左上から時計回りに、吉田鋼太郎、小日向文世、升毅、岩松了、近藤芳正、田中要次、笹野高文

 名脇役として知られる升毅が、公開中の映画『八重子のハミング』で初主演を果たした。実はここ数年、升のように長年のキャリアを経て、ドラマや映画の主役をつかむベテラン俳優が目立っている。

 笹野高史もそのひとりだ。

「舞台、映画、テレビとジャンルを問わず活躍しています。どんな役柄でも独特の味わいを見せ、来る仕事を拒まないことから“ワンシーン役者”を自称していますよ」(芸能プロ関係者)

 そんな笹野は、'15年の映画『陽光桜』で初主演を務めた。同作の監督である高橋玄氏は、彼の主役としての現場での気配りに感心したそうだ。

「自前で現場にお昼のお弁当を差し入れしたり、打ち上げの際にも自前で現金10万円を出してじゃんけん総取りのゲームを企画していました。これまで大物俳優の脇役をされていたので“こういうことを自分もしよう”という思いだったのかもしれません」

 続いて、岩松了。'80年代に演出家として世に出て、脇役としてもシュールなボケで評判を得ていたが、'13年に映画『ペコロスの母に会いに行く』で初の主役をゲットした。

 当時61歳で、ふだんは監督もこなす立場とはいえ、主役は勝手が違ったようで、

「劇中で歌うシーンについて“撮影が終わってホッとしているけど、またもう1曲歌うシーンがあるので完璧にしなければならないです”と不安そうでした。やはりプレッシャーがあったのではないでしょうか」(スポーツ紙記者)

 かと思えば、舞台志向が強くテレビ嫌いを公言していた人もドラマの主役に。“日本を代表するシェークスピア俳優”とも呼ばれる吉田鋼太郎だ。過去の雑誌のインタビューでは、こんな回想を。

《当時は“扱い”の格差が歴然とあり、駆け出しのころに、テレビにちょっと出たときの格差が、僕はすごく嫌で》

 そんな彼が初の主役を勝ち取ったのは、'14年のスペシャルドラマ『東京センチメンタル』(テレビ東京系)だ。バツ3の自由気ままな和菓子職人を演じた。

「お酒が好きで女性が好きで、東京が好きで“こんなおじさんになっていたい”という理想像だったので、吉田さんは適任でしたよ。オファーには“俺でいいのか?”と思ったそうですけどね(笑)」(テレビ局関係者)

 一方、元・国鉄職員という異色の経歴を持つのが田中要次。27歳で俳優になり、'01年に木村拓哉主演のドラマ『HERO』(フジテレビ系)で注目された。

《役者として活動できているのは運の要素が強いですね。しかし、ただの映画好きや裏方で終わらなかったのは、出会った人との縁に救われてきたから》

 過去の雑誌インタビューで振り返ったものの、運や縁だけでは主役は回ってこない。

 今年8月に公開の映画『蠱毒ミートボールマシン』で初主演を果たす。

「中年男のダークヒーローを演じ、アメリカではワールドプレミアとなっています。会見では“『アベンジャーズ』の出演オファーが来ることを祈っています!”などと話していましたよ」(前出・スポーツ紙記者)

 小日向文世も50代で初の映画主演を射止めた。'05年に公開された『銀のエンゼル』だ。

「小日向さんは自分の出身地である北海道を舞台にした映画に出たかったそうです。この映画の舞台は、なんと北海道。お仕事が決まったときは、うれしくてしかたなかったそうですよ」(映画ライター)

 その3年後には、ドラマ『あしたの、喜多善男~世界一不運な男の、奇跡の11日間~』(フジテレビ系)でも主役の座に。不幸が続いて自殺まで考える中年男性を演じた。

「本人は“たまたま自分に合う役や企画があっただけで、これが終わったら脇役に戻るんじゃないですか?”とも」(前出・テレビ局関係者)

 最後は、近藤芳正。20代のころは、舞台に出てもほぼノーギャラで、バイトで食いつないだという苦労人だ。

 苦しい時代も経験した彼は'15年の映画『野良犬はダンスを踊る』で初主演を務めた。しかし、大役に舞い上がりすぎたのか、同作の監督・窪田将治氏からこんな秘話が。

「近藤さんは、この映画で初めてベッドシーンを演じました。同じ日に2人の女性と朝から晩まで絡んだんです。すると翌朝、起きて鼻がかゆいなと思ったら、鼻血が出ていたんですって。“お前、中学生か!”と思いましたね(笑)」

 そんな初々しいオジサンの、ひと味違う魅力はというと、

「脇で芝居された経験が長い役者は、受けの芝居がうまいんです。主役で発信する側になっても、相手の立場になって芝居することができるんですよ」(窪田氏)

 こうした、ベテランの“主役化”現象について『日経エンタテインメント』元編集長の品田英雄氏に話を聞いた。

「話題の若手俳優は主演の数がものすごく増えて、見る側が“また同じ人が同じ役をやってる”という気持ちになります。そのため、制作する側が、それまで脇でやっていた方を主演にすればどうなるかと考えた結果ではないでしょうか。

 また、何十年も見ている人にはベテラン俳優のほうが共感しやすいです。おもしろそうな企画に人気があるだけの若手より、演技のうまいベテランを起用するケースはあると思います」

 若いイケメンもいいけど、経験に裏打ちされたベテランの演技にもぜひ注目を!