『魔女の宅急便』の作者・角野栄子さん(82歳)、初のライフスタイル本『『魔女の宅急便』が生まれた魔法のくらし 角野栄子の毎日 いろいろ』(KADOKAWA刊)を開くと、カラフルな眼鏡のフレーム、キャンディーのようなネックレスや指輪、そして柄違いで仕立てられた同じ型のワンピースの数々が、目に飛び込んできます。見ているだけで胸がときめくコレクションは、魔法のように毎日を楽しくしてくれそうです。どうしたら、こんなセンスが身につくのでしょうか。

角野栄子さん 撮影/渡邉智裕

アクセサリーには思い出がぎっしり

「本人にはそういう気はないのよね。どうしてそういう生き方になったんだか知らないけど、自分が好きな物、気持ちいい物を集めていって……という感じなの。ワンピースも自分に合う物にはなかなか出会えなくて。襟ぐりが開きすぎていたり、二の腕に合わせると、別の部分がゆるかったり。だから、ずっと同じデザインで、娘のお友達に縫ってもらっています。

 いいと思ったらずっと変えない。最近は選べば生地も安いし、身の丈に合わないものは買わない。1メートル1000円ぐらいの生地で、気に入ったものがあったら買っておくんです」

 むやみにお金はかけなくても、自分好みにはこだわる。見習いたいです。

「私ね、いつもアクセサリーや何かを買うとき、自分に言い訳するの。ブランド品は買わないし、お酒も飲まないし、そういう贅沢はあんまりしてないので、って(笑)。

 私の持っている物でいちばん高いのは眼鏡ね。だけどあとはね、本当にお金のかかっていない物ばかり。私のアクセサリーは、プラスチックや木ですから。毛糸で自分で作った物もあるわね。こういうのはヨーロッパに行くと、たいてい駅の売店なんかに売ってるんです。それを、ひとつ2ユーロとかで買う。それが楽しい。旅のささやかな発見です」

 アクセサリーのひとつひとつに思い出がある、と角野さんは語ります。

「最初に買った眼鏡は、20年か25年ぐらい前ね。レンズを変えて使っています。外国に行って、いいフレームがあったら買って、日本で自分に合うレンズを入れたりします」

 思い入れのある物を大切に使う。心がけたい習慣です。身につける物へのこだわりは、小さいころからあったのでしょうか。

「意外とあったと思う。物のない時代だから、何でも自分で作ったのね。サンダルなんか、下の部分が木で、上にベルトがあるタイプがあるでしょう。(甲のかぶせが)取れちゃうときもあるし、気に入らないときもある。そんなときは、自分で布を加工して、(木の部分に)釘を刺して作ったこともあった。欲しくても思うように手に入らなかった時代だから。でも、可愛いのはきたいな、と思って

 角野さんには、重要なルールがあります。

いいなと思う洋服があっても、手持ちの眼鏡に似合うものでなかったら買わないの。かわいいな、持っててもいいかなって思うときもあるけど、結局着ないから。なんだか、ピラピラとした装飾がついている洋服があるでしょ。あとは、スカートにカットが入っていたり。そういう既製品がいっぱいあるけど、ああいうのは飽きるわね。(シンプルな服は)いつも着てても、アクセサリーすれば変わるでしょう。いろいろ試すのが楽しい」

自分の色を持つと楽。私は「いちご色」

『『魔女の宅急便』が生まれた魔法のくらし 角野栄子の毎日 いろいろ』(角野栄子=著/KADOKAWA)※画像をクリックするとAmazonのページへジャンプします

 自分の色は「いちご色」だと、40代のときに決めたと語る角野さん。ご自宅のリビングの壁も「いちご色」です。

「赤は好きだったけど、赤にもいろいろあるでしょう。少しくすんだ赤がいいなと思って、いちご色。色を統一するってことは、自分は毎日暮らしているからそんなに感じないけれど、来た方の印象には残りますよね。同時に、便利なの。1度いちご色って決めたら、それに合わない色は買わない。ここにね、冴えざえとした緑の戸棚を置くとか考えないですよ。だから、決めるのが簡単。迷わないから。中心をひとつ決めて、まわりを変えていけばいいわけ。1度、色を決めてしまえば、生活が複雑にならない

 24歳で訪れたブラジルを皮切りに、世界各国を旅している角野さん。海外の街並みについて印象的だったのは色だったと言います。

「ギリシャのね、ドアがブルーとか、ドアの下だけブルーとか、そういう町全体の統一感は美しいですよね。どんな田舎に行ってもそれがあるの。日本はないわね。街の色がごっちゃごっちゃでしょ。海外の街では、レストランはレストラン街にあって、住宅は住宅だけ。日本は住宅の隣ににぎやかなお店とかあるでしょ。壁の色も屋根の色も1軒ずつ全部違うし。

 私、せめて屋根の色だけでも日本は統一したらいいと思うのね。例えば、屋根だけ、黒に統一するとか。外国から来た人が空から見るわけだから。今の日本は水色の屋根もあれば、茶色も黒もある。でも、飛行機が下りてくるときに、その国を上から眺めた美しさ、っていうのは大切ですよね

 まるで『魔女の宅急便』のキキがホウキにまたがって空から街を見ているような視点! 「魔法は想像する力」と語り、空想の時間には自由に絵筆を動かすという角野さん。やっぱり、おしゃれな魔女なのかも知れません。

取材後記「著者の素顔」

 誰もが魅了される角野さんの作品の世界。いったいどんなふうに物語を生み出しているのでしょうか。

「映像ね、映像。なんかこう風景っていうか、そういうのを絵のように思い浮かべて文章に直すっていうのはあるわね。言葉だけで作っていくんじゃなくて。例えば、主人公の歩き方とか。言葉の音や響きもとても大事にしています。書き終わったら、何回も声に出して読み、リズムが合わないと直していく」

<著者プロフィール>
かどの・えいこ 東京・深川生まれ。大学卒業後、24歳からブラジルに2年滞在。その体験をもとに描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』(ポプラ社)で作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』(福音館書店)は、1989年ジブリアニメ作品として映画化。産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞、小学館文学賞など受賞多数。