影では19秒間握手した。ストップウォッチで計ればわかるが、もはやこの長さの握手は「握手」と呼ばない。電車内で手を握り合う“バカップル”と同じで見ているほうが恥ずかしくなる。
しかし、トランプ氏は、「僕らはとても気が合うんだ」と上機嫌だった。
ジャーナリストの大谷昭宏氏は「トップ同士が親交を深めるのは悪いことじゃありませんが」と前置きしつつ、その関係性に疑問を投げかける。
「いつからの付き合いですか? 就任前の昨年11月に初対面しただけじゃないですか。それなのに19秒間も握手し、トランプ氏は安倍首相の手を包むようにポンポンと叩いた。簡単に言えば、世界でまともに口をきいてくれるのは安倍首相しかいないからですよ」(大谷氏)
これまでトランプ氏は円安や対日貿易赤字にいちゃもんをつけ、在日米軍の駐留経費を「全額負担しろ」と言ってきた。しかし、そうした暴論はひとまず封印し、世界に仲のよさを印象づけた。安倍首相はそれに乗り、トランプ氏によるイスラム圏7か国の国民の入国禁止令について「米国の内政問題なのでコメントは控えたい」と口にチャック。
「米メディアから“おべっか使い”などと評されました。国籍、民族、宗教、性別などで人を差別しないのは当たり前のことです。諸外国の首脳が“間違っている”と批判しているのに、それも言えず、友好だと言ってへつらう。番長に接近して、弱い者には居丈高に出るパシリと同じです。蔑みの対象にしかなりません」(前出の大谷氏)
トップの言動によって日本はイメージダウンしたかもしれない。しかも、弱腰外交の代償はそれだけではすまなさそうだ。
「米国政治を支えているのは軍事産業です。活性化させるため、トランプ氏は日本にオスプレイを山ほど売りつけてきますよ。安倍首相はその意を酌んで先回りし、軍拡路線に走るでしょう。日本が貢げばトランプ氏は延命できる。そうでないと四面楚歌のトランプ氏はもたない」(大谷氏)
前出の有馬氏は、
「安倍首相がお土産に持参した金色のボールペンは3800円です。しかし、本当のお土産は、米国などへインフラ投資して約70万人の雇用を創出し、約51兆円の市場をつくるという約束です」と話す。
無意味にニコニコ笑った代償は高くつきそうだ。