2011年3月11日、東日本大震災で両親を失った少年(当時9)は、癒えようのない傷を心に負ったが、大人になるまでしっかり勉強に打ち込めるだけの経済的余裕は残されていたはずだった。
亡くなった両親の遺産や死亡共済金、震災義援金などが少年には残されていた。ところが、そのお金がたった3年間で底をついてしまった。少年を食いものにして約6800万円ものお金を使い込んだのは、少年の母の弟、つまり少年の叔父にあたる島吉宏被告(41)だった。
身内の裏切りにあった少年は自ら児童相談所に保護を願い出て、いま15歳になる。島被告は、金を使うだけでなく、少年に殴る蹴るの暴力までふるっていたという。悪質極まりない。
犯行が明るみに出るまで、震災で両親を亡くした甥を引き取り育てる叔父として、メディアに何度も取り上げられていた。
そのたびに、全国から寄付金や物資が寄せられたが、少年の手に渡ることはなかった。すべて島被告が、懐に入れていた。
島被告は、震災直後から悪事に手を染めていた。少年の母親=自分の姉名義の貯金通帳を、姉は入院中だと虚偽の申請をし、銀行に再発行してもらい、まんまと120万円をネコババしていたのだ。
それで味をしめたのか、少年に遺産が入ることを見越した島被告は、震災発生から2か月後の5月、未成年後見人として選任された。
『弁護士法人・響』の徳原聖雨弁護士が、解説する。
「後見人制度は、未成年に代わって財産の管理などをするもので、使用金額や口座の残高を毎月家庭裁判所に報告する必要があります。この制度を悪用して横領する事件はまれにあるものですが、今回の場合は、金額も非常に高額ですし、悪質ですよね」
未成年後見人になった島被告は、やりたい放題だった。
「金回りがよくなった」「羽振りがよかった」というのは周囲の一致した見方で、仕事の関係者は、
「最初は車が高級なものになって、次に着ているものも高価なものに変わりましたね」
相続した遺産で和食料理店をオープン
腕のいい料理人だったという島被告は、震災翌年の'12年6月、宮城県石巻市内に、和食料理店をオープンした。
「当初は、調理とホールで12~13人はいた」と納入業者。
同市内で飲食店を営む50代の男性は、
「カウンターは檜造りで、すごい金をかけた店内だと、内装業者に聞きました」
この開店資金も、少年が相続した遺産からだった。派手な生活は、目についた。
「店に出勤するときもベンツ。金があるなとは思っていましたけど、1か月後ぐらいに別の型のベンツに乗ってたんですよ。不思議に思い、買い換えたんですか? って聞くと“代車なんだよ”って。実際は甥の金でベンツを2台も買っていたみたいですね」
そう明かすのは仕入れ業者。別の仕入れ業者は、
「朝に魚を買いにくるんだけど、他の店の倍の量は仕入れていましたね。忙しかったんじゃないかなぁ。ただ、車に匂いがつくのが嫌だから商品は全部配達。高級な食材を大量に仕入れるときは“大変だろうから先に払おうか”なんて、いかにも俺は金を持っているんだと匂わせることもありましたね」
最初は繁盛していたという。市内に住む50代の女性は、
「食材もいいものを使っていたから、料理はおいしかったですよ。値段は高いけど」
一方で、「1回行ったけど、たいしたことないね」と、ばっさり切り捨てるのは市内に住む30代の男性だ。
「車で行かなきゃいけないから、わざわざ行こうって思わない。石巻なら魚はもっと安くてうまい店があるからね」
従業員への暴力のほかにもクレーマー体質が
評判はまちまちだが、従業員はひどい目にあっていたようだ。島被告の横暴さに嫌気が差し、やがて1人辞め、2人辞め……。前出の納入業者は、
「従業員に暴力をふるうんです。調理の若い男の子なんて、顔に青タンをつくっててね。どうしたのって驚いて聞いたら“ちょっと……”と言葉を濁していました」
事情を知る飲食店関係者は、
「客の前でも怒鳴るわ、暴力はふるうわで最後はホールの女の子3人だけでしたよ。厨房が自分ひとりでよく回るなって思っていましたけどね。実際に暴力をふるうのを見たことがあるけど、殴る蹴るで、ひどいもんだったよ」
と話す。
さらに、島被告のクレーマー体質を指摘する声も。前出の納入業者が続ける。
「優しく話していたかと思うと、急に激昂して怒鳴りだすんです。配達に5分ぐらい遅れてしまったことがあって、“お前のせいで食材がダメになった。弁償しろ”と怒鳴られましたよ。本当に嫌な人だなと思っていました」
自分が客として昼食を食べに行った店の女性従業員を怒鳴りつけたり、同業者の店に嫌がらせのようなクレームをつけるなど、悪評ふんぷん。
車や高級服の購入、開店資金と湯水のごとく金を使い、
「甥が陳述書で明かしていましたが、中学になるまで小遣いはもらえなかったそう。それなのに島被告は寿司屋や焼き肉屋に週に5日は行ったり高級時計を身につけていたそうです」(民放報道局記者)
'12年8月には、20代前半の女性と結婚し、子どもを2人もうけていたが、島被告の逮捕後に離婚している。自宅に帰ってきた前妻に尋ねた。
─島さんですよね?
「違います」
─では○○さん?(離婚後の妻の姓)
「何なんですか? 迷惑なんですけど」
─(前夫が)虐待をしたり、お金を使い込んだりしましたよね?
「何も話すことはありません」
─豪遊したんですよね?
「……(電話しながら自宅へ)」
島被告には一審で、業務上横領や詐欺などの罪に問われ懲役6年の判決が言い渡されたが、少年の被害額は将来、回復することができるのか。
前出の徳原弁護士が見通す。
「今後、甥が民事訴訟を起こし弁済を求めれば、勝てる可能性が高い。自己破産を選択して逃げる人もいますが、悪意のある行為によってできた負債は消えません。後見人として家裁に報告していない口座があったことなどから、悪意が認定される可能性は十分にあります。(前妻も)島被告の横領を知りながら使っていたとされるのであれば、返済を求められるでしょうね」
信頼していた叔父に裏切られた精神的ダメージ。少年は今後の進路設計などを大きく描き直さなければならなくなってしまった。両親を亡くした少年の人生を狂わせた島被告の悪行は、たとえ全額弁済したとしても、償えるものではない。