各国の予選を勝ち抜いた精鋭が集う、世界最大のバリスタの国際大会「ワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)」で、2014年、わずか24歳にしてアジア人初のチャンピオンに輝いた井崎英典さん。日本、そしてアジアでも唯一「世界一」の称号を持つバリスタ井崎さんは現在、コーヒー専門のコンサルタントとして、世界中のさまざまなクライアントとコーヒー関連の事業を手掛けているが、最も重視しているのはバリスタの教育だ。
最高の一杯を提供するために、何をすべきかを徹底的に追及し、世界のバリスタに伝えている。27歳の若さで、指導者としての実力は折り紙付き。今年のWBCには、井崎さんが日本、イタリア、スイスで指導したバリスタが、それぞれの国の代表として出場する。
日々、「おいしいコーヒーとは何か」を追求している井崎さんに、「自宅でできるおいしいコーヒーの淹(い)れ方」を聞いた。
■チェックポイント(1) 豆は生鮮食品
──カフェブームの影響で、最近は自宅で豆を挽いてコーヒーを楽しむ人も増えています。おいしく淹れるためのコツはありますか?
井崎:わかりました。4つのポイントに分けて紹介しましょう。
最初に、コーヒー豆。豆は生鮮食品なので、買うときは、お店の人とコミュニケーションを取ることをおすすめします。たとえば、スペシャルティコーヒーのお店は、豆を商社から買い付けているか、直接買っているかのどちらか。
そうすると、コンテナが着く時期がそれぞれ違うんです。お店は当然、先に着いたものから出していくので、着いたばかりのものはフレッシュだし、残り物は鮮度が落ちていきます。お店は、その時々の新しいラインナップを持っているし、お勧めの豆はその時々によって違うので、たとえば「旬なコーヒー豆は何ですか?」と質問すれば、そのときにおいしい豆を教えてくれますよ。
同じ国の豆でも、テロワール(土地の気候や地勢)が違えば味わいも全く別物です。ぜひ、いろいろな地域の「旬」のコーヒー豆を試してほしいと思います。
■チェックポイント(2) 水の硬度
──おすすめは「お店の人と話をして、旬のコーヒー豆を手に入れる」ですね。次は?
井崎:水です。日本の水道水はコーヒーと相性が悪いわけではないんですが、よりおいしく飲むために、できれば硬度が30~100のミネラルウォーターを使ってほしいですね。
硬度とは、水に含まれているマグネシウムとカルシウムの量を表しているのですが、最新の研究で、マグネシウムとカルシウムがコーヒーのフレーバーや質感を引き出すとわかっているんですよ。
ドリップコーヒーの場合、水の割合が98.5%以上になります。つまりいい水を使えば、素晴らしいコーヒーを淹れられる可能性が高くなるということです。
ちなみに、僕は“変態”なので、ピュアにコーヒーの抽出に必要なミネラルを入れた水を作っています。そうすると、ものすごいフレーバーが出るんですけど、ご家庭でコーヒー専用の水を作る方はいないと思うので、ミネラルウォーターの硬度を見てもらうだけで十分です。
■チェックポイント(3) しっかり計る
──「硬度が30~100のミネラルウォーター」を使うと、良いフレーバーや質感がでると。3つ目は?
井崎:計量です。みんな面倒くさがってやらないんですが、しっかり計量するだけでコーヒーの味がガラッと変わります。
何グラムのコーヒー豆を使って、何グラムのお湯でコーヒーを淹れるのかという抽出比率が大切で、ドリップだったら、100グラムのお湯に対して6グラムから8グラムのコーヒー豆を入れましょう。そうすると、いわゆるプロが出している味に近いものができます。
フレンチプレスの場合は、300ミリリットルのものにたいして、16グラムから18グラムの豆を入れてください。そうするとコーヒーの味わいは非常に安定します。
数グラムの違いなんてたいしたことないでしょ、と思う人もいるかもしれないけど、そこまでこだわってもらえれば、自宅で本当においしいコーヒーを楽しめますよ。
■チェックポイント(4) 豆の挽き方
──プロの味に近づくためには、きっちり計量するといいんですね。最後は?
井崎:自宅で豆を挽く人は、クオリティの高いグラインダーを使ってください。少し専門的な話になるのですが、コーヒーの抽出は粉の形で決まるんです。
挽いたときに、どれだけ一粒の豆の表面積を増やすかが重要なんですが、安いグラインダーだと粉の形が悪くなって、表面積が狭くなるんです。
しかも、粒度が粗いものと細かいものが混在して、ばらつきが大きくなって、せっかくいい豆を買っても味が落ちてしまう。味にこだわるなら、数万円はしますが、カリタのナイスカットミルぐらいのクオリティのグラインダーを使ってほしいですね。
もし自分で挽くことにこだわりがなければ、豆を買ったコーヒー屋さんで挽いてもらうのが一番確実です。スペシャルティコーヒーのお店は、だいたい20万円、30万円以上のプロ仕様のグラインダーを使っているので、家庭用の最上機種とは比べ物にならない性能です。ちなみに、僕はいつも40万円以上するグラインダーを使っています。
──4つのポイント、ありがとうございました。
井崎:ぜひ、普段の淹れ方でつくったコーヒーと飲み比べてください。味の違いが分かると思います。