星屑スキャット 様
今回、勝手に表彰させて頂くのは星屑スキャットさんである。
星屑スキャットって誰だ? そう思った方も多いだろう。星屑スキャットとは、ミッツ・マングローブ、ギャランティーク和恵、メイリー・ムーの3人による、新宿2丁目生まれの音楽ユニットである。
実は僕も彼ら(彼女ら?)のことは昨年夏、『The Covers』(NHK BSプレミア)のゲストに来るまで知らなかった。ゲストに決まって資料をもらってはじめて、彼らのことを詳しく知ったのだが、正直、「大丈夫か」という思いが強かった。
というのも彼らの直前の回のゲストは鈴木雅之、直後は渋谷系の歌姫・野宮真貴。さかのぼれば、井上陽水、福山雅治、吉井和哉、エレファントカシマシなど有名実力派アーティストがズラリと並ぶ。その中に、イロモノ感満載の彼らを登場させて番組イメージが損なわれないかと心配になったのだ。
しかし、司会のリリー・フランキーさんは昔から彼らの大ファンだという。頼まれてもいないのに彼らのためにオリジナル曲を作って、持ち込んだほどの惚れ込みようだそうだ。なるほど。リリーさんが太鼓判を押すなら大丈夫だろう。たぶん。
そして迎えた本番。僕も収録に立ち会った。確かに、その見た目をいい意味で裏切る素晴らしい歌声だった。
だが今回、彼らを表彰したいのは、その歌声についてではない。出演前の打ち合わせの話である。
この番組でカバーする曲は、基本的には出演者に決めてもらうが、こちらから、「たとえばこういうのはどうでしょう」と候補曲を挙げることもある。星屑スキャットの時も何曲か用意していった。女装の3人だから杏里の『CAT’S EYE』とか、そんな選曲だったはずだ。
だが、そんな安易な選曲はまったくあっさり無視された。そして、これまでに番組でカバーされてきた曲の一覧表が欲しいと言われた。
「この番組の中でどんな曲をやったら、一番私たちらしさが出せるかを考えたいんで」
アーティストならば自分の見え方を気にするのは当然だ。しかし、番組のここまでの流れを俯瞰(ふかん)で見て、自分たちの見え方を考える人はなかなかいない。これはプロデューサーや放送作家、番組を作る側の発想である。驚いた。
結局この時、カバーしたのは少年隊の『仮面舞踏会』とうしろゆびさされ組の『バナナの涙』。彼らの戦略は見事当たり、この回の視聴率は『The Covers』3年間の歴史の中でも、かなり上位に入っている。視聴者が彼らの歌声に惹かれたのか、怖いもの見たさだったのか、それともその相乗効果だったのかはわからないけれど。
4月から『The Covers』は月に1回の1時間番組へと変則リニューアルする。放送時間が拡大するため新コーナーが必要になり、星屑スキャットを起用することになった。『BAR好猫』。歌謡曲に精通する3人が昭和の歌手と名曲を紹介するコーナーだ。その打ち合わせでも、彼らのほうから選曲の切り口や構成のアイデアがいろいろ出てきたという。やはり単なる歌い手ではなく、番組制作者の視点も持っている3人なのだ。
そんな星屑スキャットさんには今回「大いなる女装賞」を勝手に差し上げ、勝手に表彰します。
リリーさん作詞の『新宿シャンソン』はほんとイイ曲ですよ。残念ながらリリースはされていないので、聴きたい方は各自ネットで検索してみて下さい。
<プロフィール>
山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『世界何だコレ!?ミステリー』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。