過疎地や離島の高齢者を救うドローン宅配の可能性
昨年11月15日、福岡県の離島・能古島の海岸──最初は小さな点のように見えていた1台のドローンが2・5キロの海を渡り、島の海岸上空で空中停止しながら、荷物をワイヤーで降下させ、地上に降ろした。
このドローンは、福岡市姪浜(めいのはま)のヨットハーバーからやって来た。離陸から荷降ろしまでは、わずか数分。
これは、地域密着のビジネスを地元企業とともに展開する『MIKAWAYA21』による、ドローン宅配の実証実験だ。
「能古島はフェリーなら10分で行けます。でも島には小さな商店が1軒あるだけで品ぞろえが少ない。島民は本島でまとめて買う必要がありました。でも、ちょっとした買い物の需要も多かった。それにドローンで応えるという取り組みです」
そう説明してくれたのは、同社の経営企画部長、神谷智子さん。ドローン宅配の構想が生まれたのは、社長の青木慶哉さんが奈良県生駒市で新聞販売店を営んでいたときだった。
新聞販売店は、新規契約や購読継続のために洗剤やビール券などの商品を配布する。だが、「モノではないサービスができないか」と考え、町の高齢者の「ちょっとした困りごと」をサポートするサービスを取り入れた。電球を替える、草刈り、風呂掃除など何でもあり。30分500円で60歳以上の「ちょっと困った」を解決するサービスは思いのほか評判に。そこで、このノウハウをマニュアル化し、全国の新聞販売店や電気店、クリーニング店などの地域密着ビジネスを行う会社や店舗にコンサルティングする事業を展開。
「いちばん依頼が多かったのが買い物代行で、特に過疎地は危機的でした。そこで出てきたアイデアが、ドローンによる買い物代行だった」(神谷さん)
まず、徳島県那賀町で新聞販売店から離陸したドローンを個人宅前の畑に着陸させる実験を行いメディアで注目を集めた。能古島の実験に参加した人からは、
「昼間は本土への往復で3~4時間はかかる。ドローン宅配で物が届けば本当に便利。また、島には夜間診療所がないから、薬を夜間でも届けてくれたら安心できます」(40代・女性)
「今は車の運転ができるので生活ができているけど、今後できなくなったら、ドローン宅配が物流の手段になっていると楽になるね」(70代・男性)
過疎地の集落や離島に暮らす人々にとっては夢を与えてくれるドローン宅配。しかし、実用化には課題も残る。現在、ドローンの運転はGPSを使ったプログラム操縦が可能だが、航空法により、国へ事前申請をしない限り、目視による手動操縦しか認められない。また、前後左右30メートル以内に建物などの障害物があると飛ばせないというルールも。
「私たちは国交省と組んで実験をしています。政府もドローン宅配に向けて法整備をする動きはありますが、もう少し時間がかかるでしょうね」(神谷さん)
年内には新たに、新聞販売店から過疎の集落まで新聞を運ぶ実証実験を予定している。ドローンが活躍する時代は、もう目の前に来ているのかもしれない。
佐川の配達人が電話注文でローソン商品の買い物を代行
佐伯さゆりさん(39)は、ローソン芦花公園店で『SGローソン マチの暮らしサポート』のPA(パーソナルアドバイザー)を務める。
これは、SGホールディングスとローソンが、’15年から始めた共同事業。展開店舗の半径500メートル以内の佐川急便の宅配便(100サイズまで)を届ける業務に加え、電話注文で、ローソン店頭商品約3000アイテムをユーザーの自宅までPA自身が無料で届ける。ローソン店舗を起点にした自宅への配送プラス御用聞きサービスだ。
現在は、東京都世田谷区内のローソン20店舗で試験的に展開している。
今回はこのサービスの利用状況を知るために、PAの佐伯さんに密着した。
午前、佐伯さんの携帯端末に注文の電話が次々に飛び込んできた。佐伯さんは端末を耳に当て、店舗から要領よく商品をカゴに入れていく。続けて商品を専用のボックスに入れて配達の準備。商品によっては保冷剤を仕込む。地図を見ながら効率よく回る順番も考えながらの作業だ。
「うちの店舗の対象エリアは環状八号線の両側なので、何度も道路を渡らなくてもいいようにしないといけませんからね」(佐伯さん)
荷物を運ぶのは、専用の台車か宅配ボックスを積んだ自転車だ。この日最初の配達は、環八を渡った先のエリア。歩道橋には車イス用のスロープが別についているが、ゆるやかながら長い坂道だ。佐伯さんはそのスロープを軽やかに上る。「私、ママさんバレーやってるから、この仕事はいいトレーニングなんですよ」
到着したのは、古い団地で、その4階が利用者の住まい。もちろんエレベーターなどない。2リットルの水が6本入った段ボールとほかの商品が入ったレジ袋を持って佐伯さんが階段を上っていく。商品を届けると、そのまま佐川の荷物を何軒分か配達して回る。
「利用者さんは、60~70代の方が多いですね。でも、お子さんがいるお母さんやママ友のお茶会のケーキを届けることもあります。介護で買い物に行けない利用者さんも少なくないですよ」
よく頼まれるのは、運ぶのが大変なお米や2リットルの水、ティッシュ、キッチンペーパーなどのかさばるもの。食品も人気があるという。
「ひとり暮らしの高齢者の方には、食べきりサイズのお惣菜、サバの塩焼きなどが人気です。グリーンスムージーもまとめて10本買われる方が多い。コロッケやから揚げも好まれます。注文を受けたら店に頼んで揚げたてを持って行くんです」
利用者にも話を聞いてみた。マンションに単身で暮らす丸山利志子さん(80)はこの日、グリーンスムージーと鶏のから揚げを注文。
「今日はたまたま娘が遊びにきたものでね。ちょうど佐伯さんの話をしていたんです。本当に助かっていますよ。週に1回は必ず頼んでいますね」
同じマンションに住む70代の女性も「佐伯さんが来るのが楽しみなの。助かっていますよ」と言いながら佐伯さんを見つめて涙ぐむのだった。
高齢化社会においてまさに必要不可欠なサービス。しかし、ローソンの店舗数は全国で約1万3000だ。佐川の宅配の一部を扱うとはいえ、やはり無料配送サービスゆえに大きなビジネス展開は容易ではない。今後はエリア拡大に向け、優秀な配達員の確保が課題となる。
“待つストレス0”で働くママもリピ買い『ロハコ』デザイン商品
有田焼の技法を用いたハンドソープボトルや、木箱をモチーフにしたトイレットロールなど、従来の日用品にはなかったおしゃれな商品を販売する、アスクルの個人向け通販『LOHACO』。「くらしになじむ」をコンセプトに、女性を中心に人気を集めている。
「もともとアスクルでは法人向けに、北欧デザインのPB商品を多く手がけてきました。ネット販売なので、店頭で目立つ必要がないぶん、デザイン性を重視した商品開発が可能になる。これは個人のお客様にもニーズがあると思いました」
そう話すのは商品のデザイン制作を担当するバリュー・クリエーション・センターの中里裕治さん。
“除菌”などの効能は容器に大きく表記せず、サイト内で説明すればいい。だから、インテリア感覚で飾れる日用品が生み出せるのだ。
’15年にメーカー21社とともに『東京デザインウィーク』に出展。反応を見ながら商品化したところ、従来品と比較して割高なのにもかかわらず売り上げは想像以上だった。例えば花王の除菌&消臭剤『リセッシュ除菌EX』の場合、発売後の初動の売り上げが通常品と比べて約12倍、10か月後のトータルの売り上げも約7・5倍を記録した。
「将来的には、メーカーとロハコのお客様で商品を作れるようにできたら」(バリュー・クリエーション・センターの早乙女愛実さん)
ネット通販で不便なのは、商品が届くのを待たなくてはならないこと。“忙しい女性の暮らしに寄り添うサービス”を追求するロハコでは、1時間、2時間という小刻みな時間帯で受け取りを指定できる『Happy On Time』を東京と大阪の一部地域(※)で導入している。
一般的な宅配便では、「午前中」と午後は2時間単位の指定枠で21時までの配達となるが、同サービスでは、1900円以上の注文で、8時~22時の間の2時間単位の指定が無料。3000円以上の注文では、6時~24時の間の1時間単位の指定が無料になる。
ロハコのスマホアプリで通勤中に買い物をするという40代の主婦の女性は、「朝注文すれば夜届くのが便利」と語る。「子どもに、“絵の具の筆がすぐに欲しい”とか、“ノートが切れた”と言われても、買い物に行けないこともあるので、助かっています」
別の40代の女性は、「30分の幅でいつ届くかがわかるので、その前にお風呂に入ったり用事をすませることができる」と話し、働くママにとって便利なサービスであることがわかる。利用者としてはありがたいサービスだが、ドライバーの負担がかかるおそれは? ECR本部配送マネジメント配送イノベーションの吉村芳記さんはこう明かす。「多少、プレッシャーに感じるドライバーもいると思います。でも、負荷を減らすためにAIを活用し、精度の高い配送計画を作成する取り組みもしています」
利用者が受け取りやすくなることは、結果的にドライバーの負担を減らすことにもつながる。一般的な宅配の不在率が約20%なのに対し、同サービスで1時間枠を指定した人の不在率は3%を下回る。双方にとってハッピーなサービス。エリア拡大に期待が募る。
共働き家庭の夕食もサポート、人気店の料理も宅配する『楽びん!』
ピンポーン! 「『楽びん!』です!」
夕暮れどき、40代の夫婦と2歳の娘の3人家族、小森さん(仮名)の自宅に楽天のフードデリバリー『楽びん!』で注文した数々の料理が届けられた。この日は、アボカド料理専門店の丼ものやナチョス、スープなどの人気メニューをオーダーし、一家団らんで食卓を囲んだ。
小森さんは、妻が出産後、仕事復帰したのをきっかけに『楽びん!』を使い始めた。手軽に家庭でレストランの味を楽しめることから、月に数回程度、利用するようになったという。
「保育園の帰りに娘が公園で遊び始めたときなど、以前は“早く帰って夕食の準備をしなきゃいけないのに”と焦っていたけれど、今は公園からスマホアプリで注文しています」
現在、『楽びん!』で注文できるのは、都内対象エリア(※)の提携レストランのメニューとコンビニエンスストア・ローソンの日用品。注文は合計2000円以上から可能で、スマホアプリから注文すると約30分~40分で楽天の専任お届けスタッフが商品を届けてくれる。配送料は無料だが、料金はお店の単価に3割程度、上乗せされる。
配送サービスを独自に行っていない、小規模なレストランのメニューも頼めるのが特徴。実際にアプリ上には、雑誌で話題のハンバーガーショップやサラダ専門店、人気カレー店などが並び「あのお店の料理が食べられるんだ♪」と心躍る。提携店舗数は現在約850店で、毎週増え続けている。
「以前は、最短20分で食品や日用品が届くということを売りにしていたのですが、利用件数がなかなか増えなかった。そこで、アンケートを取り、お客様のニーズを調査し直したところ、“おいしい料理を食べたい”という需要が高いことがわかったため、現在のフードデリバリーをメインにしたサービスに変わりました」
そう話すのは、デリバリー事業部の品川竜介さん。このサービスは店舗側にとっても利点が多いという。例えば、もともと男性ビジネスマンが顧客の大半を占めていた丼もの店は『楽びん!』に加盟後、女性の利用者が格段に増えた。丼もの店にひとりで入るのをためらう女性が、配達で注文しているためだ。小森さん一家も「雰囲気的に子連れで入るのに躊躇(ちゅうちょ)するお店のメニューを注文できてうれしい!」と語り、新たな顧客獲得へとつながっていることがわかる。ランチ時にイートインの対応で手がいっぱいで配送をあきらめていた店も『楽びん!』のお届けスタッフを活用し、需要がある顧客に確実に商品を届けられるようになった。
ほかのフードデリバリーサービスとの違いは、
「アプリ上での注文が簡単なこと。それから、お届けスタッフのホスピタリティーの高さ。おいしい料理が早く届いても、お届けスタッフの印象が悪かったら嫌ですよね。『楽びん!』のお届けスタッフは全員が座学と路上研修を受けていて、礼儀正しいんです」(品川さん)
お届けスタッフの人数や配置は、独自システムを使って、これまでのオーダーの傾向やその日の天気、道路状況などから最も効率のいい配置を自動で割り当てるという。
「お客様の声を拾いながら、今後エリア拡大なども検討していきたいと思います」