「警察」たちも、人が着物を着ること自体に対してヘイトスピーチをしているわけではないので、着物の文化そのものが嫌いなわけではないだろう。むしろ守ろうとしているから、行動を起こしているわけで……。
とはいえ、これが洋服であったのなら、ここまで他人の着こなしにとやかく口出しはしないはず。
どうして、こんな現象が起きるようになってしまったのか。
「マニュアルが好きな人は、得た情報をもとに、帯の幅は何センチ、お太鼓は何センチ、おはしょりは何センチ……と、自分が着やすい感覚ではなく“正解と不正解”で知識を身につけていたりする。だから、そこからはみ出しているように見える人は“間違っているから、指摘しないと!”となるのでしょう」
こう見解を語るのは、東京・渋谷にある着物のアンテナショップ「和風館ICHI TOKYO」のプレス担当、井田真由美さん。こちらは、レトロモダンが基本でありながら、素材などで現代的な要素を取り入れた着物を数多く取り扱っていることで有名だ。
「生地に対してもそうで、いまだに“ポリエステルはニセモノ! 着物は正絹でないと”という認識を持った人が多いことには困っています。ずいぶん前から着物地にはハイテクなポリエステルがたくさんあり、値段もさまざまです。現代の着物業界の中心にいる人たちは、ポリエステルを含め、それぞれの生地のよさを見極めてコーディネートをしたりしていますね」
「この着方だけが正しい」はない
同じく「和風館ICHI TOKYO」のスタッフで、20代の早田さんもこう語る。
「私も学生時代から着物を着ているので、数えきれないほど『着物警察』に遭ってきました(笑)。みなさんパターンはほぼ一緒で、“短い!”“らしくない!”といった、一定の基準からはみ出ていると指摘してくる。私は学生のころから着付けを勉強してきたので、どんな着方でも、むしろ“こういう着方もアリだな”と感じるんです」
また、着物を着慣れている身としては、自分にとってちょうどいい着方をしているのに、勝手に直されるとよけい着崩れてしまうとも。
「以前、お手洗いで手を洗っていたら、いきなり現れた『警察』に帯を引っ張られたんですね。そのときは、お太鼓が短かったので、引っ張られた瞬間に見事にほどけてしまって。でも引っ張った方が、そのままどこかへ行ってしまった。結局、私が自分で直したということがありました」