「あの人、やめといたほうがいいよ。あの人のあだ名、淀君だから……」
これはTBS系ドラマ『カルテット』でのセリフ。“あの人”とは、吉岡里帆が演じる来杉有朱のこと。
「有朱を好きな家森(高橋一生)が、有朱の妹にそう言われるんです。彼女のいるクラスだけ学級崩壊になったり、IT関係で働いていた元彼が毎日パチンコ店に並ぶ人になったというエピソードで不穏な匂いはしましたが……」(テレビ誌ライター)
淀君とは“日本三大悪女”とも言われる豊臣秀吉の側室。これまで清純派のイメージが強かった吉岡も、このドラマですっかりイメージが覆ったといっても過言ではない。
松たか子が演じる主人公に夫の殺人について詰問するシーンでは畳みかけるように、
「大好き、大好き、大好き、大好き、殺したいって!」
松、満島ひかりという主役級女優たちに引けを取らない迫力の演技を見せた。
そんな吉岡の演じる悪女について、ドラマ評論家の成馬零一氏はこう語る。
「吉岡さんの怖いところは、何を考えているかわからない部分。目がまったく笑っていないのも不気味さを醸し出します。主要な4人の中に交ざって波風を立て、事件を起こすというある種、狂言回しのような役をこなしています」
今期のドラマでは、主演を食うような“悪女”の活躍がめざましい。TBS系日曜劇場『A LIFE〜愛しき人〜』で、菜々緒が演じる腕利きの弁護士は、政界にもコネを持ち、担当する病院では、家庭がある副院長と不倫中という“ザ・悪女”。
彼が思いどおりにならず吐いた、「どうして愛してくれなかったの……」というセリフも悪女顔の彼女だからこそハマる。彼女に太鼓判を押すのは、コラムニストのペリー荻野氏。
「“フツーの菜々緒なんて見たくない!”と思わせるくらい、菜々緒さんは安定感があります。視聴者の見たい“正統派悪女”を演じきってくれていて、ありがたいです」
「ここにいるよぉ〜!」とクローゼットから夫の浮気現場に出現。その姿はもはや恐怖を通り越して、コミカルと話題だったのは、テレビ朝日系『奪い愛、冬』で怪演した水野美紀。
「悪女に対してのやる気が伝わってきますよね。よく研究してあるし、ためらわずに勇気をもって演じきっています。まじめに“むしってやる!”なんてセリフ笑っちゃうんですけど“次は何をしてくれるんだろう?”と見守っちゃいました」(前出・ペリー荻野氏)
今期ドラマの三大悪女たちのほかにも、フジテレビ系『真昼の悪魔』で“悪女”よりも“悪魔”な演技を見せるのは、田中麗奈。
「田中さんが演じる外科医は感情がなく、人の苦しむ姿を見て生きていることを実感する人。手の甲に平気で針を刺すなどの恐ろしい行動をしたあとで、高笑いをする彼女の演技には鳥肌が立ちました」(前出・テレビ誌ライター)
また、これまで悪女として名を馳せた人は多い。
「'82年に放送されたNHK『けものみち』では、主演の名取裕子さんが第1話で夫役の石橋蓮司さんを焼き殺したんです。それまでおとなしい役柄が多かった名取さんだけに“過去の自分のイメージも焼き殺したんだな……”と思うくらい印象に残るシーンでした」(前出・ペリー荻野氏)
記憶に新しいのは相武紗季。
「'09年に月9『ブザー・ビート』(フジテレビ系)に出演して以降、悪女役が増え、立て続けに悪女を演じましたが、本人は意外とノリノリ。街中で“本当は性格のいい人なんですね!”と言われたとか」(前出・テレビ誌ライター)
泉ピン子や野際陽子、キムラ緑子など、嫁の敵となるイヤ〜な姑枠も悪女の一環。
「義理の娘を徹底的にイジメる姿は貫禄があります。息子への溺愛ぶりが嫁という敵に向くというわかりやすい構図ですね」(前出・成馬氏)
彼女たちの姑ぶりとは異なる母を演じたのは、NHK『お母さん、娘をやめていいですか?』で波瑠の母親を演じる斉藤由貴。
「娘を愛しているがゆえ、何でもお世話してあげるのですが、それとなく彼氏と別れるよう仕向けたり、自分の意思を押しつけたりと、娘さんの自主性を奪っていくんです。恋愛をこじれさせる悪女よりも、母娘だからこその重すぎる愛に狂気を感じました」(前出・成馬氏)
悪女が演じるシーンの中には思わず目を覆いたくなる場面もあるが、それでも視聴者はヒールたちに惹きつけられている。いったい、どんなところが彼女たちの魅力なのか。
「心のどこかで“クラスにこんな子いたな”“自分もわかるな”という共感できる部分があるんだと思います。それに、彼女たちがヒロインより圧倒的に強くないと、ドラマは始まりません。主人公は涙目で悪女の行動を待つ待ちの姿勢でいることがほとんど。ドラマを見ていると、“出でよ、悪女!”って思っちゃいます」(前出・ペリー荻野氏)
成馬氏も賛同する。
「実は最近のSNSに投稿される感想では、正ヒロインのような清純派優等生キャラは、嫌われやすい傾向があります。本音をしっかり言えるダークヒロインのほうが好かれるんです。正ヒロインにはない強さを持った悪女に惹かれる部分があるのでしょうね」
そんな悪女たちの演技に、これからも私たちは魅了されていくことだろう。