「前々から欲しかったスヌーピー柄の寝具が、4月20日ごろから急に半額ぐらいに安くなりました。長く販売をしている出品者で高評価も100件ほどありました。Amazonで売られており、まったく怪しむことはありませんでしたね」
いつもどおり購入ボタンを押した神奈川県川崎市在住の30代女性は、まさか自分がネット詐欺に引っかかるとは思ってもいなかった。
支払いはクレジットカード。ところが、到着予定日になっても商品は届かない。相手にメールを送っても梨のつぶて。
「少し不安になっていたら、Amazonから返金のメールが来たんです。お金は戻ってきても、気に入った商品が安く購入できるはずだったのに……悔しくて。先方に私のメールアドレスや住所も知られているので、それが悪用されたらと不安です」
4月中旬から、インターネット通販大手Amazon、フリマアプリ『メルカリ』などを舞台に、ネット詐欺被害が多発している。Amazonでは格安で買った商品が届かないというトラブルが頻発。個人間で売買し、ワンクリックで欲しい商品が手に入る『メルカリ』では、現金や無記名の領収書といった売買禁止商品の取引が堂々と行われるようになった。
まったく別の人気サイトで、同時発生した不正売買。ITジャーナリストの三上洋氏は、
「ネットでの売買が一般化したゆえの被害。スマートフォンが使えるようになってからネットへの信頼が高まり、理由もなく信じてしまう結果になったから」
と両社で起きた問題の根っこを同一視する。
Amazonには、Amazon自身が商品を販売するケースと、Amazonのサービス『マーケットプレイス』を利用して一般の出品者が販売するケースがある。今回の詐欺被害は『マーケットプレイス』で起こっている。一見すると一般の出品者か詐欺師か判断するのが難しく、ネット上には「見事に引っかかりました」というような被害報告が並ぶ。
しかし、不思議な点も。
『マーケットプレイス』を通して出品される商品が、新品ゲームの本体が半額に、3万円はするロボット掃除機が1000円以下、大型家電が1円というような格安商品ばかりで、被害金額が膨大にならない。犯人、あるいは犯人一味の狙いは何なのか?
「それが、いちばんの謎なのです」と前出・三上さんも首をひねる。
「犯罪集団は、『マーケットプレイス』の出品者のIDやパスワードを乗っ取り、それを利用して架空の商品を出品します。振込口座を自分たちのものに変え、金銭をダマし取りますが、1円や100円台の商品だと……。
ユーザーの個人情報を狙った詐欺とも考えられますが、Amazonで抜き取れる情報は住所、電話番号、名前、商品情報。これではDMを送る程度にしか利用ができない。謎が多い事件です」
一方の『メルカリ』での売買実態に対しては、
「一般の商取引ではありえないものの売買までまかり通っている。現金やチャージされたSuica、領収書なんかがその最たる例。黒とはいえませんが、限りなく黒に近いグレーです。利用規約で禁止されているはずのクリーニング前の中古制服や医薬品などを見かけることもあります。犯罪の温床となり、違法売買の隠れ蓑にされてしまう可能性があるんです」
と前出・三上さんはバッサリ切り捨てる。
今回問題になった現金の売買は、例えば「3万円分の1万円札」が「3万6千円」と値付けされ売られていた。クレジットカードのキャッシング枠がなくなった人が、現金欲しさにショッピング枠で購入するのではと見られている。
『メルカリ』広報が説明する。
「一部のユーザーから2000円札や印字ミスなどがある現行貨幣について取引をしたい、と要望が上がり、今年2月14日に規約を変更し、現行貨幣の取引も可能にしました。しかし4月に入り4万円が4万5千円で取引されているなど、通常紙幣が額面以上の価格で取引されているのが発見されました。まったくの想定外です。これらはクレジットカードの現金化やマネーロンダリングにあたる恐れがあるとして、ただちに取引を中止しました」
冒頭の女性の場合、Amazonから返金されたため(最高30万円まで)、金銭的被害は免れたが、被った迷惑料、時間のロスなどについては補償されない。
Amazonは週刊女性の問い合わせに、「出品者様が合意いただいた出品規約を順守していない場合は、購入者様に代わってAmazonが早急に必要な措置を取らせていただきます」と回答を寄せると同時に「今般、さまざまな不正行為が横行しており、IT技術の進化とともに不正行為もより巧妙な手口になってきています」と、イタチごっこの苦渋をにじませている。
個人間売買のフリマサイトやオークションサイトのトラブルとなると、運営側はほとんど対応しないという。
国民生活センターは、
「多くのサイトの運営者は、あくまでも取引の場を提供しているというスタンスだからです。問題解決のためには当事者間での話し合いになります。些細なことでもいいので、トラブルにあったら消費者生活センターや消費者ホットラインに相談をしてください」
弁護士法人ALG&Associates東京本部の山室裕幸弁護士は、クレジットカードのショッピング枠を使った現金化について、「クレジットカードの会員規約で禁止されている行為。カードの利用停止、強制退会などの処分を受ける恐れがあります」と指摘。ネットに横行する詐欺まがいの行為について、
「裁判を起こすためには相手の特定が必要ですが、それが難しい。ダマし取られたお金の返済はまず無理です。個人情報も、抜き取られたら戻ってくることはありません」
ダマされたら泣き寝入りしかないのが現実。ただし、盗まれたデータを悪用されクレジットカードなどを使われたとしても、被害者に支払い義務が生じることはないという。
ワンクリックで、何でも手に入るネット取引。便利さの裏には、落とし穴がぽっかりと口をあけて待ち構えている。
前出・三上さんは「誰でも売り手にも買い手にもなれるぶん、リスクがあるということを考えてほしい」と注意を呼びかける。