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 どのような仕事でも、ストレスから切り離すことはできません。大手広告代理店の新入社員の過労自殺などが報道されましたが、過度なストレスを受ける職場環境もあります。自分自身でいかに心身を守るか、その重要性が以前よりも増しています。そこで、医師であり、再生医療技術支援などを行う企業の経営者でもある北條元治先生(株式会社セルバンク代表取締役、医学博士)に、職場で最高のパフォーマンスを発揮するための健康マネジメントについて聞きました。

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 私は若い頃に「24時間勤務」の研修医時代を過ごしました。当時は今のように勤務体制や給料は定められていないに等しく、過酷といわれる職場で健康を維持しながら技術力を高め、新たな発想を生み出す習慣を身につけたのです。「カラダ」「ココロ」「アタマ」の3つが健康だからこそ、仕事のパフォーマンスが上がることを痛感しています。

 一般のビジネスマンの方々は、職場環境や仕事内容を変えることは至難の業だと思います。ただし、環境は変わらなくても自らが変わることで、健康を取り戻して仕事のパフォーマンスを上げることはできます。

 そこで、私の身につけた方法を『最高のビジネスパフォーマンスを実現する101の習慣』(秀和システム刊)という本にまとめました。今回は、その中から「やる気になる、強いメンタルを鍛える」ために必要な習慣をいくつか紹介します。

『最高のビジネスパフォーマンスを実現する101の習慣』(秀和システム刊)。ビジネスパーソンが仕事力を120%上げるために必要な「カラダ」「ココロ」「アタマ」を整える健康習慣を101項目紹介。*画像をクリックするとamazonの購入ページにジャンプします

仕事に「100%」を求めない。完璧ではなく「9割の出来」で余裕を持つ

 大多数の人は、上司や職場から与えられた職務をこなしています。その仕事がご自身の理想とかけ離れていればいるほど、ストレスを感じやすくなるのです。また、「業務が多すぎて好き嫌いをいっている場合ではない」という人もいます。

 このように、ストレスを抱えやすい業務に対しては、「完璧にこなそう」とがんばり過ぎてはいけません。上司などからダメ出しをされたときに心が折れやすいからです。「あれほど一生懸命にがんばったのに、評価されない」というのは、ストレスを強く感じる原因になります。

 完璧を目指すのではなく9割を目指す。それがストレスを軽減するひとつの方法です。手抜きを推奨するのではなく、気持ちのゆとりをご自身で作ることに意味があります。

 たくさんの業務を全て完璧にしようとして、業務が滞ってしまうよりは、全てを9割程度の出来でも、完遂させることの方が効率的ともいえます。もちろん、完璧に遂行できないことにストレスを感じる人もいます。そんなときには、「完璧にするのは次回」と自らに言い聞かせて、心の余裕を維持しましょう。

上司の「理不尽な言動」には逆らわない。「受け流す」のがストレスをためないコツ

 厚労省の「労働者健康状況調査」によれば、「仕事や職業生活でストレスを感じている」人は、1982年に50・6%でしたが、2012年には60・9%に増加していました。しかも、仕事の質や量よりも、人間関係にストレスを感じると回答した人が最も多かったのです。

 職場には自分と全く異なるタイプの人もいるため、そういった人の言動に対してストレスを感じやすいともいえます。パワハラのように理不尽ないいがりをつける人がいると、さらにストレスを感じるでしょう。権力を振りかざして嫌がらせをする人は、それに快感を覚えているため、その人が去るか、自ら辞めないかぎり、改善は難しいといえます。

 そんな人に「あなたは間違っている!」と叫んでも無駄です。上司のゆがんだ性格を部下の立場で変えるのは無理ですし、さらにいじめを受けるような事態にもなりかねません。むしろ、「申し訳ございません」と謝りながら受け流すのが一考です。

 理不尽な言動をされて、「なぜ自分が謝らなければならないのか」と考えれば考えるほど、ストレスはたまります。キライな相手の言動で、ご自身の健康が損なわれては元も子もありません。心の中で、「いうだけ無駄、この人はこういう性格」と割り切ることで、ご自身のストレスを回避するのが得策です。

 ただし、暴力などを振るわれたならば、人事部に相談するなど強気な態度で相手を追求しましょう。謝るといっても、決して理不尽な言動を容認することをお勧めするわけではないからです。

職場のストレスに「耐える」必要はない。自分の「ストレス耐性」を知る

 職場に限らず、日々、人間はさまざまなストレスにさらされています。ストレス反応を起こすストレッサーには、心理的なこと、気温の上り下がりといった物理的なこと、薬物などの化学的なことなどがたくさんの種類があります。

 季節の変わり目は体調を崩しやすいといわれますが、気温の変化に伴う物理的なストレッサーに身体が反応し、上手く適応できずに抵抗力などが落ちることに関係しています。ただし、高温や低温の状態が長く続くと体が慣れてストレスを感じにくくなります。予想を超えた過剰なストレスに対しては適応しにくくても、同じような状態が続くことで慣れていくわけです。これをストレス耐性といいます。

 そのため、職場でのストレスに苦痛を感じている人に、「ストレス耐性を高めなさい」とアドバイスする人もいますが、実はストレス耐性を高めることは容易なことではありません。なぜなら、体調を崩すような職場のストレスが、そもそも予想を超えるような過重なストレスだからです。

 この状態で耐えようとすれば、心身に悪影響を及ぼしかねません。確かにタフな人はいます。経営者では物事に動じない人もよく見かけます。しかし、それは昨日今日といった短時間で会得されたものではなく、ご自身の経験によるところが大きいといえます。ストレスに弱い人が、そもそもタフな人と同じようなことをしようとしても無理があるのです。

 過剰な職場のストレスから身を守るには、ド根性でストレス耐性を身につける必要はありません。「なんだか調子が悪い」と思ったときに、医療機関を受診するなど早めの対策が功を奏します。「自分はストレスに弱い」と認識を持ち、これ以上は耐えられないといったストレス耐性を理解しておくことが、メンタルヘルスでは役立ちます。

「怒り」がこみ上げてきたら「意識を他に集中」して深呼吸する

 世の中には、人に対して不快な思いをさせる言動を平気で行う人はいます。不愉快な言動を投げかけた相手が怒りや悲しみなどの表情を見せると、エスカレートすることもあります。このような人が上司の場合は、反論することなくひたすら我慢しなければなりません。そんなストレスを交わすには、意識を他に向けることがひとつの方法です。

 たとえば、「申し訳ございません」と頭を下げながら、ご自身の靴の状態を見るという人がいました。「平日、妻が靴を磨いてくれるのですが、通勤や外出で汚れていないか、新品を購入した方がよいかなどと意識を集中させるのです。すると、理不尽な相手に反撃したいとの強い欲求が薄れ、冷静になれます」

 誠実な相手に謝罪するときには、心から謝らなければなりませんが、理不尽な相手については、意識を上手くそらしてストレスをためないようにすることが大切です。

 また、ビジネスでは、冷静な判断力は欠かせません。部下がミスをしたときも、カーッと頭に血が上ることはありますね。しかし、部下を激しく非難しても、すでに起こった問題は解決できず、業務進行は遅れるばかりです。そんなときには、ご自身の呼吸に意識を向けると、冷静さを取り戻しやすくなります。

 緊張したときに優位になる交感神経は、ゆっくりとした呼吸により副交感神経に働きかけることで、バランスを保つことができるのです。カーッとなったときも同様です。

 仕事で不測の事態に陥ったときには、ご自身の呼吸に意識を向けて、深呼吸すると冷静さを取り戻しやすくなります。怒りや悲しみといった負の感情がこみあげてきたときには、ぜひ試してみてください。

仕事のミスで「自己嫌悪」に陥らない。「ありのままの自分」を受け入れる

 ストレス社会といわれる中では、心が折れそうなときはあるでしょう。同僚や友人に失敗したことなどの話をして、ストレス発散のはずが、逆にその出来事が思い浮かんで悲嘆する人はいます。

「自分で変わらなきゃいけないことはわかっているんです。でも、なかなか変えられない。本当につらいです」

 こう話す人もいました。しかし、中年期に差し掛かった人が、生まれ持った性格などを一変させるのは難しいといえます。それまでさまざまな経験によって形成された性格は、食事内容や運動習慣といった生活習慣は変えるように、簡単に本質を別人のように変えることには無理があります。

 自己嫌悪に陥る、あるいは、ご自身を変えようとする必要はありません。ありのままの自分を受け止めてください。

 仕事のパフォーマンスを上げるには、自分の欠点を把握してカバーすることが重要になります。そのためにも、ありのままの自分を受け入れて、自らの短所を客観的に把握することが必要なのです。

 仕事で同じミスを何度も繰り返すと非効率的でしょう。なぜミスが続くのか、他人に指摘されるよりも、ご自身で解明することが求められます。自覚することがポイントなのです。自覚できなければ、また同じ過ちを繰り返すことになります。ご自身を受け止め、欠点を把握して補うことを考えてください。

いやな仕事でも「後ろ向き」に判断せず、とりあえず「はい、わかりました」と言う

「いやな仕事はやりたくない。でも、成果は上げたい」

 このようなオファーを受けたときには、とりあえず「はい。わかりました」ということがひとつの方法になります。

 人間の体は、ストレスに対する防御反応が備わっています。「いやな仕事だな」と思ったときに、すでに脳はストレスを感じるので、「なるべく避けたい」と自然に回避の道を模索するのです。結果として起こりがちなのは、仕事に対する言い訳といえます。

「この仕事で大きな利益を上げられるとは限らない」「手間暇をかけても成果になりにくい」「自分以外の人でもできるだろう」など、仕事を回避するための思いは次々と浮かんできます。もちろん、仕事内容によっては、受けない方が無難なことはあるでしょう。無理難題の業務で遂行不能なことを手掛けても、時間の無駄にしかなりません。それで健康を害しては踏んだり蹴ったりともいえます。

 仕事内容を考慮して「受けません」と決断するのは前向きな考え方ですが、「やりたくない」ために「しばらく考えさせてください」というのは後ろ向きな判断です。とりあえず「はい。わかりました」といって引き受けると、前向きな気持ちに後押しされて、意外な成果につながることもあります。

他人からの「自己否定」は自らの「欠点を克服」するチャンス

 ある日突然、部下が会社を去っていくということは珍しいことではないでしょう。「あれほどかわいがっていたのに…」「私の方法のなにがいけなかったのか…」などと考えると、自己否定のような思いが膨らんで落ち込みがちです。しかし、去っていく部下に心を痛める必要は全くありません。

 四半世紀も前から成果主義を導入する企業は増えています。仕事の仕方は多様化しているのです。このような状況では、転職してキャリアアップを目指すことも、当然でしょう。誰もが「よりよい職場で実力を発揮したい」と思うのは当たり前なので、その選択として会社を去る部下に、自分や職場が否定されたように感じる必要はないのです。

 一般的に、好きな人から「あなたは太っていて私のタイプではない」といわれ、一念発起してダイエットに励み、見違えるように素敵な姿になる人がいます。好きな相手が驚けば、自己満足にもつながるでしょう。相手からの自己否定は大きなストレスになるものの、それを上手く利用すると、自らの欠点を克服するチャンスになるのです。

 他人からの自己否定は、成長の糧になります。一から十まで否定され続ければ、過度なストレスで心身に悪影響を及ぼしますが、1つや2つの自己否定は、ご自身の成長の後押しになるのです。やがて、自己肯定につながると思いましょう。

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北條元治(ほうじょう・もとはる)◎株式会社セルバンク代表取締役、RDクリニック顧問、東海大学医学部非常勤講師、形成外科医、医学博士。1964年、長野県生まれ。1991年、弘前大学医学部卒業。信州大学医学部附属病院勤務を経て、ペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。帰国後、東海大学医学部にて同研究と熱傷治療に従事。2004年、細胞保管や再生医療技術支援を行う株式会社セルバンク設立。2005年、RDクリニック開設に際し、培養皮膚の特許を供与。著書に『ビックリするほどiPS細胞がわかる本』『医者が自分の家族だけにすすめること』など多数。