軍隊式の研修で「おまえは吃音」

 研修中にパワハラに遭い、命を絶った若者もいる。

 製薬会社・ゼリア新薬工業に勤務していた男性(享年22)が、新入社員研修で、過去のトラウマ体験を告白させられた直後の’13年5月に自殺した。入社して1か月後だった。

 遺族はゼリア新薬と研修の一部を請け負った『ビジネスグランドワークス』、所属講師を相手に、1億500万円の損害賠償を提訴した。玉木弁護士はこの裁判も担当している。

 裁判資料によると、「新人社員意識行動変革研修」では、男性の「吃音(きつおん)」が話題に出た。講師から「おまえは吃音」との指摘がなければ周囲は気づかないレベル。しかし、亡くなった男性は「ショックはうまく言葉に表すことはできない」と報告書に書いている。

 研修では男性の「過去のいじめ」についても取り上げたほか、「何、バカなことを考えている」「いつまで天狗をやっている」「目を覚ませ」「バカヤロー!」など罵声を浴びせていた。

「研修は軍隊式で不適切。“この講習が役に立つとは思えない”と言っている人事担当者もいます。同種の研修後、ほかの企業では会社を辞めた人もいます」

 研修は毎日、午前8時から午後6時まで行われ、さらに自主学習が求められた。試験に合格をしないと、午後9時に再テスト。そのため男性は、「1日6時間の睡眠を確保できるようにさせてほしい」と報告書に書くほどだった。

 男性の自殺は労働災害であると認められた。労災認定後、ゼリア新薬はこの研修をやめている。一方、研修会社は「落ち度はない」として争う構えだ。

 玉木弁護士は「’91年8月の電通過労自殺で、最高裁が企業責任を認めて以降、少しずつですが防止の方向に向かってきています」と分析。’14年には過労死防止法もできた。一方で、「長時間労働につながりかねない」残業代ゼロ法案(労働基準法改正)が動きだしている。遺族の思いとは裏腹に「せめぎ合い」は続く。

取材・文/渋井哲也

ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。いじめや自殺、若者の生きづらさなどについて取材。近著に『命を救えなかった―釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(第三書館)