聞けば聞くほど謎の生活
一方で、誰が働いていて暮らしを立てているのか、首を傾げる住民もいたという。
「ご主人はブローチやペンダントなどの装飾品の彫刻をする職人らしいけど、1度も作っているところや作品を見たことはありませんしね」
と語り、一家のことを知る住民は、
「でも、なんかお金はあったみたいなんです。近所に旅行のお土産を配ったり、子どもが生まれたばかりの人にベビー用品を配るというか押しつけたり、駐車場の車も突然買ってきたみたいなんですよね」
と首を傾げる。
さらには、1~2か月に1度、近くの宗教施設に顔を出す信心深い一面もあった。
「お盆やお正月にも必ずお参りにきてくださいました。高価なお菓子とか、見たことのない豪華なお花とかをお供えしてくれます」
と、同施設の関係者は感謝する。容疑者の自宅からもお経や鐘の音が聞こえていた。
では、お供えやお土産、車を購入するお金は?
この道30年の錺職人は、
「60代でちゃんとやっていれば、家を建てられるくらいの稼ぎはあったはず」
と明かすが、老眼のため70歳前後に引退する人が多い世界で、容疑者は68歳。一線で働ける年代ではなく、収入も若いころのようには見込めない。
万引きで手に入れた商品を現金化していたのか。
聞けば聞くほど暮らしは謎だらけだ。
容疑者一家について、古くからの住民は、
「表面的で当たり障りのないことは話してくれるのですが、深いところまでは絶対に話さない」
と、警戒心の強い霜鳥容疑者の様子を感じ取っていた。
「すごく外面を取り繕っているような印象を持っています。知らない人の家の前まで雪かきや掃除をしたり、地区の集まりに積極的に参加している姿が、どうも私たちはこれだけやっています、というのを見せつけるというか、押しつけがましいというか。
隣近所にものを配る際も、私の知人が断ると、“うちの人が買ってきちゃったから”と強引に押しつけていく」
と、話す住民もいた。
実際、トラブルになったという男性に話が聞けた。
「うちの玄関は道路から少し離れていますが、以前、道路から入ってきて玄関先まで雪かきをされたことがあります。気持ち悪くて“やめてくれ”と言ったら、それ以来、あいさつすらしなくなりましたね」
野良猫に餌づけをしたことを注意した人を、怒鳴りつけていたこともあるという。
度重なるトラブルに一家と距離を置いたり、対応に悩む住民も少なくなかった。
一体、どれが本当の顔なのか。表と裏が多くとらえようがない。
近所の人は、怯えながらこんなことを口にした。
「ご近所とトラブルになっても非を認めない、絶対に謝らない人でしたからね。戻ってきたらどうなるのか……」