寒気が緩んだ16日朝、大阪市の淀川右岸にある塚本幼稚園で卒園式があった。園児の教育勅語暗唱や「安倍首相がんばれ。安保法制、国会通過よかったです」などと声をそろえる光景が繰り返し報じられ、保護者たちはマスコミを避けるように帰宅した。
2年前にPTA会費の使途に異議を唱えて退園させられた保護者は「猫の通園バスが可愛くて入れましたが、教育勅語とか変なこと教えるなあとも思いました。でも、転園したら制服やら鞄やらにもお金がかかる。あと1年くらいガマンしようという親も多いんです」と明かす。
すべての保護者が籠池氏の信奉者というわけではない。
一方、『瑞穂の國記念小學院』にわが子を入学させようとしていた保護者たちは2週間前の3月3日、大阪府庁で涙ながらに4月開校を訴えていた。しかし、籠池氏は10日に幼稚園で会見を開き、認可申請の取り下げと理事長職を長女に引き継ぐ意向を示した。
短期間で別の私立小か、公立小へ入学手続きをしなくてはならない。
その少し前に行われた系列保育園の修了式で、籠池氏は耳を疑うような話をした。
恨み節たっぷりの籠池氏の爆弾投下
「財務省に“10日間でいいから身を隠してくれ”と言われた。何も悪いことしてへんのに」
園児の前で悪人イメージを払拭(ふっしょく)したかったのか。実のところは財務省へのブラフ(脅し)だったのではなかろうか。
卒園式の午後、参院予算委の調査メンバーが小学校予定地の敷地内に入ると、籠池氏は「誠に恐縮ですが、安倍内閣総理大臣の寄付金が入っております」と発言。小学校前に詰めかけたマスコミは騒然となった。無理もない。安倍首相は国会で「私や妻が(国有地払い下げに)かかわっていたのなら総理大臣も議員もやめる」と断言しているのだ。
「森友学園がんばれー。籠池さん負けるなー」などと森友学園の支持者とみられる女性が叫び続け、わざわざマスコミに近寄って話している籠池氏の声をかき消す。別の団体は「森友をいじめるな。いじめるんなら朝鮮学校や」と不穏当なことを言い、警官が出動した。応援しているのか邪魔しているのかわからない。
「心が通じ合っていた」と信じ、野党やメディア攻勢にも安倍夫妻を守り続けたつもりが、稲田防衛相や安倍首相に手のひらを返したような態度をとられた籠池氏。「馬鹿にしやがって」と怒りが抑えきれなかったのだろう。
籠池氏からの聞き取り後、参院予算委の調査メンバーは「昭恵夫人が100万円を渡した」と自信を深めた。自民党も支持率下落をおそれて証人喚問を認めた。この日、籠池氏は吹っ切れた表情だった。
そもそも、森友学園問題の火つけ役は豊中市議の木村真氏(52)だった。
「赤い中華料理屋」と呼ばれた校舎
昨年、建設現場で児童募集ポスターに驚き、近畿財務局に情報公開を求めたところ、売却金額などが黒塗りで出てきたため、行政訴訟を起こした。
「なぜ隠したか、から真実を明かしたい。籠池夫妻の特異なキャラクターよりも大事なのは国有地がなぜ破格ダンピングされたかです」
と話す木村氏は、22日に同局を背任罪で刑事告発した。
籠池氏との関係が取りざたされた自民党の鴻池祥肇参院議員が「赤い中華料理屋」と呼んだ校舎はどうなるのか。財務省は「更地にして返してもらうのが原則」とするが、籠池氏には解体費用もないとみられる。
安倍首相は、昭恵夫人が名誉校長を強引に引き受けさせられたと説明している。たしかに籠池氏の国粋主義思想への共鳴というわけではないだろう。各地で講演などをする中、小学校教育に関わって“子どものことがわかる女性”を見せたかったというのが本音ではないか。
しかし、昭恵夫人は、子どもらしくない園児の整然とした態度に「礼儀正しい」と感激してしまった。
いずれにしても、籠池氏との接点は不透明なまま。口をつぐんだままではすまされない。
(取材・文 ジャーナリスト・粟野仁雄)