【被害者の最低所持金は500円。殺人の対価になりうるのか?】
容疑者は性的暴行と金銭目的もあったと供述している。
「例えば強盗殺人は金銭を目的とし、その手段として殺人を選択している。しかし今回の事件で容疑者が求めているのは、人を殺すということが目的であったと推測でき、金銭目的や乱暴目的だと供述していたとしても、それは2次的、3次的な動機で、あわよくばというレベルです」
と出口教授は指摘する。遺体の一部を部屋に保管していたことも出口教授が知る殺人犯とは違っていると続ける。
「刑務所などでさまざまな殺人犯と面談しましたが、死体と一緒にいたいと話す殺人犯に私は会ったことがありません。殺人をしてしまったら、死体を遠ざけて遺棄したいと思うものです。だから今回は非常にレアなケースだといえる」
【立て続けに9人も殺害。発覚しやすいのになぜ?】
「殺害をするときや解体をするときに、かなり強い快感があった。だから次もやろう。もっと強い刺激や快感があるかもしれないと繰り返していくわけです。薬物依存と同じような状態であったのではないかと考えられます」
快楽殺人の様相も見える事件で、容疑者は死にたがっている人間にまんまと接触し、口車に乗せ、犯行現場に誘い込んだ。その手口は、手慣れたものだ。
「普通の人は、コミュニケーション能力をよい方向に使う。しかし彼は、悪用する術として使用して、被害者を自宅に誘い込み殺害した。容疑者はコミュニケーション能力が非常に高く、社会生活の中で培った経験から、その素顔を使い分け、誰にも怪しまれないように、善良な人間を演じていたのでしょう」
【被害者たちはなぜ、容疑者の部屋に素直に入ってしまったのか】
犯行現場になったアパートは、線路沿いに位置する。電車の通過音は頻繁で、近くには米軍座間キャンプがあり、
「戦闘機の飛行訓練の音に、住人は慣れていますよ」
と近所に住む50代の男性。物音に慣れっこになっていたからか、殺害の際の物音に気づく近隣住民はいなかった。
「自殺願望者は、見知らぬ人に頼り、自分を追い込もうとする。何度も自殺に失敗している人ほど途中で断念しないように“監視要員”に頼るのです」(前出・渋井氏)