まだまだ謎が多い、横綱日馬富士の暴行事件。“ビール瓶で殴打”で思い出されるのは、10年前に起きた『時津風部屋力士暴行事件』。
この事件では新弟子として入門した17歳の少年が暴行を受け、死亡している。その後、日本相撲協会は、
「稽古の内外を問わず力士に対する暴力を根絶する」
という再発防止策を文科省に提出している。
そのため各部屋は稽古場から、気合を入れるために使用していた竹刀や木刀を撤去するなど、対応はしていたのだが、土俵の外までは管理できなかったようだ。
関係者の話を聞いてみると「傷害事件にまで発展するほどではないが、大小さまざまな暴行やいじめは現在も根絶されていません」と言う。
取材陣に対する暴行事例も
暴行は力士間だけではない。
実は表に出てくることのない取材陣に対する暴行も多々ある。事件になるほどの大きさではないが、それでも一歩間違えば大けがをしそうな話を聞いたことがある。
旧知の週刊誌記者が、ある横綱出身の親方に浮上した不倫疑惑キャッチ。親方が滞在していた地方のホテルに出向いたときのことだった。彼によれば、ロビーで直撃取材をしたところ、
「ネクタイを引っ張られ、髪の毛を鷲づかみにされました。罵声を浴びせられ、周囲の人も唖然としていましたよ」
かつては優勝を何度も重ね、名横綱と呼ばれた人物である。
私は新幹線で彼と同じ車両で前に座ったことがる。その親方が、迷惑を顧みず大きな声で携帯電話を使っていたため、注意したら、獣のような目でにらまれた経験がある。
また、ある人気力士の張り込み取材中に、乗っていた車が4~5人の力士に見つかり、囲まれてしまったこともある。この時は車体を激しく揺さぶられ、横倒しされそうになった。
これも知り合いの女性週刊誌の記者の話だが、欧州出身の力士の取材に行ったときに危ない目に遭っている。本人によると
「名刺を出したとたん、“殺すぞ!”と凄まれ、上着の首のところ、首根っこをつかまれて引きずられたことがあります。本当に殺されるかと思いましたよ(笑)」
朝青龍も取材を受けたときに、第一声で「殺すぞ!」と言っている映像が残っているが、前述の親方も同様の言葉を吐いていた。
ある女性ライターの話では、外国人横綱の単独インタビュー中に、押し倒されて暴行を受けそうになり、バッグを置いたまま命からがら逃げだしたこともあるという。これじゃあ、取材するのも命がけだ。
“常識”や“品格”なんていったいどこにあるのだろう。
協会関係者の中には、角界の古い体質を変えるには「100年かかる」という人もいるが、改革の前に親方や力士一人一人の再教育が必要なんじゃないか。
<芸能ジャーナリスト・佐々木博之>◎元フライデー記者。現在も週刊誌等で取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中。