介護職に降りかかる災難 カラダもココロも限界に
マイナ保険証に関しては、実は医療現場より介護現場のほうがもっと深刻だ。保険証をよく扱う介護職員と利用する高齢者に、すでに大きな負担がのしかかっている。
まず、通院介助をする際には、利用者の「顔認証」を行うという新たなハードルが加わっている。しかし、高齢者の場合は車椅子、顔に包帯、起き上がれないなど、通院時の状態は多種多様にわたる。
「障がい者や高齢者が、顔認証する際に小さな液晶画面の前でじっとしていられず、読み取れないということもよくあります」
実際、特別養護老人ホームの職員Bさんは、「車椅子の方を抱き上げて顔認証するのが大変。そのうえ、マイナ保険証申請の仕事が増える手間もどうすればいいのか」と嘆く。
もうひとつ、介護職への負担という点では、マイナ化で保険証を預かる責任が重くなることが挙げられる。
「介護施設では83.6%が保険証を預かっていて、通院サポートや薬を代理で受け取るなどしています。しかし、マイナ保険証になったら暗証番号まで預かることになるかもしれません。
トラブルを未然に防ぐためにも、マイナ保険証は預かれないと、9割以上の施設が回答しています」
実印に加え印鑑証明や住民票なども発行できるマイナカードに、保険証まで加わった“最強のカード”が、施設内にたくさんあって、暗証番号と一緒にカードを金庫で管理していたとしても、受診のときに職員が持ち出す。その際に何が起こるかわからない。
通院のためにはマイナ保険証を預かりたいが、犯罪のリスクがあるカードを預かるなんてとんでもない、と職員たちは困惑を隠せない。だからといって、カードや暗証番号を高齢者が自分で管理できるのだろうか。
7月4日、松本剛明総務大臣は閣議後の記者会見で、認知症高齢者を対象に、暗証番号の設定がなくても交付できるようにする方針を示した。けれども、高齢者が暗証番号を覚えられないのは、何も認知症患者に限った話ではない。
また、紙に書いたとしても、自身で保管するのが難しいのは変わらない。
5年後、さらに困ったことが起こると予想されている。何もしなくても自動的に送られてきた紙の保険証と違い、マイナ保険証は自力で5年ごとに更新する必要があるのだ。
「認知症の方だと、更新するかという意思を確認することは難しく、家族などに確認する必要があります」
介護施設が代理申請できない場合、利用者のマイナ保険証がすぐに作れず、施設が診察料10割を仮払いすることになる可能性が大きいのだ。