2016年5月21日、東京都小金井市にて、音楽活動をしていた冨田真由さんが岩埼(いわざき)友宏被告に刺され重傷を負った事件の第4回公判が、2月23日に行われた。常軌を逸した身勝手な犯行として、検察側は被告に懲役17年を求刑したが、これに対しフィフィは異議を唱える。今回はアディーレ法律事務所の岩沙好幸(いわさ・よしゆき)弁護士の見解も参考にしながら問題に向き合ったーー。

17年でも軽すぎる

殺人未遂と銃刀法違反の疑いで送検され、小金井署を出る岩埼容疑者

 岩沙弁護士によれば、一般的には、殺人未遂罪の求刑は6~10年程度、量刑は4~8年程度になることが多いそうです。

 それを踏まえると、今回の求刑は相場よりかなり重いみたいね。だけど、私はそれでも軽すぎると思う。情報をめぐって大きく社会が変わってきているなかで、司法や裁判のプロセスなど、すべてが時代に追いついていないと思うんですよね。

 SNSが発達したことによって、とくに表に出る人間は、常に行動が把握されやすい状況下にあります。いつ、どこで、何をやっているか。もちろん、それを宣伝に使うこともできる。だけど同時に、嫌がらせを受けたり、仕事を辞めなくてはならないほどの恐怖を与えられたり、今回のように生命の危険に脅かされる事件に繋がることすらあるわけです。

 嫌がらせの方法も、昔は手紙やハガキなどを通してでしたが、いまではSNSを通すことで、巧妙に、直接的に、さまざまな手段で恐怖心を与えてきます。私自身、朝起きてTwitterを開くと、自分への殺害予告が目に飛び込んできたこともありました。

 アイドルへの殺害予告となれば、より気をつけなくてはなりません。単に憎しみから嫌がらせをするのではなく、その根底には“愛情の裏返し”。つまり、そのアイドルを振り回すのが楽しい、そのアイドルの人生に何かしらの爪痕を残したいという思いがある場合が多く、SNSはストーカーと化した人たちのそうした思いを実現するための恰好のツールとなりかねませんから。

 たしかに今回の求刑は、現在の法律上での“一般的”な求刑、“前例”にある求刑と比べると、厳しいものなのかもしれません。

 だけど、このように時代が変わってきた以上、SNSを通じて再び繋がりやすくなる脅威から被害者を守るためには、その“一般的”もしくは“前例”とされている求刑の基準そのものを考え直す必要があるのではないかと思うんです。時代に即していないんじゃないか、被害者を守るには十分ではないんじゃないか、と。

被害者が実際に法廷で証言せずとも、安全に生きることができる法を

 そしてこの17年という求刑も、被害者が実際に法廷で証言したからこそ出せたものですよね。

 岩沙弁護士がおっしゃるには、今回の意見陳述は、被害者の心情を中心に意見する「被害者等の意見陳述」(刑事訴訟法292条の2)を利用しているそうです。この法律では、被害者自らが希望して申し出ない限り法廷で陳述を行えないとのことですが、そうでもしなければ17年という厳しい求刑は出なかったわけです。

 被害者の前に、ついたてはあったものの、目の前には被告がいるわけです。そのうえ被告は、怒鳴り声を上げ退廷を命じられたといいますから、被害者の恐怖は相当なものだったはず。

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性すらある被害者が被告と同じ空間に身を置くことで、如何に大きな恐怖に苛まれるのかということくらい、私たちでも容易に想像がつくわけですから、専門家の方たちは当然あらかじめ想定できたことですよね。

 被害者がここまでせずとも、“安全に生きることができる”という安心感を抱くことのできる判決が下される。そうした司法、裁判のプロセスが一日も早く実現されることを願うばかりです。

<構成・文/岸沙織 取材協力:アディーレ法律事務所・岩沙好幸(いわさ・よしゆき)弁護士>