『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)制作発表記者会見

 4月からスタートした昼ドラ『やすらぎの郷』(脚本・倉本聰、主演・石坂浩二、テレビ朝日系)が話題。同じ時間帯の番組の中でトップの視聴率を叩き出すなど、シニア層のハートをがっちりつかんでいる。

 舞台は、テレビ業界に貢献した脚本家、映画監督、俳優、歌手らだけが無料で入れる老人ホーム「やすらぎの郷 La Strada」。ここがとてつもなく豪華なのだ。海を望む広大な敷地は、東京ドーム約30個分。居室はマンションタイプのほか、コテージタイプやヴィラタイプも。食堂やスポーツジムは言わずもがな、温泉大浴場に遊技場、映写室、バーまで! 元CAのコンシェルジュ(常盤貴子)が常駐し、介護や医療のケアも24時間対応。石坂演じる菊村栄が“まさに至れり尽くせり、夢のような施設”と絶賛するのも、そりゃ当然。

 でも、こんな施設に入るには、一体いくらかかるの? 介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんによれば、

有料老人ホームの入居費用はピンキリです。立地、施設のグレード、医療や介護の対応状況、入居時の年齢などによって変わってきます。都内の超高級有料老人ホームには、入居一時金3億円、月額利用料が20万円以上なんてところもあります

 とてもじゃないけど庶民には無理! ドラマほど豪華じゃなくていいから、施設で手厚い介護を受けて暮らすなんて夢物語?

「そんなこともありません。高齢者向けの施設にはいろいろな種類があります。例えば、公的な介護保険制度を利用して入居する特別養護老人ホーム(特養)なら、所得によっては軽減制度を利用でき、月額5万円程度からなので、国民年金だけで暮らしている人でも大丈夫です」(太田さん)

 やはり、頼りになるのは介護保険のよう。

介護保険は負担増が止まらない

 介護保険の現状に、介護福祉ジャーナリストの田中元さんは渋い顔だ。

「介護保険制度は、相次ぐ改正で内容が複雑になり、国民の安心から離れたものになりつつあります」

 なかでも気になるのが、負担増の流れ。’00年の制度開始時、自己負担割合は“誰でも1割”だったが、’15年の法改正で、原則として年金収入280万円以上の人は2割にアップ。さらに、来年8月から、現役世代並みの所得がある人を3割に引き上げる法改正も行われた。

 1か月あたりの高額介護サービス費の自己負担限度額も、今年8月には一般世帯で3万7200円から4万4400円にアップする。

「負担増への不安から、高齢者が生活費を切り詰めたり、外出を控えたり、通院や服薬を減らそうとしているのが心配です。生活の質が落ちて体調を崩して、かえって医療や介護が必要になりかねません」(田中さん)

 8年後の’25年には、国民の3割が65歳以上になる超高齢化社会が到来。社会保障費を抑制したい政府は、将来的にさらなる負担増を課すことが予想される。

制度や施設について元気なうちにリサーチ

 そんな状況の中、安心して余生を送れる“終の棲家”を見つけるにはどうしたらいいの?

「まずは、介護保険制度がどう変わるのか関心を持ち、把握しましょう。国は今、“介護は重度の人も、施設から在宅へ”と舵を切っています。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が増えているのも、そんな理由があるからです」(田中さん)

 前出の太田さんも、

「ひと口に“高齢者施設”といっても特養、老人保健施設、介護療養型医療施設、有料老人ホーム……本当にたくさんあるんです。どんな施設で、どんなケアが受けられて、どんな人が入れて、どのくらいお金がかかるのか? いざ、身内や自分が倒れたときに、バタバタと一から調べるのは本当に大変。元気で余裕のあるうちから学んでおくといいと思います」

高齢者施設の違いが知りたい

 いざ、高齢者向け施設への入居を検討し始めると、その種類の多さに驚き、困惑してしまう……。まず、気になるのが費用だが、

「介護保険で入居できる特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設の3つは、比較的低額できちんとした介護が受けられます」(太田さん、以下同)

 そのほかの施設は?

ひと口に有料老人ホームといっても、介護付きの“介護型”と、介護のない住空間である“住宅型”では、受けられるサービスが大きく異なります。また、施設ごとの差もあります」

 費用だけでなく、介護の対応についてもしっかりチェックする必要がある。また、要介護度が重くなって継続的な医療行為が必要になったときには、退去を迫られるケースも。吉野槇一医師は、

「最期まで手厚いケアを受けるには、介護と医療の連携が不可欠。その施設で、人生の最期を迎えられるのか、“看取り”の対応の有無も確認してください

 では後半は、各施設を8タイプに分けて、それぞれの特徴を具体的に紹介していこう。

太田差惠子著『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本』(翔泳社)より

■リーズナブルに介護を受けられる介護保険施設

【1】手厚いケアで、費用負担が少ない「特別養護老人ホーム」

 通称“特養”。常に介護が必要で、自宅で過ごすのは困難な高齢者が入居できる施設。介護保険制度の“施設介護サービス計画書”に基づき、食事・入浴・排せつなど日常生活全般の介護、機能回復訓練、レクリエーションなどのサービスが受けられる。介護スタッフが常駐しているのも安心。相部屋もあるが、個室も増えている。

 待機者が多く、“数年待ち”のイメージがあるが、地方や郊外などアクセス面で妥協すれば、入居しやすいところも。「急ぐ場合は複数の特養に申し込みをしておくといいですね」(太田さん)。入居は申し込み順ではなく、必要性の高い人が優先される。要介護度が重く、ひとり暮らしの人は優先度が高い。自治体によって優先事項が違う場合もあるので確認を。

【入れる人】要介護3以上。国が定めた理由に該当すれば要介護1、2でも入居できる【メリット】介護保険で入居でき、低額費用で手厚いケアが受けられる【注意点】都心部など立地のよい施設は待機者が多い。医療サポートは施設によって差が大きい【費用目安】★初期費用0円、月額5万~15万円 ★所得に応じた軽減措置あり
 ※費用目安は、3割負担導入前のものです(以下同)

【2】リハビリで在宅復帰を目指す「老人保健施設」

 通称“老健”。入院していた高齢者が“退院となったけど、まだ家庭に戻るのは難しい”場合に入居し、在宅復帰を目指す施設。医師が常勤し、理学療法士や作業療法士などの専門職も配置されている。利用者それぞれの目標に応じた“介護サービス計画書”が作成され、必要な医療、看護や介護、リハビリテーションを受けられる。相部屋、個室の双方がある。

 入所期間は、原則約3か月。その後は3か月ごとに入所が適切かどうか判断される。実際には、長期入所している人も珍しくない。「特養に入居できるまでの“つなぎ”として利用する人も多いです」(太田さん)。

【入れる人】要介護1以上。病状が安定し、入院治療の必要がない人【メリット】介護保険で入居でき、低額費用でリハビリが受けられる。空きが出やすく、入居は比較的しやすい【注意点】入居期間に上限がある(原則として約3か月)。医療保険は使えない【費用目安】★初期費用0円、月額6万~17万円(施設サービス費+居住費+食費+日常生活費など) ★所得に応じた軽減措置あり

【3】長期の療養が必要だったら「介護療養型医療施設」

 通称“療養病床”。急性期の治療は終えたものの、寝たきりなどになり、長期入院が必要な高齢者が入れる医療施設。「かつての“老人病院”の役割を引き継いでいるのが、この療養病床です」(太田さん)。

 介護保険で入れる3つの施設のうち、最も医療や看護に重点を置いている。医学的な管理のもとで介護や日常生活支援が受けられる。レクリエーションなどのサービスはほとんどない。医療の比重が高くなれば、費用も高くなる。医療が必要ないのに、家族の都合で入院が長期化する“社会的入院”を引き起こしやすいとして、国は’17年度末に療養病床は廃止し、老健などへ転換していく方針。

【入れる人】要介護1以上。慢性疾患(持病)などがあり、長期療養を必要とする高齢者【メリット】介護保険で入居できる。病院内にあるので、医療ケアが充実。終末期になっても別施設を探す必要がない【注意点】’17年度末に廃止される見通し。将来も長期的に過ごせるかは不明【費用目安】★初期費用0円、月額6万~17万円(施設サービス費+居住費+食費+日常生活費など) ★所得に応じた軽減措置あり

■お金のかかり方はピンキリの施設

【4】経済的な余裕があったら「有料老人ホーム」

 有料老人ホームは、“住宅型有料老人ホーム”“介護付き有料老人ホーム”“健康型有料老人ホーム”の3つに大きく分けられ、提供されるサービスには違いがある。ただし、健康型有料老人ホームは全体の1%以下。

◎〈住宅型〉介護対応はバラバラ

 有料老人ホーム全体の6割程度を占めている。介護保険の“特定入居者生活介護(特定施設)”の指定を受けていないため、“介護付き”“ケア付き”とは謳(うた)えない。基本的には、食事のサービス、緊急時の対応などの日常生活の支援、レクリエーションを提供。基準が設けられていないため、介護への対応度はさまざま。

 介護付き有料老人ホームと変わらない施設がある一方で、介護サービスがない施設も。その場合、要介護状態になった際には、自分で介護サービス事業者と契約する必要がある。要介護度が重くなったり、認知症になったりすると、退去せざるをえなくなることも。一方、手厚い介護を提供する施設では、オプション料金が高くつく。「初期費用0円、月10万円以内の安価なところもあれば、億単位の超高級なところもあります。費用、介護対応など、慎重に比較検討してください」(東京都高齢者福祉施設協議会会長・西岡修さん)。

【入れる人】自立した人、要介護度の低い人。ただ、要介護度5でも受け入れる施設もある【メリット】かかる費用が施設によってさまざまなので、自分の懐事情に合わせた選択ができる【注意点】高額な入居一時金が必要な施設が多い。介護対応が手薄な場合、自分で訪問介護などの介護サービスを手配する必要がある。要介護度が重くなると住めなくなることも【費用目安】★入居一時金:0~1億円 ★月額利用料:10万~40万円+介護費 ★所得に応じた軽減措置なし

◎〈介護付き〉施設が介護サービスを提供

 都道府県から介護保険の“特定施設”の指定を受けている。食事や清掃がついているのはもちろん、介護サービスは24時間体制で施設(もしくは提携業者)の職員が行う。住宅型有料老人ホームとは異なり、介護にかかるサービスが介護保険の限度額を超えても、追加料金が発生することはない。

【入れる人】施設によって、入居時の条件が“要介護認定を受けていない人のみ”“要介護の人のみ”など、さまざま【メリット】設備が豪華、プラスアルファのサービスが充実しているなど、施設によって“ウリ”が異なるので、自分の好みのところを選べる【注意点】高額な入居一時金が必要な施設が多い。認知症や看取りに対する対応は施設によって異なる【費用目安】★入居一時金:0~1億円 ★月額利用料:10万~40万円 ★所得に応じた軽減措置なし

【5】有料老人ホームより低コスト「サービス付き高齢者向け住宅」

 通称“サ高住”。主に民間業者が運営する高齢者向けの賃貸住宅。名前の響きから、介護付きの住宅と思いがちだが、“住宅型”と“介護型”ではサービス内容が大きく異なる。サ高住は、安否確認と生活相談サービスを提供することが義務づけられている。入居に際して一時金はいらないが、敷金が必要。およそ家賃の2か月~6か月分くらい。賃貸住宅と同じように、退去時に原状回復などの費用を差し引いて返還される。礼金、更新料はかからない。

◎〈住宅型〉介護は自分で! 居宅サービスを契約

介護をしてくれる“施設”ではなく、“住宅”。基本的には自立している人や要介護度の軽い人が暮らす場所だと考えましょう」(太田さん)。多くは、オプション料金を払うことで、食事提供や家事支援などのサービスを受けられる。スタッフ(生活相談員)は昼間はいるが、夜間もいるとは限らない。敷地内に介護サービス事業者が入っているところが多く、介護が必要になったときは、個別に契約する。要介護度が重くなると住み続けられなくなる可能性もあるが、入居一時金を払っていないぶん退去の決断もしやすい。

【入れる人】60歳以上、もしくは要介護・要支援認定を受けている60歳未満の人【メリット】有料老人ホームよりは低コスト。自由度が高い【注意点】スタッフ数が少なめ。特に夜間は利用者の転倒事故などが起きやすく、問題視されている【費用目安】★敷金:0~数十万円 ★月額利用料:8万~20万円+介護費 ★所得に応じた軽減措置なし

◎〈介護型〉24時間介護が可能

 介護付き有料老人ホーム同様に、都道府県から介護保険の“特定施設”の指定を受けている。「住宅型のサ高住とは別ものと考えていいです」(太田さん)。24時間体制で、介護サービスを受けることができる。介護費用は要介護度に応じた定額制なので、出費がふくれ上がる心配がない。ただ、施設によっては自由度が低く、外出制限がある場合も。

【入れる人】施設によって異なる【メリット】24時間体制の施設介護を受けられる【注意点】ケアマネージャーや介護事業者を自分で選べない【費用目安】★敷金:0~数十万円 ★月額利用料:8万~20万円+介護費 ★所得に応じた軽減措置なし

【6】認知症の高齢者向け「グループホーム」

 グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、認知症の高齢者が少人数グループで共同生活を送る施設。入浴・排せつ・食事などの介助や機能訓練、レクリエーションなどが受けられる。できる範囲で家事などにも参加し、その人の能力に応じた日常生活を営めるようにする。なお、グループホームは、その自治体に住民票がある人のみが利用可能。

【入れる人】要支援2、要介護1以上の認知症の人。施設のある自治体に住民票のある人【メリット】小規模施設なので家庭的な雰囲気【注意点】医療依存度が高い状態になると住み続けることが困難に【費用目安】★入居一時金(ごく一部):0~100万円 ★月額利用料:12万~18万円 ★所得に応じた軽減措置:自治体による

【7】低所得者向けの福祉施設「ケアハウス」

 ケアハウス(軽費老人ホーム)は、家庭環境や経済状況により自宅での生活が困難な高齢者のための住まい。自治体の助成を受けているため、低額料金で利用できる。食事や安否確認、レクリエーションなどを提供している。自立している人が対象の“一般型”は要介護になった場合は、外部事業者と契約する。“特定施設”の指定を受けているケアハウスは、24時間体制の介護を受けられる。

【入れる人】自宅での生活が困難な高齢者【メリット】所得の低い人も利用できる【注意点】待機者が多い。一般型は介護がついていない【費用目安】★入居一時金:0~数百万円 ★月額利用料:8万~20万円+介護費(一般型)、10万~30万円(特定施設) ★所得に応じた軽減措置あり

【8】公的な賃貸住宅「シルバーハウジング」

 高齢者向けの公的賃貸住宅。ひとり暮らしの高齢者や夫婦世帯が安心して暮らせるように、段差の解消、手すりや緊急通報システムなどが設置されている。既存の公営住宅やUR賃貸住宅の一部を改修しているところが多い。生活援助員(ライフサポートアドバイザー)が常駐し、日常の生活指導、安否確認、緊急時の連絡サービスなどを提供している。要介護になった場合は自分で介護サービスを手配する必要がある。

【入れる人】高齢者。夫婦での入居可(夫婦のどちらかが60歳以上)。障がい者やその配偶者【メリット】バリアフリーの賃貸住宅で、自由度の高い生活が送れる【注意点】介護サービスはついていない【費用目安】★敷金:0~数十万円 ★月額利用料:1万~10万円+介護費 ★収入に応じた軽減措置あり

<教えてくれた人>

太田差惠子さん
介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長、FP。20年以上の取材活動の実績があり、遠距離介護、仕事と介護、お金と介護のパイオニア。近著に『親の介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版社)

田中元さん
介護福祉ジャーナリスト。出版社勤務を経てフリーに。高齢者の自立・介護などをテーマとした取材・執筆・編集活動を行っている。近著に『サービス付き高齢者向け住宅開設・運営ガイド』(自由国民社)

西岡修さん
特別養護老人ホーム『白十字ホーム』ホーム長、東京都高齢者福祉施設協議会会長、大正大学非常勤講師、NPO法人YWCAヒューマンサービスサポートセンター理事。近著に『家族に介護が必要な人がいます』(朝日新聞出版)

吉野槇一さん
日本医科大学リウマチ科の教授を経て、現在は名誉教授、社会福祉法人白十字会理事。『家族に介護が必要な人がいます』(朝日新聞出版)監修、『泣き笑い健康法』(中経出版)など著書多数