あらゆる心理誘導テクニックを悪用
「“自分だけは詐欺なんかに引っかからない”と思っている人ほど騙されやすい」
と悪徳商法の被害者心理に詳しい立正大学の西田公昭教授はキッパリ。それを証明するかのように、内閣府が’16年に行った世論調査では、「自分は被害に遭わないと思う」と答えた人の割合は80・7%と高い。
「具体的な対策をしているわけでもないのに根拠のない自信がある人は、詐欺師の格好の獲物です。心理用語で“脆弱性の無知”といいますが、非現実的な楽観主義の傾向が強い。人をむやみに疑わないのは、精神的には健康でよいと思いますが、まさかと思っているだけに、実際に詐欺をしかけられると瞬時に対応できないのです」(西田教授、以下同)
そのほかに狙われやすい人の特徴については、以下に記したとおり。
【1】警戒心がない
【2】情にほだされやすい
【3】深く考えず習慣的な言動をする
【4】見栄っ張り、世間の目が気になる
【5】人に相談せずに何でも急いで決断
いつもは冷静に物事を判断できる人でも、油断は禁物。例えば、オレオレ詐欺の電話がかかってきた際に、
「たまたまタイミングが合うなどして“息子だ”と思ってしまうと、息子の声に聞こえてしまう。“確証バイアス”といって、人は自分が1度こうだと思い込むと、それを実証する情報だけに注目し、ほかの情報は排除してしまうという、心理的な傾向があります。例えば、相手の血液型がA型かなと思うと“A型らしい”言動にばかり注意が向いてしまう」
さらに騙す側は、あの手この手で、こちらの感情を揺さぶってくる。
「詐欺師は親切心や恐怖感、義務感などを駆使して追い込んできます。被害者の中には“怖くて(お金を)出しちゃった”“しょうがないと思った”など、決して欲に走った結果でない場合も多いんです」
そんな詐欺師が使う、心理的な誘導テクニックのひとつが“ハロー効果”だ。
「人には、地位や身分などの目立った特徴に引きずられ、そのほかの特徴や全体の評価まで高くしてしまう心理があります。“有名人の〇〇も参加している”と聞くと、それだけで信頼してしまうのです」
ハロー効果はCMなどでも使われる広告業界では古典的な技法で、これ自体は別に悪いことではない。しかし、「詐欺師はあらゆる心理誘導テクニックを組み合わせて悪用してくる」というから厄介だ。
「例えば、低い要求からOKさせて徐々に高い要求へと上げていく“ローボール効果”を利用して、投資額を引き上げていく。人から何かをしてもらうとお返しをしなければと思ってしまう“返報性”を利用して、無料の試供品から高額商品の購入にこぎつける」
相談者が周りにいなかったり、急いでいたり、不慣れな内容だったりすると、被害者は精神的に“普通じゃない状況”に追い込まれていってしまう。そして最終的に、気がついたら騙されてしまっているというわけだ。
1度騙された人は何度も被害に
騙されると、人は心に傷を負う。次のようなプロセスをたどると西田教授。
「まず感じるのは無力感。なぜ私が……と、がっかりしてエネルギーを消耗します。次に羞恥心。騙されないと豪語していた人ほど、恥ずかしさに身を縮めます。3番目が、現実逃避。もう忘れたいと思う。最後に、楽観視。1度やられたのだから、もうないだろうと思いたいんですね」
だが実は1度騙された人ほど、何度も狙われてしまう傾向にある。
「騙せる可能性があるということで、相手はより積極的に騙しにかかってきます。悪質な業者同士で“騙されやすい人リスト”を交換していたりもするので、いろいろな詐欺師から連絡が来るようになることもある。電話で騙されたのなら電話番号、メールでならアドレスは変えることです。みなさん、なかなか実行しようとしませんが、楽観視が次の被害につながります」
騙されないためにどう対策すればいいのか? 西田教授は次のように提案する。
「私は、見知らぬ人、知っている人を問わず、お金の話が出たら“さしすせそ”を思い出せと言っています」
【さ】さっと頭を切り替えろ。
【し】相手が何者かしっかり調べろ。
【す】相手の口上の罠をすっかり見抜け。
【せ】焦らされたり不安にさせられたりしても精いっぱい我慢しろ。
【そ】行動を起こす前に誰かに相談しろ。
「相談は、家族や身近な人はもちろん、公の相談窓口でもOK。詐欺師の示す番号にかけてしまわないよう、電話の目の前にかけるべき番号や信用できる連絡先を貼っておくのもいいですね」
騙されてしまったかも? と思った場合は、『消費者ホットライン』に相談するのも手だ。
「『188(イヤヤ)』に電話をかければ、自分の住む市区町村の消費生活相談窓口を案内してもらえ、架空請求や悪徳商法による被害などを相談できます」
あの手この手で騙しにかかる詐欺師に対抗するには、こちらも手を尽くして防衛するしかない。ここまでに紹介した対策も含め、虎の巻としてまとめた下の表を家族でチェックして!
1 お金の話が出たら「さしすせそ」
2 知らない電話にはまず出ない!
3 相手の指示した番号にむやみにかけない
4 留守電機能、防犯電話を活用せよ
5 パスワードは複雑に。使い回しは×
6 困ったときは「188」にダイヤル
<教えてくれたひと>
西田公昭さん◎立正大学心理学部教授。専門は社会心理学で詐欺・悪徳商法研究の第一人者として各メディアで活躍。著書に『だましの手口』(PHP研究所)など