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「別段、生活に困っていたわけではなく、部下と飲みに行くとき、たまたま持ち合わせがなく(銀行カードローンを)使っていました。最初は1万円とか2万円でしたが……」

 東海地方で暮らす中村裕太さん(仮名・31)は、急場をしのぐための軽い気持ちで、学生時代に作った銀行系のカードローンに手を出した。そこが借金地獄の入り口だった。

 仕事は、コピー機販売会社の営業職。20代半ばで外車のディーラーに転職したが、

「営業成績が思うように上がらず、ガクンと年収が下がり生活が維持できなくなりました。家賃を下げたくても引っ越し費用もなく、いちばん大きな固定出費を削れなかった。なんとか取り返すぞと思い、妻にカードローンで家計をやりくりするよう伝えていました」

 1枚目の銀行カードが限度額いっぱいになったところで、どうしてもお金が必要な事情が訪れた。車の車検だ。

「車は仕事でも使うし、車検は通す必要がありました。でも、お金がない、どうしたらいいかと頭を抱えました」

 そこで思いついたのが、別の銀行のカードローンだった。2枚目を作ってなんとかしのいだが、なかなか上がらない収入に重くのしかかったのが、2人の子どもが幼稚園に入る際の入園金、制服などの購入資金だった。

「2枚目のカードの限度額がいっぱいになり、生活が破綻するか、カードを作るかの選択肢しかありませんでした。結局3枚目にも手を出し、総額で150万の借金が……」

 現在は、生活を切り詰めつつ妻にも働いてもらい、なんとか生活を維持している。子どもの将来に向けて貯蓄をしなければならない今も、借金の返済に追われている。

「子どもも小さいし、妻とも関係が悪くなっている。将来が不安ですね……」

メガバンク3行の貸付残高は約1.6兆円にのぼる

 東京都在住の鈴木雄介さん(仮名・57)は、2010年に消費者金融から借りた10万円が、その後に訪れる自己破産へのきっかけだった。

「半月板を損傷し、杖や補装具を購入するために消費者金融から借金しました。そこに母親ががんになり、治療費や生活費の負担が大きくなっていきましたね」

 その後、鈴木さんも糖尿病を発症。仕事をしながら入退院を繰り返す日々が続いた。

「追い詰められたときに目にしたのが、銀行のカードローンの広告でした。本当に借りられるのかと思いつつ申し込んだら簡単な審査で、消費者金融のように収入証明書の提出も不要。会社への在籍確認だけで通りました」

 そのとき、鈴木さんは「これで食いつなげる」と安堵したというが、借金は膨らむばかり。そして、限度額ギリギリになったところを見計らうかのように、銀行からキャンペーンメールが届いた。

「融資枠を増額しますよという案内メールが来て、無理だろうなと思いつつ申し込んだのですが、審査が通って、100万円、200万円と、どんどん上限額が増えていきました。限度額がいっぱいになってどうしようもなくなったとき、別のカードローンで……と思い申し込みました」

 すでに多額の債務を抱えつつも、さらに借金を重ねようとした。1枚目が限度額いっぱいで不安はあったが……。

「2枚目も簡単に審査が通りました。もう無理だと思いましたけど、ほかでも借りられてホッとしましたね」

 だが、破滅はすぐに訪れた。2年ほどで消費者金融とカードローンへの借金総額が約650万円に。仕事も体調の悪化から休職。返済にも限界を感じて、弁護士に相談をして自己破産した。

「当時は藁をもつかむ思いでしたけど、考えが甘かったですね。なんとしても返済しなくてはと思っていましたけど、気がついたときにはもう遅かったです。本当に後悔しています」

 現在は自宅で療養しながら、1日も早い社会復帰を目指しているという。

 2016年、個人の自己破産の申請が、13年ぶりに増加した。その背景のひとつにあるとみられる銀行のカードローンが、個人の暮らしを破壊し始めている。

 普段の生活費や医療費などが、個人の生活を追い詰める昨今。経済ジャーナリストの荻原博子さんは、借金の質の変化に注目する。

「遊ぶ金欲しさに借りる人は少ないですね。今は切実に生活するお金を必要とする人が多いです」と指摘し、続ける。

「経済も下降線をたどり、社会保障費も上がる。それなのに給料は上がらない。子どもの入学金や、住宅ローンも払わなくてはいけない。そんな経済状況が、カードローンに手を出す人が多い背景にあります」

 銀行カードローン残高が、急速に増えている。

 2012年までは3兆円台で推移していた総額が、今年3月末には6兆円台に増加。自己破産予備軍の温床になっているという。

「はっきりいって、銀行がこんないい加減にお金を貸すことをするのか、というのが想定外でした。返済能力以上の金額を簡単に銀行が貸してしまっているんです」

 そうあきれるのは、首都圏生活保護支援法律家ネットワーク事務局長の森川清弁護士だ。かつて消費者金融が生活者に貸しつけ高い金利をじゃぶじゃぶ稼いでいたうまみを、そっくり銀行が持っていくのが、今だと指摘する。

 森川弁護士が続ける。

「貸金業法では、貸付金額が50万円を超える場合は、収入証明書が必要で、個人の貸付総額は原則年収の3分の1までに制限されています。消費者金融への規制が非常に厳しくなったんですが、そのかわりになったのが銀行です」

 銀行は貸金業法の規制外だと話し続ける。

「約15%の金利の数パーセントを保証会社である消費者金融にバックするだけで、銀行は痛まず貸せば貸すほど儲かるという仕組みになっています」

 全国銀行協会の小山田隆会長は5月18日の記者会見でカードローン業務について、

「しっかり見直していく必要がある」と、問題があるという認識を示した。

 前出・森川弁護士は、

「銀行の自主規制に任せるのではなく、そこは法規制をしっかりやっていく。これがいちばん大切ですよね」

 銀行のパンフレットは、インターネットなどでも簡単にカードローンの手続きができることをPRする。

 後ろめたい気分で消費者金融の店舗に入って借金をしていた昔の感覚はなく、銀行のキャッシュディスペンサーで預金者と同じように引き出せるため、利用者に“借金の感覚”が薄くなっている。

 前出・荻原さんは、

「いちばんは手を出さないこと。苦しいときも、節約できるところはきっちりと節約して、何とかやりくりをしていく。銀行に預金をしても利子は0・001%しかつかない。一方でキャッシングの利息は14%前後。つまり預金の1万4000倍もの利息がつくわけです。それくらい高い金利を払うことになることをよく認識してほしいですね」