裁判資料を見ながら当時を振り返る藤井さん

 ある日当然、知らないメールアドレスから受信した怪しげなメッセージ。岡山県に住む藤井義人さん(仮名=40)は、削除することなく、メールの送り主を相手に訴訟を起こし「当選」金額の一部をゲットした。

《※無料当選※現金500万円お振込!!》《※完全無料にてお受け取りいただけます※》

 藤井さんのパソコンにこんなメールが届いたのは、'10年3月のこと。アドレスに見覚えはない。差出人は《アクアデイズ》。

「調べてみると、利用したことがない出会い系サイトでした」

 大量の迷惑メールに辟易していた藤井さん。いつもなら相手にしないところだが、“500万円”という一文がふと目についた。

「妙に現実的な数字だなと感じて、“じゃあ、そちらのおっしゃるとおり、すべて無料でいただきますよ”って(笑)」

 メールにあった指示に従い当選の合言葉【優良ご当選】と書いて返信。すると相手は当選金を受け取る前に“1000円の先払い”をするよう要求してきた。「話が違う!」と藤井さんは岡山簡易裁判所へ訴状を提出。簡裁で扱える上限金額の140万円を支払うよう裁判を起こしたのだ。

「アクアデイズのサイトから、運営業者は神奈川県にある『株式会社Bマックス』と判明。法務局で商業登記簿をとったら、実在する会社でした。法人相手に民事裁判を起こすには、登記簿のほかに裁判費用の約3万円と訴状が必要。ネットで書き方を調べて仕上げ、裁判所の窓口で直してもらって提出しました」

アクアデイズから藤井さんに届いたメールの一部

 相手も負けてはいない。弁護士をつけ、裁判所を小田原簡裁へ移すよう申し立てる(のちに却下)。そして迎えた、初出廷の日。

「身構えていたけれど、法廷には誰も現れず、答弁書の提出もなし。アッサリと、相手方から僕へ140万円を支払うよう判決が下りました」

 ところが、相手は控訴。140万円の受け取りはおあずけに……。

「正直、初審で勝訴はしたけれど、“どうせ向こうは支払いを無視して逃げるだろうな”と思っていたんです。だから、控訴されたのはすごく意外でした」

 藤井さんはすぐに控訴棄却を請求するも、それから約1か月後、相手方と100万円で和解に応じた。

「控訴審の初弁論で裁判官に和解を促され、和解金100万円を提示。相手方の弁護士は即承諾しました」

 支払いは毎月10万円ずつ計10回。ソワソワした初の振込期日、藤井さんの口座には弁護士名義で10万円が入金! 以後、滞ることなく毎月の入金が続き'11年8月、100万円を回収!

「僕はラッキーでした。法廷後、相手方の弁護士に“本当にもらえると思った?”と聞かれて。もらえるって書いてあったからと答えたら“普通ペーパーカンパニーやからなあ”って」

 ミラクルな100万円は司法書士試験の予備校代(2期分)に消えたそう。