手紙を代書する女性のお仕事物語

「手紙、鎌倉、文具。原作を読んだとき、まず、これらのアイテムに心惹かれました。そして手紙や人と関わることで成長する女性を描いたり、手紙のディテールを追求したりと、いろんな見どころを持つことができる作品だと感じました」

 こう話すのは、内田ゆきプロデューサー。原作は2017年の本屋大賞にノミネートされた小川糸の同名小説で、主人公の雨宮鳩子を演じるのは、多部未華子。

『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』で主人公の雨宮鳩子を演じる多部未華子 (c)NHK

近年はコミカルな役も演じている多部さんですが、鳩子には本来の多部さんのナチュラルな魅力がぴったりだと思ってお願いしました。鳩子は生まれて間もなく母に捨てられ、祖母から代書屋の後継者として厳しく育てられますが、ひねくれてはいないんです。とても複雑な役の鳩子を、多部さんはさまざまな表情で演じてくれています。ほかの登場人物も、原作のイメージにぴったりの方々にお願いできました」(内田P、以下同)

 祖母(倍賞美津子)の厳しさに耐えきれず、家を飛び出していた鳩子は8年ぶりに帰郷した。不本意ながら、亡き祖母から受け継ぐことになった文具店の本業は“代書屋”。依頼主の気持ちになりかわって手紙をしたためるという、風変わりな仕事だ。

 依頼主がさまざまなら、手紙の内容もいろいろ。どう書くのか? 送り主、受け取った人は、代書の手紙で幸せになれるのか?

 悩みながらもひとつひとつの手紙に丁寧に向き合う鳩子。浮世離れした隣人(江波杏子)の心を軽くする言葉、手紙が縁で親しくなった友人(片瀬那奈)、そして、悩みを抱えながらも人を気遣う観光ガイド(高橋克典)らと触れ合うことで、少しずつ成長、輝いていく。

「鎌倉という土地柄でしょう、鳩子の周りの人々は、すぐに手を出すわけでなく、かといって離れて見ているわけでなく、とてもいい距離感で彼女を支えています。ファンタスティックな雰囲気の作品ですが、鳩子の仕事に向き合う姿勢や、登場人物の抱える問題などには、リアルが詰まっています」

 第5話(5月12日放送)では、客室乗務員の女性(芦名星)が、男爵(奥田瑛二)に連れられて訪ねてきた。

 そして、鳩子に義母への誕生日カードの代筆を依頼。美人だが、“汚文字”なのだ。実母と早く別れたので、義母との絆を大切にしたいという話に、鳩子自身、幼いころに出て行ってしまった母を思う。一方、守景親子(上地雄輔、新津ちせ)にも何か暗い影があることに気づくが……。

本番前に毛筆やペンで練習をする多部

「手紙を通して人と関わり鳩子の人生は豊かになっていきます。亡くなった祖母とも言葉でつながっていくのです。祖母がどんな気持ちで接していたのか、自分はどう生きるべきか。祖母に思いを馳せていきます」

鎌倉で代書屋として歩み始めた鳩子は、さまざまな人と出会い、成長する (c)NHK

 毎話、鳩子が引き受ける手紙は重要なアイテム。原作の挿絵の手紙も担当した萱谷恵子さんが手がけている。ひとりの人が書いたと思えないほど、手紙によって文字が違うのには驚く。直筆ではないとはいえ、鳩子が机に向かうシーンがあるため、多部は毛筆やガラスペンなどで文字を書く練習をしているそう。

 各世代の男性陣のカッコよさ、鳩子と守景との関係の変化なども注目ポイント。

「現場での人気者は“はーたん”(新津)です。“お父さんだよ”と言ったら“はーい!”と上地さんに抱きついて、抱っこされていました。お医者さんごっこが大好きで“先生を信じてください”とキャストのみなさんを順繰りに診察しています(笑)。鳩子が字を書いているときに、とても楽しそうな顔をするんですよ」

 SNS全盛の現代。懐かしい通信手段になりつつある手紙のよさを再発見できそう。

「パソコンなどでは簡単に文章を直せます。でも、手書きの手紙は、相手への思いを強くして集中して書かないと、失敗する。だからこそ、人間関係の深さが表れるのでしょう。私も今作を手がけてから、メールですませていたのが、直筆の手紙を添えるように心がけています。鳩子の成長を見守っているうちに、みなさんもきっと手紙が書きたくなると思います!」