大阪に出張するビジネスマンには、厳しい状況が続いている。
まず、ホテルが非常に取りにくい。
統計を見ても、大阪府のビジネスホテルの稼働率は2015年、2016年と連続で85%を超えており、東京都を超えて全国一位である。この現象は近年になってからで、2011年には70%を下回る稼働率しかなかった。筆者の実感としても、高校野球のシーズン、秋の行楽シーズン(京都に観光客が押し寄せるシーズン)などを除けば、大阪のホテルは空いているという印象が強かった。
ホテルの相場も大幅に上昇した。
筆者が利用していたホテルは、以前は5,000円程度の室料だったが、最近は10,000円を超える日が珍しくない。改装をしたわけでもなく、サービス内容が変わったわけでもなく、値段だけが上がったのだ。満室が続けば、どのホテルも価格設定が強気になる。
これほどまでにホテル事情が変わったのは、明らかに訪日外国人の急増が原因である。この5年間で、外国人の宿泊者数は全国平均で3.9倍、大阪府で4.3倍になった。宿泊者のうち外国人が占める割合は、2016年は全国平均で14.3%、大阪府は32.6%だった。つまり、大阪府では宿泊者の3人に1人は外国人なのだ。
筆者が泊まるいくつかのホテルでも、外国人旅行者は多く、それどころか、外国人の団体客を呼び込んでいるところでは、日本人が圧倒的に少ないことがある。朝食会場では韓国語などの外国語で賑やかとなり、日本人は肩身の狭い思いをする。
「肩身が狭いと言うのならば、別のホテルに泊まればいいだろう」と言われそうだが、混雑する時期は選択の余地もない。実際、多くのビジネスマンたちが「神戸などの遠方に泊まるよりはマシ」と、我慢をして宿泊しているのだ。
一方、ホテルだけでなく、この状況は鉄道会社にとっても追い風である。
関西国際空港に乗り入れている南海電鉄では、空港線の旅客運輸収入がこの5年間で1.8倍にもなった。南海電鉄の旅客運輸収入は2011年までは下降の一途だったが、空港線の躍進とともに息を吹き返したのだ。
インバウンドの急増は大阪だけの現象ではない。羽田空港でも国際線の旅客数は大きく伸びており、京浜急行電鉄も恩恵を受けている。しかし、南海電鉄が受けるインパクトはそれ以上だ。大阪には伊丹空港が残っているため、関西国際空港は国内線の就航が少なく、全体の3割にも満たない。関西国際空港も南海電鉄も、インバウンドへの依存度が高いのである。
インバウンドをどこまで信じるか
南海電鉄は、高野山方面と関西空港・和歌山市方面の2系統に分かれており、営業キロはほぼ同じだが、特急電車の利用では関西空港・和歌山市方面が4倍にもなる。ちなみに、関西空港駅に乗り入れている特急は斬新なデザインで有名なラピートだ。
デビューから20年以上が経過して老朽化も目立つが、そのデザインには古さを感じさせない。1年前には、「スターウォーズ/フォースの覚醒」とタイアップした特別仕様車を走らせたが、見事にマッチして訪日外国人にも喜ばれた。
南海電鉄は、大手私鉄にしては運輸業への依存度が高く、営業利益ベースで50%を占める。運輸業の内訳は、大雑把に言えば、1/4がバス事業、残りが鉄道事業だが、バス事業では空港リムジンバス、鉄道事業では空港線が成長を牽引している。南海電鉄にとって、インバウンドの取り込みは最重要テーマである。
一方で、財務基盤が強固ではないため、強気の投資ができるわけでもない。訪日外国人客の輸送を担っているものの、ホテルは不動産賃貸として供給するだけで、自らのホテル事業を本格化させる計画はない。
2016年には約2400万人の外国人旅行者が日本を訪れたが、政府はこれを2020年に4000万人にする計画である。大いに期待できるインバウンドだが、どこまで期待していいのか。南海電鉄だけでなく、関係する企業にとっては悩ましいところだ。
日本のビジネスマンは大阪のホテル事情に泣かされ続けているが、ここは耐えるしかない。地盤沈下と言われていた大阪が、インバウンドで潤ってきているのだ。
願わくは、政府の計画どおりにインバウンドが拡大し、強気に転じる企業が増えて、ホテルの新築・改築が進んで欲しいものである。
新しい客室が適正な価格で提供されるようになれば、ようやく出張族もインバウンドの恩恵を受けられるのだ。
文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』がある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。