この作品のユニークなところは、現在と過去を行き来しながら年代の違う3人のアリソンが、物語をつないでいくという構成だ。

「父と娘って、照れるし不器用なんですよね」 撮影/伊藤和幸
「父と娘って、照れるし不器用なんですよね」 撮影/伊藤和幸
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「私は今年43歳で、舞台の上でのアリソンと同じ年齢なんですけど、いまだから“ああ、あのときそうだったのか”と理解できることってありますよね。作品の中でも子ども時代、大学時代のアリソンが気づいていないことがいっぱいあって、43歳のアリソンとしてはもどかしかったり“それでいいんだよ”と思ったり。それをすべて、自分のことなのに客観視しながら淡々と進めていく。その構成は、いままでに見たことがない感じです」

 瀬奈さん自身は、宝塚時代のことを振り返って再発見したようなことは?

「ヘンな話、宝塚時代の瀬奈じゅんは“素”の私じゃなくて作った私だから、アリソン以上に客観的に見ちゃうんですね。自分じゃない、みたいな感覚。前世の記憶、みたいな(笑)。だから、アリソンの回想の仕方とはちょっと違うんです。何というか……宝塚を出たとき生まれ変わって、別の人間として生きている感覚です。だから宝塚時代の映像を見たりして思うことは何にもないかな。トップになるまでの葛藤みたいなものは“ああだったね、こうだったな”というのはあるけど、もう浄化されたものなんです、私の中では」

親とは早く離れて理想化してました

 この物語を通して再確認した、家族への思いは?

「私は16歳で親元を離れて、宝塚へ入ったんですね。それからは年に1、2回会えればいいという生活をずっと続けていて。だから、親のありがたみが早い時期にわかっちゃったんです。寮に入って“あぁ、お母さんが作ってくれていたご飯はすごくおいしかったんだ”とか。いまの私の年齢で、仕送りもしてくれていましたし。だから、ちゃんとぶつかったことがないし、あまり甘えてこなかった。

 いまは頻繁に会えるようになって“大切にしなきゃ”と思うんですけど、空白があったぶん、“あれ、こうだったっけ?”ということも出てくるんですよ。離れていたぶん、理想の両親に仕立てちゃっていたところがあって。そういう感覚も今回、生かせるかな?

 重いテーマとはいえ“家族の悲喜劇”が独特のユーモアで綴(つづ)られているところでも、瀬奈さんの魅力が発揮されそう。

「この作品において“喜”の部分は、アリソンが自分のことをすごく自虐的に描いているところなんですね。自分が思い返して“わぁ恥ずかしい、わぁ面白い”というふうに過去の自分に対して思う“滑稽”な部分が面白くて。けっして大笑いするとか、何かギャグを言うようなコメディーではないんですが、ちょっとシニカルな部分も楽しんでもらえたらいいですね

<舞台情報>
『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』
アリソン・ベクダルが2006年に発表した自伝的漫画(グラフィック・ノベル)を女性ばかりのクリエイターが2013年にオフ・ブロードウェイでミュージカル化。大好評を得てブロードウェイに進出し、2015年のトニー賞で作品賞を含む主要5部門を受賞した。日本版では翻訳劇に定評のある演出家・小川絵梨子が初めてミュージカルを手がけることでも話題だ。上演中~2月26日までシアター・クリエ、3月3日・4日 兵庫県立芸術文化センター、3月10日 日本特殊陶業市民会館で上演。

<プロフィール>
せな・じゅん◎1992年、宝塚歌劇団に入団。2005年に月組のトップスターに。『エリザベート』のエリザベート役や『ME AND MY GIRL』のビル役などを演じて人気を博し、2009年に退団。その後は『エリザベート』で女優としてスタート。主な出演作に『アンナ・カレーニナ』、『エニシング・ゴーズ』、『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~』、『ヤングフランケンシュタイン』などがある。

(取材・文/若林ゆり)