古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第18回は樋口卓治が担当します。

有働由美子 様

 今回、私が勝手に表彰するのはNHKアナウンサー・有働由美子さんである。

有働由美子アナ

 「いいアナウンサーは、自我と無我の使い分けが絶妙だ」

 古舘伊知郎が、TBSアナウンサー・安住紳一郎を褒めたたえたときの言葉だ。

 その言葉を聞いて、「なるほど!」と膝を打つ。もう一人それにあたるアナウンサーがいる。その女性版といえば有働由美子アナウンサーだ。(※以下、有働アナ)

 『あさイチ』(金曜)のプレミアムトークで、ゲストに対して、有働アナの自我と無我の使い分けが心地いい。ゲストが語っているときは、無我の境地で、自分の存在を消して聞き手に回り、ゲストを乗せるとき、首がもげるほど頷(うなず)き、熱烈な自我オーラを振りまく。ゲストはこの使い分けによって、楽しそうに喋っている。このハイブリッド感覚、なかなかできるアナウンサーやタレントはいない。

 有働アナといえば『ワキ汗』『つけマツゲ』と失敗談が印象にあるが、あれを共感に変える変換力にも感心する。もちろん、イノッチの優しい包容力のおかげもあるが、楽しい出来事として視聴者の記憶に刻むことができるのは才能なんだと思う。

 NHKアナウンサー、ノリのいい女子、純真乙女、大阪のおばちゃんと、有働アナはいろんな顔を持っている。

 ある時、矢沢永吉に単独インタビューをしていた。その時の有働アナは、完全にいちファンの女性だった。赤いドレス姿で、しなを作り、うっとりしながら永ちゃんの話に聞き入る。すると、世界のYAZAWAはバラードを歌うように気持ちよさそうに喋っている。

 ゲストによってキャラまで変化させる柔軟さがある。

 また、紅白歌合戦では、選ばれし出場歌手の品格を少しでも上げようと、雄弁なアナウンスをする。この大舞台を立派に務め上げることこそが、歌手をリスペクトするってことを知っているのだ。

 きっとテレビをわかっているのだ。

「わかっている」というのは「テレビを好き」という意味で、常に視聴者の視点でいられること。これもまた才能。

 台本を読むことがゴールではなく、人を楽しませるのがゴールなのだ。

 多分、有働アナは自分が傷ついたとき、テレビやエンタメに助けられたから、自分もそんな落ち込んでいる人に向けてテレビに出ている気がする。

 著書『ウドウロク』(新潮社)に、かつて売春、覚せい剤に手を染めたことのあるAちゃんという、高校生に取材をしたときのエピソードが書かれていた。Aちゃんに「売春はやめたほうがええで」という言葉をぶつけたとき、「なんで?」と聞き返され、言葉に窮したという。Aちゃんは売春することで母親に仕送りをしてきた。そんなAちゃんに、なんの疑いもなく自分の常識をぶつけ同意を求めた。その日から、自分の言葉を疑った。

 以後、有働アナの言葉はAちゃんとの出来事の同心円から発せられる、責任のある言葉たちなんだろう。

 テレビは社会を映す鏡である。

 その鏡にはいつも自分が映っていて、それを知った上で放送を続ける、送りっ放しのメディアであることを、有働アナのひょうきんなふるまいから感じる。

 それが、今回、NHKアナウンサー・有働由美子さんを勝手に表彰した理由である。

 

【プロフィール】
◎樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)