白鵬との信頼関係
相撲界を背負う大横綱となった白鵬。長年の信頼関係があるからこそ、巡業も大成功に終わったのかもしれない。そんな白鵬とのエピソードを聞いてみた。
「白鵬が十両で優勝した平成16年の春場所、優勝力士たちの撮影に私は遅れてしまって、白鵬に『ちょっと待ってください、写真を撮らせてください』とお願いしたのが最初です。その後の藤沢巡業で、外国人力士に焦点を当てた『I am a Rikishi』(扶桑社)という本の取材で話を聞いたんです。
そのときは、まだ十両だった日馬富士(当時は安馬)が一緒にいて、白鵬に質問してるのに横から日馬富士が『この人のお父さんはモンゴルの大英雄なんだよ』とか先に話してしまう。白鵬はただ口をパクパクしてるだけで、まだ日本語もあまりしゃべれなかったのが印象に残ってます(笑)。
それが今ではあんな雄弁になってねぇ。白鵬は常に向上心があって、積極的なんですよね。“これは何?”ということを恥ずかしがらずに聞けて、納得するまで何度も尋ねてくる。相撲界には細かいマニュアル本があるわけではないから、わからないことも多いと思います。私も白鵬に聞かれたときは、できる限り、全力で応じてきました」
ちなみに、白鵬と横野さんをつなぐきっかけとなった本『I am a Rikishi』は国技と呼ばれる日本の相撲界で、外国人力士たちが言葉や文化の違いに悪戦苦闘しながらも相撲を愛する心を伝えた良書。日本人力士への期待や愛が過熱することもある昨今だけど、横野さんがずっとフェアな目で力士たちを捉えて愛し、伝えてきたことが分かる。
9月場所は残念ながら白鵬含む3横綱が休場だが、そのぶん、新しいスターが生まれる予感もヒシヒシ。場所が終われば、すぐに秋巡業が始まる。横野さんの『相撲巡業の楽しみ方』を手に、レッツ秋巡業!
横野レイコ(よこの・れいこ)◎相撲リポーター 昭和62年からフジテレビ『3時のあなた』『おはようナイスデイ』を経て『情報プレゼンターとくダネ!』のリポーターに。30年以上にわたって相撲の世界を取材し、女性相撲ジャーナリストの第一人者に。若貴ブームの時代には、誰よりも近くで彼らの成長を見守り、著書に『お兄ちゃん 誰も知らなかった若乃花の真実』(フジテレビ)がある。また外国人力士に焦点を当てた『I am a RIKISHI』(扶桑社) 、『朝青龍との3000日戦争』(文藝春秋)など多数。
和田靜香(わだ・しずか)◎音楽ライター/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人VSつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。