大手回転寿司チェーン店でネタだけを食べ、大量に残されたシャリ(目撃したお客さんが撮影)

 野菜やチャーシューが山のように高く盛られたラーメン、ケーキや焼き肉、ピザの食べ放題……SNSなどの投稿サイトに、食べ残し写真が増殖している。

 あまりのひどさに怒りを覚えた人が投稿したものもあるが、中には外食先で食べ残したことを競うかのように「大量によそったけど、残って困る」「並んで入ったけど、残す」などのコメントがついた写真も。体調がすぐれなかったり、健康管理やダイエットで全部食べきれない人もいるが、残して申し訳ないという罪悪感がある人は悪びれる様子もないコメントを投稿したりはしない。

 首をかしげたくなる写真も見かける。回転寿司店で撮られたと見られる寿司のネタだけ食べられて残されたシャリ。

 目撃した女性は、「シャリを残すなら、なぜお寿司屋さんに? スーパーで刺身を買って食べたほうが安くすむのではないのでしょうか。非常にもったいない」と、嘆く。

 “シャリの食べ残し問題”について、回転寿司チェーンの中には刺身の販売などで対策した店もあるが、大手チェーン店の広報担当者はこう訴える。

「私たちは寿司屋なので、お米にもこだわっています。魚だけでなくお米を含めお寿司をおいしく食べてもらいたい、というのがお店の思いです」

 一方で店側からの投稿が物議を醸すことも。発端は大盛りラーメンの量だ。

 今年3月、大盛りラーメンで人気のチェーン店。店主は量が多いので初めての客に「小」をすすめたものの、その客はあえて「大」を注文、トッピングも増量した。ところが半分以上残して、「食えるわけねーよ」と捨てゼリフを残して帰ったそう。その態度に店側は怒り、「2度と来ないで」という内容をSNSで投稿。賛否両論が巻き起こった。

 大盛りラーメンの店では客の食べ残しに頭を抱える。山のように盛られ、丼からはみ出さんばかりの野菜やチャーシュー。迫力のある写真をSNSに投稿し高評価を得たり、面白半分や流行に乗るためなどの目的から必要以上にトッピングを追加、大量に残す客は少なくないからだ。

 大盛りラーメンを23年前から提供する『らーめんこじろう渋谷店』守屋弘実さんは、

「途中で体調が悪くなったり、想像していた味や量と違う、と残してしまうこともあるので仕方ない場合もあります。ただ、手間ひまかけて一生懸命に作ったものを面白半分で残されるのは嫌ですよ。怒る気持ちもわかる。でも、店は文句を言うほど客側に干渉すべきではないし、だからといって、お客さんもお金を払えばいいって問題でもない

 店と客、どちらが悪いかはひと言ではいえない事情もある。とはいえ、食べ残しは大量廃棄となり、処理にかかる費用も廃棄量が増えれば増えるほど、高額になる。

食べ残しは店にとって気持ち、経営、両方のダメージを食らうんです」(守屋さん)

 また、沖縄で焼き肉や寿司などの食べ放題店『バンボシュ』を営む山内悦子さんは、

「全く手をつけていない肉が大量に食べ残されていたり、テーブルの人数分をそれぞれが持ってきて、食べきれないというお客さんもいました。悪質な場合、厳重注意します」

 同店には食べ放題に慣れていない外国人観光客も多く来店するといい、「食べ残しを減らすため英語など4か国語で多言語カードを作り、外国人にも食べ残しをしないように伝える取り組みをしています」と、対策を明かす。

食べ残しが地球規模のダメージに

 環境省で食べ残し問題に取り組むリサイクル推進室の小林豪室長補佐は、ひとりひとりの食べ残しが大量に集まれば地球規模のダメージをもたらすことについても語る。

食品は捨てられると生ゴミになります。水分を含む生ゴミは非常に燃えにくい。他のゴミよりも焼却のための燃料を消費します。食べ残しを減らすことは、実は地球温暖化対策など環境問題ともつながっている

 そのため今年5月、環境省は消費者庁、農林水産省、厚生労働省とともに、『飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むにあたっての留意事項について』を発表した。

 食べ残しの持ち帰り推進や宴会での食べきり、ほかにも消費者に対し、自分自身の食事の適正量を知ること、食べ放題の店で元を取るために無理して皿に盛らないように、といったことが書かれている。

 外食先で食べきれない食品の持ち帰り運動を長年呼びかけている、愛知工業大学経営学部の小林富雄准教授は、食品持ち帰り用のドギーバッグの利用を推奨。「持ち帰りはあくまでも自己責任という点を理解しましょう」と自己責任を強調する。

 ただし食中毒を防ぐために、

「容器は清潔なものを使う、帰りに寄り道をしない、直射日光が当たる場所には置かない、などに注意し、何が持ち帰れるかを吟味しましょう」

 小林准教授は大量の食べ残しの背景には、バブル時代に食べ物も余ることが豊かさと考えられるようになり、食べ物を持ち帰ることに恥ずかしい感覚が生まれたことを指摘。

「かつて日本は持ち帰りに寛容で、宴会などで余った食材を持ち帰る、折り詰め文化がありました。今の時代に復活してもいいのではないでしょうか」と提案する。

無駄を省く“始末”は日本人の美徳だったが……(写真はイメージです)

 環境省などの資料によれば日本では、本来食べられるにもかかわらず廃棄される『食品ロス』が、年間約621万トン。うち約339万トンが外食や製造業などの食品産業から発生しているという。

 一方で、「日本の貧困家庭は人口の約16%、2000万人ほどいるといわれています」

 そう指摘するのは、生活困窮者らに無料で食材を提供するなどの活動を行うフードバンク『セカンドハーベスト・ジャパン』の田中入馬マネージャーだ。

 今日食べる食事にも困窮する人がいる一方、遊び半分で食べ物を無駄にする人もいる。田中さんは呼びかける。

「食品ロスを減らすためにできることは、外食する際に頼みすぎない、食べきるなど、ひとりひとりの心がけしかないのです。お金を払って購入すれば、自分の所有と考えますが、食べ物の背景には生産者や調理をする人などがいる。その人たちの“顔”が見えなくなっていることも、食をないがしろにする理由ではないでしょうか

 多くの動植物の命をいただいているから「いただきます」。命を無駄にしないという気持ちをもう1度かみしめる必要がありそうだ。