イラスト:星野グミ子
'17年4月『ジャニーズJr.祭り』で開演が約2時間押しとなり、大混乱をきたしたデジタルチケット騒動(通称:デジチケ)。実は今回のこの騒動、多くのジャニヲタがヲタ卒(ジャニヲタを卒業すること)することにもなりかねない重要な事件だったのだ──。

 ジャニーズ以外のアーティストはすでにデジチケを定番として取り入れているようだが、いよいよその波が、われらジャニヲタにもやってきた。ところが、ジャニーズ内でのデジチケの仕組みは、まだ定まっていない。

 デジチケが導入されたきっかけは嵐だ。

 嵐の人気はみなさんもご存知の通り。ファンクラブ会員は200万人を軽く超えているという。

 ファンの数が多いほど、さまざまな人種が集まる。世の中の流れから分かるように、チケット転売に対する批判は多い。嵐ほどファンが多いグループともなれば、ファンの意見も一般化されやすく「高額転売なんておかしいでしょう」という人たちが多数派になるのだ。ジャニヲタの意見は希薄化されてしまうのだ。

 そしてその結果、デジチケが導入される。

 過去にも入場時に見せしめかのように無差別で身分確認が行われたり、チケット転売をしたジャニヲタや業者に「1年間会員停止」と書かれた赤い紙(通称:赤紙)が大量にまかれたこともあった。

 しかし、2016年の転売防止声明によって、事務所もようやく重い腰を上げたのである。

 現在のジャニーズのデジチケは以下の3パターンに分類される。

■パターン1) 「携帯QRコード付きデジチケ+顔認証」方式

 申込みの段階で顔写真を提出。その後、QRコードが携帯に送られてきて入場。また、入場時には顔認証なども行われるという徹底ぶり。

 これはコンサート入場の最高の身分確認と言える。

 しかし、そんなことにもめげないジャニヲタは果敢に転売を試みる。転売サイト『チケットキャンプ(通称:チケキャン)』には、

「嵐のチケットお譲りいたします。30代後半女性ですが年齢よりも若く見られるので20代の方でも大丈夫だと思います。髪はロングです」

 のような、顔認証に対応できるような出品が乱立した(ほぼすべての出品者が年齢より若く見えることをアピールしていたのが面白かった)。

 ところが、ほどなくして『チケキャン』から「嵐」の出品が突如としてすべて消された。

「やばい、今回マジなやつだ……」とジャニヲタ界隈のSNSがザワついたことは記憶に新しいところである。

 ジャニーズ以外では『ももいろクローバーZ』や『B’z』などが同様のパターンを取り入れており、顔認証も機械で行う。ところが、ジャニーズは完全デジタルには対応できず、目視で確認という安定のアナログさを発揮した。

■パターン2) 携帯QRコードデジチケ

 最高峰である顔確認……目視での顔確認で満足のいく成果が得られなかったのか、顔認証はシレっとなくなっていた。

 パターン2は入場時に携帯QRコードをかざして座席が分かるというものだ。

 ところが、'17年4月に行われたジャニーズJr.祭りで事故が起きてしまった。これに加えて、液晶が暗いとスムーズに入場できなかったりと問題点は多かったように思う。

■パターン3) 紙チケットQRコード制度

 紙チケットQRコード(通称:紙デジ)。紙チケットが郵送され、そこに書かれたQRコードをかざして入場。もはやデジタルチケットではなくなってしまっているが、ここまでして転売を防がなければいけないという事務所の本気度が見受けられる。

 今のところ、これといった機械トラブルもなく(そりゃそうだ……)おそらくこの形態で今後は落ち着くことになるのだろう。

紙デジ導入で困るジャニヲタ

 そして、コンサートでの席位置にこだわるジャニヲタ(通称:コンサガッツ)たちは、絶望の淵に立たされる。もう好きな席でタレントを見ることはできないのだ。

 一度、最前列でコンサートを見てしまったらもう、戻ることはできない。ジャニヲタにとって、コンサートとは会いに行くものなのだ。

 自分の1メートル先に好きなタレントが立ち止まり、歌って踊る。ターンするごとに汗がキラキラと飛び散る。マイクに入る前の生声が聞こえたりするこもある。

 そして「この席にもう1回でいいから入りたい」とチケットを追加で購入していくのだ。そう、この臨場感にはかなりの中毒性がある。なかには「好きな席に入れないのならもうジャニヲタを辞めたい……」と嘆く人も少なくない。

 一般の方には理解が難しいかもしれないが、「コンサガッツ」を含め、だいたいのジャニヲタが複数の公演を観覧している。「1度しか見ない」という人のほうが少ないとさえ思う。

 わざわざ地方にまで行って“クソ席”で見たいだろうか。

 もしかしたら立ち見かもしれないというリスクを抱えながら遠征したいだろうか。北海道など、ジャニヲタが行きづらい場所のチケット申し込み数が減ることは目に見えているように思う。現状、紙チケですらも札幌ドームは埋まりづらいことを考えると、事務所も何かしら対応に迫られるのかもしれない。

 座席にこだわらないジャニヲタですら「事前に席が分からないのはモチベーションが上がらない」と言っている。公演前に届くチケット入り封筒をドキドキしながら開けるのもひとつの楽しみなのだ。

「アリーナだ! もしかしたらいい席かも!」と分かりコンサート当日までウキウキしながら過ごす。洋服を買ったりネイルへ行ったり……デジチケはその楽しみを奪ってしまうのだ。

 ジャニーズのグループもその真価が問われる。

 ファンサ(ファンサービス)が多いグループは衰退し、エンタテイメントとして魅せることができるグループのみが生き残るのだ。照明、転換、映像、衣装……すべての演出につけてジャニヲタの見る目は厳しい。

 デジチケ導入のせいで、ジャニヲタのモチベーションが下がってしまうと、ほかの場所に楽しみを求めてしまうことも考えられる。座席にこだわるジャニヲタの熱量も下がり、より自分が輝ける場所へ流れていくだろう。

 かくして、ジャニーズ離れ=ヲタ卒が増えると推測されるのだ。そして、デジチケで困るのはジャニヲタだけではない。事務所も相当なダメージがあるのではないかと思う。

 というわけでジャニーズ事務所さん……、デジチケやめない?


<著者プロフィール>
菱ユーキ(ひし・ゆうき)◎ライター。ヲタク経験値レベル100。ジャニヲタ歴30年。アラサーヲタクの代弁使。かつてはメルマガで約1万人以上もの購読者を誇った。

<イラスト>
星野グミ子(ほしの・ぐみこ) ◎イラストレーター。バンドや俳優、アニメなど何かといろんなジャンルの沼にはまりがち。オフィシャルブログ『ハマったもん勝ち 沼ガール!』を運営中。

<今回のジャニヲタ用語集>

【ヲタ卒】ジャニヲタを卒業すること。

【コンサガッツ】席位置にこだわるジャニヲタのこと。