子どもにとって、スマホやゲーム、SNSはどれほど「中毒性」があるものなのか。子どもを持つ親であれば、自分の子どもがいつまでもテレビの前から離れなかったり、スマホを見続けたりしていれば心配にもなるだろう。実際、米国では今、ハイテク機器やネットの子どもへの影響が活発に議論されている。
しかも、こうした議論の最前線に立っているのは、自らもIT企業に勤めるような人たちだ。「親は子どもがいかに複雑なデバイスに触れているのか理解していない」と、元グーグルのプロダクトマネジャーのトリスタン・ハリス氏は先頃、米公共放送PBSのインタビューでこう警告した。同氏は現在、自らが創設したタイム・ウェル・スペントを通じて、中毒性をはらむような機器デザインやサービスの作り方を変えるようハイテク企業に働きかける活動を行っている。
遠足にもタブレットを持って行く
実際、子どもたちが電子機器やネットなどを使う機会は増えている。筆者の子どもが通うワシントン州の学校では、小学校4年生の遠足の持ち物リストの中に「スマート端末」が入っていた。
理由?ワシントン州都に2時間かけて遠足に行くときに、バスの中で使うためだ。学校からのお知らせにはこう書いてあった。「バスでの長時間の移動になるので、児童がスマート端末を持っていくことを許可します。オリンピア(州都)到着後、機器はバスの中に置いていきます」。遠足の道中、バスの中から外を眺めたり、友達とおしゃべりをしたり、歌を歌ったり、ゲームをする時代は終わったのだ。これがテクノロジー時代である。
担任教師の説明では、これは「より現実的な選択肢を与えた」だけの話だ。70人ものエネルギーにあふれた元気な子どもたちを2時間飽きさせず、おとなしくさせておくには便利でもあった。実際、移動中のバスの中は「とても静かだった」という。
ハイテク機器やサービスが多くのタスクを簡単にしてくれたのは、誰も否定しないだろう。小さなデバイスは計算から作曲までしてくれる。しかし、脳科学者の中には、こうした機器やサービスを「電子コカイン」「デジタルドラッグ」などと呼ぶ人たちもいる。実際、ある調査によると、私たちは日に平均150回もスマホ画面をのぞいているという。
シカゴに拠点を置く大手IT企業でプログラミングマネジャーを務めるブライアン・マクドネル氏もこれに同意する。「フェイスブックなどのサービスは、人の脳にドーパミンを発生させ、『お、今成功したぞ』と思わせるように設計されている」と彼は言う。
ドーパミンは代表的な「快楽を感じさせる」神経伝達物質として知られている。フェイスブックの投稿に「いいね!」をしてもらったり、好きなデザートを食べたりするなど、ある行動から快楽を感じられる結果を得られたとき、ドーパミンが分泌される。ドーパミンは心地よく、依存性がある。
マクドネル氏が注目するのは、米国の行動心理学者、B.F. スキナーが1940年代に行っていたオペラント条件付けの研究だ。スキナーはラットでの実験において、ある行動の後に強化(報酬)が行われると、その行動は繰り返されやすくなるという理論をまとめた。しかし、行動の後に罰が与えられると、行動は繰り返されにくくなる。
ハイテク企業にも2種類ある
ゲーム業界には昔からこれを応用したゲームが存在する。こうしたゲームは、プレーヤーに対して一定間隔で小さな成功を与えるように設計されている。ユーザーが長期間利用することによって利益が得られるハイテク企業の中には、こうしたアプローチを応用しているところは少なくない。
もちろん、すべてのIT企業が「強化」という概念に重点を置いているわけではないとマクドネル氏は指摘する。ユーザーが報酬に反応することで利益を得るようなビジネスモデルを築いている企業と、ユーザーに情報を与えることを目的としている企業には明確な違いがあるという。
マクドネル氏に言わせれば、ハイテク機器は「自分のしたいことを成し遂げるためのツール」だ。「中毒性のある行動をさせられることと、自ら欲しい情報を得ることには大きな違いがある」。
こうしたなか、マクドネル氏は小学校に通う2人の子どもたちに対して「スクリーンタイム」を制限している。スクリーンタイムには、テレビ鑑賞やゲームだけでなく、タブレットやスマホ、パソコンを使う時間も含まれている。
実は、米国のハイテク企業に勤める親が、子どもにこうした制限を設けるのは珍しいことではない。
ジョブズは子どもに利用制限を設けていた
ニューヨーク・タイムズ紙の記者、ニック・ビルトン氏はかつて、スティーブ・ジョブズ氏に「あなたのお子さんはiPadが大好きなのでしょう?」と聞いたことがある。ジョブズ氏の答えはこうだった。
「私は子どもにiPadを使わせたことはありません。子どもたちが家でITテクノロジーに触れる時間を制限していますから」。
米カイザー家族財団の調べによると、米国の子どもたちは2週間に50時間以上ハイテク機器の画面を見ているが、マクドネル家では、子どもがハイテク機器に触れられるのは、土曜日の場合、朝10時まで。これはハイテク機器が、本質的に害があるものだからではなく、子どもにはまだ「良い判断」を下す力がないので、ネットなどを使う際は親が管理する必要があるためだとしている。
マクドネル氏に言わせれば、テクノロジーを無制限に使わせることは、子どもに中毒性のある行動に向かわせるようなものだ。同氏は子どもがアプリを使う際も、非営利団体コモン・センス・メディアによる調査を参考にしている。同団体は、子どもが使うテクノロジーの調査や啓蒙活動などを行っている。
そのマクドネル氏もOKを出しているゲームのひとつが、スウェーデンのソフトウエア企業、Mojangが開発する「マインクラフト」だ(ちなみに最近マイクロソフトに25億ドルで買収された)。1億人以上の登録ユーザーを持つ、世界で最も売れたゲームを、ほとんどの親はレゴブロックのゲーム版と見ており、「教育にいい」と思っている。
だが、神経科学者で、『Glow Kids: How Screen Addiction Is Hijacking Our Kids ― and How to Break the Trance(照らされる子どもたち:子どもを支配するスクリーン中毒と、子どもをそこから引き戻す方法)』著者であるニコラス・カルダラス氏はこれに異を唱える。彼に言わせれば、マインクラフトもまた、医学的、神経学的に中毒性が高いという。
「ゲームの世界が持つ、増え続け、終わることのない『無制限の可能性』は子どもに大きな依存性をもたらす。この依存性は、刺激的なコンテンツと重なって、ドーパミン増加をもたらす」とカルダラス氏は話す。
実際、マインクラフトは子どもたちを飽きさせないために、報酬制度を用いているとカルダラス氏は語る。報酬(金やダイヤモンド)は地面に満遍なく、ランダムに埋められているが、プレーヤーはどこを掘れば金やダイヤモンドを見つけられるのか把握できない。
これはカジノのスロットマシーンなどで使われる「変率報酬スケジュール」と同じもので、最も依存性、中毒性のある報酬スケジュールなのだと彼は言う。
スマホ以外に関心を示さないように
冒頭のハリス氏も、インタビューでこの点に触れている。スマホ画面をチェックすることは、スロットマシーンで「どんな目が出たか」を確認するのと同じなのだと彼は言う。これは人々の心をハイジャックし、依存を引き起こすひとつの手なのだそうだ。
ハリス氏の見立てでは、ほとんどの親はハイテク機器が持つこのような複雑な問題には注意を払っていない。しかし、シアトル在住のセラピスト、シエラ・ブレナー氏はそのかぎりではない。
ブレナー氏は幼稚園に通う2人の子どもにほとんどスクリーンタイムを与えていない。「ハイテク機器の登場で私たちは不快なことをどんどんシャットアウトし、都合のいいことだけに集中できるようになってしまった」というのが理由だ。子どもが同じ場所にとどまって画面を見続けることより、遊びを自ら考え、自分で体を動かすことのほうが大事だと彼女は考えている。
子どもが小さかったとき、スマホを使わせていたこともあったという。しかし、スマホを使ったり、テレビを見たりするとき、子どもは「固まって」しまい、「魂が抜けて、ほかのことに無関心になってしまうことに気がついた」(ブレナー氏)。さらに、攻撃的かつ高慢な態度も目立つようになった。
神経科学者のカルダラス氏もこれに同意する。生徒たちがある本をiPadで読んでいるとき、生徒の1人がこっそりとマインクラフトにアプリを切り替えて遊んでいたことがあった。
読書後、教師がiPadをしまうように伝えると、その男子生徒は「しまいたくない!」と叫んだそうだ。「その教師によると、『タブレットをしまうように生徒たちにいうと、いつも2人の生徒が困惑し、反抗する。驚くのは私がしまうように言ったときの彼らの怒り方で、1人は毎回のように憤怒する』という」(カルダラス氏)。
ハイテク機器の利用をやめてみたら
過去の経験からブレナー氏は、2016年9月からスクリーンタイムを1週間に2~3時間から、3~4週間で2時間に制限した。これは、米小児科学会(AAP)が推奨する1日1時間以内より大幅に少ない。その後、子どもに大きな変化が起こったとブレナー氏は話す。彼女の子どもたちは外でほかの子どもたちを誘って、協力的に遊ぶようになったという。最も大きな変化は、子どもたちが主体的に動くようになり、簡単には飽きなくなったことだ。
ハイテク機器の使用の中毒性や子どもへの影響については、まだ確固たる研究結果はなく、「ハイテク機器が子どもを無関心にさせたり、攻撃的にさせる」と結論づけることはできない。しかし、親は自分の子どもにこうした機器やサービスがどういう影響を与えているのか考えるべきだろう。
米『ワイヤード』誌元編集長で、現在はロボット会社3DロボティクスのCEOであるクリス・アンダーソン氏は、自分の子どもにスクリーンタイム制限を設ける理由を、自らもテクノロジーの「危険さ」を目の当たりにしてきたからだと説明する。「自分の子どもには同じ事を経験してほしくないのだ」。
自らの使い方を考えれば、いかにハイテク機器が「魅力的」かはわかるはずだ。自分と同じくらい、子どもが機器やサービスに触れることについてどう思うのか、1度考えてみてはどうだろうか。
<著者プロフィール>Inez Maubane Jones アイネズ・モーベーン・ジョーンズ
◎ライター、編集者(在シアトル)米ワシントン州シアトル在住。子ども向けの書籍「The Content」シリーズを手掛けるかたわら、自身のブログにて教育トレンドや子育て、社会問題などについて執筆している。